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推し短歌⑤「女王の教室」

二十四匹の子獅子は巣立つ崖に奇跡の爪痕残して

あらいあい


義務教育に「ゆとり教育」が導入され、「体罰」や「スパルタ教育」といった従来の教育の礎が世間によって砕かれた2000年代初期。
その最中とも言える2005年、突如テレビドラマに現れたのは、全身黒の服装に身を包み、研ぎ澄まされた鋭い目で教室に立つ女教師。
彼女こそが「阿久津真矢」であり、ドラマ「女王の教室」の主人公である。
本作が「問題作」として現在まで語られる所以は、その阿久津真矢の教師像にあった。


「名前を呼ぶ価値もないから」と成績上位者以外のテスト用紙を教室中にばらまき、成績の悪い子供には雑用を押し付けた。授業中トイレには行かせず、夏休みは登校を強制。徹底的な監視体制により生徒は愚か、保護者までコントロールをし独裁的な指導を行う。そんな、放送当時の「ゆとり教育的風潮」に真っ向から対立する過激な描写が話題となった。

当然視聴者やPTAを始めとする諸団体からはクレームが相次ぎ、番組公式BBSや検証番組でも様々な議論が飛び交った。
当時からスポンサーへの風当たりも強く、放送開始から18年経った今では「放送禁止」という噂も飛び交うほどで、近年再放送はされていない。

そんな本作であったが、一方で「阿久津真矢」を支持する声もあった。意外にもそれは、それは小・中学生の子供たちからのものであったという。
「真矢先生、助けてください」
「阿久津先生に怒ってもらいたい」
などの声が、演者である天海祐希の元に届いたという。

激しく賛否両論が分かれるセンセーショナルな内容ではあったが、平成のドラマ史に確かな歴史を刻んだ作品であることは間違いない。


このうたは、
「24人の生徒が真矢に何度も何度も崖に突き落とされても這い上がり、血と涙の試練の中、誰一人として欠けることなく新たな巣立ちを迎えられた。それは正に真矢の言った『奇跡』そのもの(後述)である」
という解釈を描いている。



6年3組の担任として阿久津真矢が受け持った24名の生徒を「二十四匹の子獅子」と表現した。

「獅子は、子を生むとその子を深い谷に投げ落とし、よじ登って来た強い子だけを育てるという言い伝え(通称:獅子の子落とし)」

から着想を得てこのうたを作った。
本作は、実は今回の「推し短歌」の中で一番回数を描き直した作品である。以下、参考まで。

純白は汚れるほどに強くなる

天使が悪魔にならぬよう悪魔になるのを選んだ天使

天使が悪魔にならぬよう悪魔に身売りした天使

天使が悪魔にならぬよう悪魔の衣を纏った天使

天使を地獄へ落とすのはまだ見ぬ奇跡を信じているから




子獅子の這い登る

雌獅子が一つ残った子獅子の奇跡 奇跡

奇跡の子獅子

断崖の乾いた地表に残された子獅子の群れの奇跡の爪痕

二十四匹の子獅子は巣立ち奇跡の爪でまた崖登る


子獅子らの削れた爪に宿りしは二十四つの新たな奇跡

子獅子らの削れた爪に宿りしは雌獅子もまだ見ぬ新たな奇跡

二十四匹の子獅子は巣立つ崖に奇跡の爪痕残して


雌獅子が

あらいあいのメモ帳

当初は対照的な「天使と悪魔」をモチーフに描いてみたが、どうも世界が膨らまなかった。
描きながら出てきた「落とす」というキーワードを元に「獅子の子落とし」にモチーフを変更。

(同じ助詞である「の」が続いてしまったり、子獅子の単位を「匹」か「つ」か「人」か「個」にするか悩んだり、「また」という単語が俗っぽく感じられてしまったり、正しく表現すると長くなりかつ説明的になってしまったり、複数形を「ら」にするか「等」にするか「たち」にするか「群れ」にするかで悩んだり、生徒たちの数を表す「二十四」の音の響きが使いにくかったり、複数形を「ら」にしたらどうにも違和感があったり、うたの最後の方に「爪痕」という単語を持ってこないとピントがずれるという制限があったりー、と、中々しっくりくるものが作れなかった。その最終形態である本作すら、100%のしっくり感はない。)

ただ、一貫してこだわったのは、必ず「奇跡」という単語を使うこと。

なぜなら、阿久津真矢は
「なぜそんなにまで教師を続けることにこだわるのか」
と教職員再教育センターの教官に聞かれたところ、

「教育は奇跡を起こせるからです。 子供達は成長していく中で、私達が予想する以上に素晴らしい奇跡を起こします」

と答えたからである。
私は、本作の番外編ともいえる、亜久津真矢の過去を描いた「エピソード1 堕天使」、「エピソード2 悪魔降臨」が好きである。本作を立体的に仕上げる裏付けの作品であったからだ。私にとってはエピソード1、2が本編であったといっても過言ではない。
前述の彼女のセリフは「エピソード2」のラストに登場し、本編と過去編全てを綺麗に一本の線で囲んだ、今作品の象徴とも言えるセリフであった。
彼女の行き過ぎた教育法と執念は、多大な問題に繋がったと言えるが、同時に、覇気のなくなった教育現場に奇跡を起こしたとも言えるのであった。
そのため、「奇跡」という言葉は何がなんでも入れたかったのだ。



というように一番時間がかかった作品ではあったが、練れば練るほど「うた」というのは感情に訴えかけるパンチがなくなってしまうため、そこの点で懸念が残った。

http://marikoblog.seesaa.net/pages/user/search/?iphone_page_url=http%3A%2F%2Fmarikoblog.seesaa.net%2F&keyword=%8F%97%89%A4%82%CC%8B%B3%8E%BA%81%40%98b&article=%91%97%90M

「『女王の教室 話』の検索結果」(どらまにあ)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E7%8E%8B%E3%81%AE%E6%95%99%E5%AE%A4

「女王の教室」(Wikipedia)

https://www.sanspo.com/article/20211025-TPKJCPN2JVGIJBRONFX37QKHEY/?outputType=amp

「天海祐希『本当に心が痛かった』ドラマ『女王の教室』放送中に小・中学生から手紙」(サンスポ)

https://kotobank.jp/word/%E7%8D%85%E5%AD%90%E3%81%AE%E5%AD%90%E8%90%BD%E3%81%A8%E3%81%97-518983

「獅子の子落とし」(コトバンク)

https://w.atwiki.jp/wiki4_nachu/pages/72.html

「第11話の名言」(2chテレビドラマ板 女王の教室@Wiki)


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