「転職すべきではない時」があります。

転職の相談に来られた求職者に対して、今は現職に留まった方がいいと伝え、お帰りいただくことがあります。

そうしたケースは、たいてい2つに類型化される気がしています。

じっくりと話を聞くと、転職の「軸」が定まっておらずフワフワしている方がいます。軸というのは、転職にあたっての判断材料となる要素、条件のことです。年収、ワークライフバランス、業種、役職、勤務地など、それは人によって様々ですが、転職という一大決心をするにあたっては、その優先順位付けが重要です。

ところが、ご自身でもそれら要素を挙げることができず、優先順位も付けられない状態の方がいるのです。このような状態で転職することは危険極まりありません。転職してから「こんなはずじゃなかった」となりやすい状態です。

もう1つは、現職へのネガティブな思いが唯一の転職理由となっているケースです。「とにかく残業が多い」「上司と合わない」「賞与が出なかった」、こうしたネガな理由は数限りなくあるものです。しかしこれらは次の会社でも十分に起こり得る話です。その度に転職していたらキリがありません。

その環境でやれることは全てやり尽くしたかどうか。私はそこを聞き出すようにしています。やり切る努力をした人は、すっきりとポジティブな理由を語る状態になっていると感じます。採用側の企業も、そういった「やり切った人」「乗り越えた人」には魅力を感じるものです。

軸が定まっていなかったり、やり切っていない人は、次の会社にも不満を持つ可能性が高いので、私は転職をおすすめしません。転職したくて面談に来られているので、場合によってはご不満を抱えて帰られるかもしれません。でもそこは、安易に転職を促して結果的にご本人も企業も不幸となるくらいなら、そんなプロらしくない売上は要りません。武士は食わねど高楊枝です。

昨年の3月にお会いした若者で、私がやはり「今の会社で学べることはまだまだあると思います。今は残って吸収するべきです」と伝えてお帰りいただいた人がいました。軸が定まらずフワフワしている状態でした。

「なんだよ、転職するつもりで来たのに。それなら別のエージェントに行って求人を紹介してもらおう」

そんなふうに思われたかもしれません。だとしたら仕方ありません。

その人が1年経って、連絡をくださいました。

「阿部さん、覚えてますか。アドバイスの通り、残って頑張りました。もう一度、相談にのってくれませんか?」

たった1年でしたが、転勤されたこともあって逞しくなっておられました。軸も明確に定まっています。今の会社で学べることを貪欲に吸収されたご様子です。年収も一気に上がっておられました。

その方はこの度志望企業の内定を見事手にされて、次のステージにふさわしいその会社への転職を決められました。おじさんエージェント的には感無量です(涙)。こんな言い方をしては失礼かもしれませんが、まるで河に放した稚魚が大海へ出て、荒波に揉まれて立派な成魚となり、再び遡上してきてくれたような感覚です。

Welcome back.

その方の活躍を願ってやみません。

(この投稿はnote開始前のブログで2019年6月2日に発信した内容です)

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