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SAAB900Sという車を知っていますか?

2020年に1992年式のSaab900Sに乗り始めたお話しをさせてください。名義変更手続で陸運事務所へ出向いた時に窓口のおじさんに「サーブ?」メーカー名は「トヨタ」とか「日産」と書く欄で、「サーブ」は「ヴィッツ」とかの車名欄に書くんだよ。と言われ、前のユーザーの車検証を指さして「サーブはメーカー名なんですよ。もう自動車は作ってないんですけど・・・」と言うくらいに誰も知らないメーカーになってきているようです。

SAABというメーカーをご存じですか?

2012年に残念ながらSAABという自動車メーカー名はもう消えてしまいましたが、スウェーデンが誇る航空機メーカーが自動車を作っていただけあって、技術者のさまざまなこだわりを見て取れる楽しい車であることも事実ですし、航空機メーカーとしてのSAABも、また中国資本のEV車メーカーのNEVSも存在しています。だけど、やはり、自動車メーカーとしてのSAABはもうありません。

SAABは航空機メーカーということから空力特性に優れたボディであったり、スウェーデン企業ならではの安全性へのこだわり、寒さ対策、雪でも走りやすいなどたくさんのこだわりを形にしていたと知ってはいても実際に乗ったことがある人は意外に少ないと思います。

私が手に入れたのもやはりこのメーカーに実際に触れて味わってみたいというのが一番でありましたが、乗ってみて思うのは高速道路の長距離移動でも疲れないことでした。このボディサイズで500キロとか走るとたいがいは腰が痛くなるものですがそれがない。低すぎず高すぎなく、ラウンドしたフロントウィンドウのおかげでAピラーが視界を邪魔しない良好さ、プラスチックパーツに取り付けられてすぐにビビリ音の出てしまうスピーカーでも前方から聞こえるためストレスが少ないなど、長距離を走る人のことをよく考えられているなあと思いました。

Saab900Sの詳しいユーザーレビュー(Youtube)

https://www.youtube.com/watch?v=VMKd8lNhxhg

YoutubeでSAAB900Sのユーザーレビューを見つけました。実はまだ後部座席の倒し方が分かりません。おそらく先に座面を前に90度倒してから背もたれ部分を前に倒すとフルフラットになるはずなのですが、どこをさぐってもそれらしい動きになりません。どなたか教えていただけたら幸いです。。。

この時期に旧い車を新しく手に入れた理由はいくつもありますが、

コロナに感染した場合きっと私は重症化するだろうと思ったところで、そうかこの車選びは人生最後の車になるかもしれないと強く思いました。死ぬ前に乗りたい車はいくつもありましたが、ちょうど良いタイミングで乗りたい3ドアの900しかもロープレッシャーターボの900Sの中古が手の出しやすい価格で出て来てくれたことで飛びつきました。

SAABブランドの事前の印象はどうだったか?

さて、Saabについて思い出があるという方はおそらく80年代後半のバブル世代から上の年齢の方が多いと思います。まさにバブルの時代、Saab900は六本木カローラ(BMW)より安く買える。さらにカブリオレも買えたいわばお買い得ブランドでした。

クラシック900(以下C900という)と呼ばれるGM配下に入る前のSaab SCANIAの癖が熟成したようなSaab900の中には、Turbo16や、カブリオレなどいくつかグレードがあります。タラデガや初期のGLEもいい。どちらかというと一番安いシンプルなグレードに惹かれる自分としては最後期に出た低圧ターボエンジンを積んだSaab900Sのとりわけ3ドア、さらに人気の黒ではないベージュメタリック色はツボでした。

C900のとりわけ3ドアのものすごく傾斜したリアハッチは外見上の一番の特徴かもしれません。また、リアウインドウのすぐ下に配置されたリアスポイラーが当時「ものすごくかっこ悪く」見えまさか自分がこれに乗るなんて、ましてやこのお尻に惹かれるなんて、その時は思いもしませんでした。

また、前へ倒れるボンネットはただものじゃない感が半端なく、そのラッチ機構はまるでジェット旅客機のドアのそれのように複雑かつ頑丈でそれだけ見てもうれしくなります。さらにスウェーデン鋼で出来たボディはTopGearでジェレミー氏にクレーンで吊っての落下試験でぺしゃんこになった六本木カローラと比較して生存空間が維持される強さを持ち、さらにモデル末期の900Sに積まれたエンジン機構は今の低燃費ターボのきっかけと呼ぶにふさわしい低圧ターボで加速と燃費を両立させたようなエンジンです。

サーブがそれまでAPCシステムとしてインタークーラーをコンピュータ制御でオクタン価が低くても熱価を適切にコントロールし175馬力を出していた複雑なシステムを捨て、95オクタン以上に限定すると共にターボユニットを低圧なものに変更して馬力こそ145馬力に落としたが、中間加速は厚い加速を維持しています。機構を単純にしてコストを落としたのも確かでしょうが、93年以降のモデルは基本的にこのエンジンがサーブの基本となりました。さらにVWのTSIやアウディのTFSIなどターボ車の主流となっている低圧省燃費ターボの先駆けとも言えるエンジンです。

クラシック900の出てくる映画やドラマ

映画「ファインドアウト」で主役のアマンダ・セイフライドの愛車が3ドアだったり、2009年ユニバーサルケーブルプロダクションズのドラマ「ロイヤルペインズ救命医ハンク」で主人公ハンクが周りからいいかんげん乗り換えたら?と馬鹿にされながら意地になって乗り続けているクラシックカブリオレだったり、1989年原田知世の「彼女が水着に着替えたら」(ホイチョイプロダクション)では伊武雅刀の車がクラシックカブリオレだったそうですが思い出せない(ミニFM局をテーマにした中山美穂の「波の数だけ抱きしめて」しか思い出せない・・・)。村上春樹の短編ドライブ・マイ・カーでは黄色いコンバーチブルが出てきます。五木寛之さんもオーナーだったことからSaabのディーラーの宣伝コピーをいくつも書いておられます。Saabに乗る人はどこかやっかいな人、いや本物が分かる人がしたり顔で乗り続けているイメージからクリエイターや医者の乗る車のイメージでした。

ロイヤルペインズでは大病院の救急医で将来も嘱望されていたにも関わらず、とある失敗から追放されてしまったハンクだったり、こだわりすぎてどこかおっちょこちょいというか、周りとは違う独自の世界観で生きている人が乗っているイメージでした。

さて、この車の弱いところは

今の車と同じような低圧ターボとは言え、アメリカの衝突安全基準に合わせてロングノーズにされたりした点は70年代でも、ベースになったのは60年代の設計のSaab99からのキャリーオーバーであったりします。フロントウインドウはセスナ機のコックピットのように立ち湾曲していたり、ハンドルは重く、トライアンフから借りてきた2000ccエンジンの基本設計も古く、アイドリングでは縦置きの回転軸がプルプルして微かな振動もあります。

集中ドアロックやエアコンの切り替えは、往年のW124までのメルセデスベンツなどがエアバキューム方式だったり、シートはまるでミッドセンチュリーモダンな分厚くコストをかけまくっていた時代の名残りもあります。

SAAB900のエンジンスタートはキーをひねるのですが、その鍵穴は衝突安全を考えて運転席と助手席の間、シフトレバーの後ろサイドブレーキの下に配置されています。キュルキュルとセルを回すとブロン!!と始動を始めるエンジンは決してうるさいわけでも、マルチシリンダーのようにいい音でもないですが、骨太な4気筒エンジンの重さを感じます。

これまた決して軽くないハンドルを回してみるとハンドルを回すとだんだんと操舵感が薄くなり、そのまま勝手に切れ込んでしまいます。これまたW124で経験したフロントサスペンションにカント角が付く設計なのだと理解し、パーキング時には便利とも思いますが、意図するところを超えて限界まで切れ込んでしまうのはシャフトブーツのことを考えるとあまり嬉しくないです。

ミッションは3ATです。決してローギアードでもなく、かといって時速100キロ時に3000回転を超える回転数まで上がるため、高速道路では制限速度以上にスピードを出そうという気にならなくていいと思わせてくれます。減点が怖い自分にはちょうど良いです。

1990年代で3ATと言うとV12のジャガーXJSか、アルファロメオスパイダーくらいしか生き残っていなかったではないかと思います。そう思うと余計にかわいらしく思えます。しかも他の2台も味わえるものなら味わってみたい乗ってみたい車種です。ただMTだったら尚乗りたいです。。。

アクセルの踏み始めは、初速こそのんびりしていますが、総重量1.3t程度でもあり、走り出してからターボを効かせた加速は今ドキのVW/AUDIの2.0L T(F)SIエンジン搭載車の加速と変わらないと言ったら言い過ぎでしょうか?いやむしろVW/AUDIのダブルクラッチミッションのギクシャクではないからか気持ちが良く加速してくれます。

アクセルペダルの重さはこれまたW124を彷彿とさせます。初ドライブで500キロ程を一気に走りましたが、W124のように右足が痛くなることもなく走りきることが出来ました。

しかも、この車にはクルーズコントロールが付いています。今どきのアダプティブクルーズコントロールではないものの、大変便利に使いました。

SAAB900Sは、高速道路を走っている分には疲れ知らずでどこまでも走っていけます。峠道はまだ体験していませんからなんとも言えませんが、おそらく素朴なFFであるがゆえに限界では外に膨らんでいくだけでしょう。それでも、SAABは900のワンメイクのツーリングカーレースをやっていたぐらいなので、タックインとターボを効かせてトルクステアばりばりで走ればそれなりに早く走れる気がします。

今どきの車幅の広い車と違い、1690㎜の車幅は、シャーシの基本設計が60年代であることを否応なしに感じさせます。ただし、車の前後バランスは随分とバランスが良く感じます。その点でもW124のメートル原器的なつくりに近い車です。

これから愛車としてさまざまあることでしょうが、いつまでも人生を共に楽しめたらと思います。

(2020.5.7, 2020.4.22本文訂正と文章追加)


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