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みちのく潮風トレイル冒険録11:美味しいから揚げに癒される旅(新北上大橋→志津川駅)

 3月。天候も少しずつ春めいてきたので、冒険を再開することにした。
 少々思うところがあって難所雄勝半島攻略は一旦次回に回して、今回は雄勝半島の北側、新北上大橋から南三陸町志津川までの区間を先に歩くことにした。

Day15:新北上大橋→志津川

 2022年3月7日(月)
 朝、前回の帰り道と逆の行程をたどり、仙石線石巻あゆみ野駅からバスで道の駅上品の郷へ、上品の郷からはおがつたなこや行きの雄勝地区住民バスに再び乗車、谷地というバス停で降りる。谷地バス停から本日のスタート地点”新北上大橋”までは、歩いて30分ほどだ。
 新北上大橋のたもとには、有名な震災遺構”石巻市立大川小学校”があるが、本日は時間に余裕が無いため見学は次回、雄勝半島攻略の際に行うことにして進む。
 新北上大橋は新北上川(明治時代の河川改修で作られた、北上川の放水路だ)の河口に最も近い地点に架橋されている大きな橋だ。本日の旅はこの橋を北へ渡るところからスタートするが、この橋の南側は旧河北町に属している。川の南側なのに河北とは妙な地名に感じるが、この場合の河北とは、新北上川ではなく河川改修前の旧北上川の北側であることを指すようだ。

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 橋を渡った北側は旧北上町となる。北上川は東北地方最大の大河で河口付近の川幅は非常に広く、海との境目がどこかわからないほどだ。震災の際はこの北上川を津波が遡上し、大きな被害が出たエリアだ。
 北上川の北側を川に沿って歩いていくと、釣石神社という神社がある。”落ちない石”が御神体で受験生に御利益があると言う神社だが、この神社の境内に、から揚げこっこ屋というお店が営業している。500円の唐揚げを注文すると、「お兄ちゃんもしかしてハイカーちゃんかい?」とお店のおばちゃんに声を掛けられる。実は、この店はみちのく潮風トレイルを歩くハイカーを歓待してくれる店としてハイカーの間では知られているのだ。このお店は注文を受けてからから揚げを揚げるスタイルなので、完成するまで待ち時間がある。この間におばちゃんに促され、これまで訪れたハイカーがメッセージを書き綴っているノートとお店のボードに、私もメッセージを書き込んだ。サンドウィッチマンのサインも書いてあるボードの右下に、小さく海老名と書いてあるのがわかるだろうか。

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 から揚げが出来上がると、「これも持っていきな」と注文していないおにぎりまでいただいてしまった。さらには「インスタにアップするから写真を撮らせて」とおばちゃんと記念撮影まで…。アメリカのロングトレイルでは、トレイルの沿線でハイカーをサポートしてくれる人のことを"トレイルエンジェル"と呼ぶらしい。こっこ屋のおばちゃんは、私がこの旅で初めて出会ったトレイルエンジェルと言えるだろう。
 から揚げは、歩きながら北上川の流れを眺めつつ昼食に食べた。釣石神社の”落ちない石”に因んで山盛りに盛り付けられた"落ちないから揚げ"ということで、ガツンとガーリックの下味が利いていて揚げたてでとても美味しい。おばちゃんの優しさに癒されながら、先へ進む。

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 北上川が注ぐ海、追浜湾という名の湾の北側の国道398号をトレイルは進んでいく。途中、白浜ビーチパークという海水浴場がありトイレがあることを事前にチェックしていたのでここで小休止する計画だったのだが、3月一杯は冬季閉鎖という張り紙がされトイレに入ることができない。困っていると、海水浴場の隣の事業所でお仕事中だった女性に「トイレでしたらうちのトイレを使ってください」と声をかけていただき、ありがたくお言葉に甘えた。旅先でこうしたちょっとした人の優しさに触れることが旅をする醍醐味の一つだと思う。
 国道は時折海が見える程度でやや単調な道ではあるが、途中ニホンカモシカに遭遇した。高地に棲む印象が強く、天然記念物にも指定されているため希少な動物のイメージがあるニホンカモシカだが、東北地方では山を歩いていると割と見かけることがあり、個人的にはそれほど珍しい動物だとも思わない。

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 トレイルは、神割崎という岬に立ち寄る。隣村同士の村人の争いを諫めるために神様が岩を割った、という言い伝えがある岬で、岩の割れ目が現在の地名で言うと石巻市(旧北上町)と南三陸町(旧志津川町)の境界となっている。この岬から北は、長く歩いた石巻の都市圏を離れ、気仙沼の都市圏になってくる。

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 トレイルは、時折国道を逸れて小さな漁港を縫うように進んでいく。

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 途中、南三陸・海のビジターセンターに立ち寄る。ここは名取トレイルセンターのほかに全線に5箇所ある、みちのく潮風トレイルの管理を請け負っているサテライトセンターの一つとなっている。休憩がてら、ここで販売されているみちのく潮風トレイルの缶バッチを購入した。トレイルを歩くハイカーの証として、ザックにつけて歩くことにしよう。
 JR陸前戸倉駅を過ぎたあたりから志津川までは、国道を外れて未舗装路を歩いていく。気仙道と呼ばれる気仙沼方面に向かう江戸時代の道だそうで、旧街道の雰囲気がある。段々と日も傾き始め、人の気配の無い山道を歩くのは少々心細い。

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 本日のゴールであるJR志津川駅にたどり着いた時には、すっかり日も暮れていた。志津川付近は東日本大震災で甚大な被害があったエリアで、駅近くには震災遺構”南三陸町旧防災対策庁舎”もあるが、見学は次回志津川を訪れた際に行うことにしよう。志津川駅はプレハブの駅舎だが、駅員さんがいるので切符を購入する。志津川付近のJR気仙沼線は震災で被災した後鉄道の復旧を断念し、鉄道の旧路盤を活用したバス高速輸送システム(BRT)として復旧されている。運営は引き続きJRが行なっているので、JRの切符でバスに乗ることができるが、新幹線に乗る時と同じフォーマットの見慣れた切符でバスに乗るのは不思議な感覚だ。BRT区間の終点である柳津駅からは気仙沼線の汽車に乗り換え、帰路についた。こっこ屋のおばちゃんにいただいたおにぎりは、気仙沼線の車内で夕飯に美味しく食べた。

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 この日は、30.32kmを7時間22分かけて歩いた。

17.新北上大橋→志津川

 南側のセクションは↓

 北側のセクションは↓

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