010【来たれ、新たな社会主義――世界を読む2016-2021 】を読んで
書籍情報
書籍名:来たれ、新たな社会主義――世界を読む2016-2021
著:トマ・ピケティ
訳:山本知子、佐藤明子
発行日:2022年4月
内容判定
●読みにくさレベル……【3】
●参考文献……注というよりは出典の明記程度、巻末に参考文献一覧有り
●内容の偏り……格差へ批判的な立場
●内容ページ数……220P
概要
21世紀の資本を書いたトマ・ピケティによるコラム集である。2016年から2021年までのコラムをいくつかのカテゴリーに分けてまとめている。中心的な話題は2016年の後半から2018年の末あたりまでで、この期間はトランプ大統領の誕生やパリ協定、ブレグジットなど、今も盛んに議論が行われるような出来事が起きた時期でもある。
こういった大きな出来事に対して、「経済」「格差」「教育」「ベーシックインカム」「富裕税」などに関して、トマ・ピケティという知識人の視点から書かれた文章を読むことができる。基本的にはフランスが中心としてあり、その次に欧州、アメリカ、そしてその他周辺国という感じである。
どういう人が読むべきか
本のタイトルだけで判断すると、なにかこう……もっと激しい主張がなされているのかと勘違いしてしまうところではあるのだが、内容としてはいたって真面目な時事と格差に関する言及である。格差に関する、もしくはトマ・ピケティの著書をある程度読んでいる人ならば書いてあることは特に驚くような内容でもない。フランスという立場、トマ・ピケティの研究と時事ネタへの関連性、ここらへんをマイルドに読み進めたいならばオススメできる書籍である。格差に関連する書籍は結論こそわかりやすいもののきっちりと内容を理解することはかなり面倒なので、格差に関する分厚い本を何冊も読むよりはこうした読みやすい1冊で著者の考え方に近づくことは有意義であるように思える。トマ・ピケティの本は日本語訳されたものが何冊もあるが、手始めに読んでおくとその他の分厚い専門書への足がかりになるかもしれない。もしくはフランスから見た欧州・アメリカとのつながりを考えるのに役立つだろう。
キーワード
・西アフリカ経済通貨同盟
・男女間の賃金格差
・ベーシックインカム
・黄色いベスト運動
・富裕税
・循環型経済
以下、感想
外装だけを手に取って見るとトマ・ピケティが書く専門書の1つのように思えるが、実際は「21世紀の資本」以後のピケティが書いたコラムをまとめた本である。そもそもこういった本は海外でコラムを書き続けられるような知識人かつ日本でもある程度知名度がある知識人(つまりは目立つ実績を持つ人物)でないと見かけない。もちろん専門書に区分されるようなピケティの本の分厚さを考えると、こういったまだ気軽に手に取って見る気になりそうなコラム集とはどちらの方が読まれているのか気になる部分ではある。
おそらくこういった本を高校生が読む機会はほとんどないだろう。大学生が気まぐれで手に取るか、海外志向が強い、もしくは意識が高い20代から40代あたりの人たちが購入すると思われる。その点では近年のゴタゴタに関してフランス(主に)の視点から書かれている本書の内容は記憶に新しいものが多く面白く読むことができると思う。
これは多少の私的な偏見が入っているかもしれないが、ヨーロッパの知識人は理想論を全面に出ているというか…
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