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【ショートショート】幸せの箱

 新居に引っ越した私は、夜中に物音に目を覚ました。恐る恐るリビングに出てみると、そこには一つの小さな箱が置かれていた。見覚えのない箱だったが、不思議と手に取る衝動に駆られた。誰が置いたのかなど、気にも止めなかった。

 箱の蓋を開けると、中には紙切れが一枚。そこには、「この箱はあなたに幸せをもたらす。ただし、願った幸せは見も知らぬ他者から奪うものであることを忘れず、使い方に注意せよ。」と書かれていた。

 半信半疑であったが、試しにその箱に「私に幸せを」と願ってみた。翌朝から、突然私には素晴らしい仕事のオファーが舞い込んできた。驚くべきことに、私はその瞬間から次々と幸運に恵まれるようになった。

 しかし、幸せが1つ1つ舞い込むたびに、私の周りでは不幸な出来事が次々と起こり始めた。友人が仕事を失い、近所の人が病気になるなど、まるで幸せを奪われたかのような状況が続いた。

 次第に疑念がよぎり始めた私は、再び箱に手をかけた。そして、「周りの人たちを幸せにしてほしい」と願った。すると、その瞬間から私の幸運は失われ、周りの人たちも次第に元の生活に戻っていった。

 私は箱の力を恐れ、それを埋めることにした。誰かの幸せは誰かの不幸になり得る、そんな教訓を胸に、私は自分の力で自分自身の幸せを掴むことを決意した。

 しかし、数年後、街中でふっとすれ違った人が同じような箱を手に持っていたような気がした。振り返って探してみても、見当たらなかった。今度は、誰かが私から幸せを奪おうとしているのだろうか。あの箱は自分ではなく、他者の幸せさえ願うことができれば役に立つが…

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