見出し画像

「おむつの頃から恋してる」第1話

あらすじ
ネットやSNSに出回る噂から、失踪、殺人を解決する特殊事件専門課警察、特課。
多くの人が多くの情報を配信受信出来る現代で今、多発しているのは、心霊現象を装ったサイコパス事件や、快楽殺人。
それを解決していく、特課配属の身体能力と脳筋の塊主人公の葵(30歳)は同じ課で働く、父の相棒の光司(50歳)に恋をしている。
葵は父と光司が若い頃に保護した子ども。
オムツを替える頃から子育てしてる娘同然の女性に恋をしている事に罪悪感まるけの光司と、それでも光司が好きな葵と相方になら娘を任せてもいいけどやっぱり嫌な父と、ハッカーのチャラ男な葵の相方の4人で事件をほぼアクションとホラーで解決する両片想いのお話。

ーーーーーーーーー

突然ですが、私は恋をしています。

恋をしてる  1

初めまして、 坂上 葵《さかがみ あおい》です。

今年で30を迎える年になるのに、朗々と恋をしていることをが言うのもなんですが、恋をしています。

「おはようございます」
「坂上警部!おはようございます!」

自分のデスクに向かうまでに、何人かに挨拶をすれば、元気に挨拶を返してくれる20代の青年達。
いやいや、そんなに年は離れていないはずなのに、おかしいなとてもフレッシュ

「あぁ~~葵さんおはざぁ~~す」
「伸ばすなウザイ」
「相変わらず辛辣~~」

私の向かいのデスクで、椅子に座りながら伸びをするロン毛。通称、チャラ男

「チャラ男じゃないっスよぉ~矢田部 峻《やたべ しゅん》すよ~」
「人のモノローグに入ってくるなチャラ男」
「葵さんの考えてることなんてお見通しっすよぉ~俺と葵さんの仲じゃないっすかぁ~」

顔もみず、デスクに荷物を置いた。
バカな発言を無視していたら

「「誰と、誰の、仲が、なんだって....?」」

ガンっ!と音と共に、チャラ男の情けない声が短くあがった。

顔をあげると、チャラ男を左右から挟み、肩を組むように低い声を出す

「光司《こうじ》さん!と、父さん」
「ついで感!辛い!」
「やぁ!葵ちゃん!少し見ない間に綺麗になって!」
「……前回会ったときからまだ、一週間もたってないっすよ…」

机を越え、光司さんの側まで近寄った。
ニコニコした光司さんは、いつも通り私の頭に手を置いてくれた。
30にもなるのに、この大きく暖かい掌が大好きで、安心感と恥ずかしさが交互して顔がにやける。

「張り込みは終わったんですか?」
「おうとも!しっかりしょっぴいたさ!いやぁ~長かったよ~」

チャラ男の肩を抱いたまま、
「ねぇ一週間ぶりの父に対してどうなのこの対応。ねぇどうなの?ねぇ」
「さ、坂上、さん痛い..っす!」
「痛くしてんだよ」とチャラ男に絡み続ける父は置いておく。

「本当に長かったですね。犯人はやっぱり隣国でしたか?」
「あぁ、T国のごろつきだった。最近の行方不明者は保護したが、噂がたったのは去年からだからね。噂がたつ前から誘拐をしていたとすれば、被害は何処まであるのか..ってとこさ」

光司さんは少し、悲しそうに目を伏せた。

私と光司さん。あと父とチャラ男が配属されているのは、特殊事件専門課。
1課、2課で言うなら、特課(とっか)だ。
主に、ネットやSNSに出回る噂から、失踪、殺人を解決する課。多い仕事は、1課でも解決出来なかった事件が回ってくることが多い。

ネット、SNS、YouTube。多くの人が多くの情報を見ることが出来る現代で今、多発しているのは、心霊現象を装ったサイコパス。

誰でも情報を発信できる現代は、面白がって事件をおこす奴らが後をたたない。
「事件になると思わなかった」「注目されたかった」そんな糞みたいな理由の裏に隠れ、ただ人を殺したいガチの奴。他国からスパイ、誘拐が目的で、心霊現象にして警察を掻い潜る奴ら。
『事件がおきてなければ、警察は動けない』
では、処理できないほどの犯罪件数に、対策として作られたのが特課。

この課は、私とチャラ男が入るまで、父、坂上 龍《さかがみ りゅう》と木下 光司《きのした こうじ》さんの2人だけだった。

父に育てられ、物心つく頃には、父と光司さんは二人で私を育ててくれた。

たくさんの恩義と憧れと、そして、

好きな人と一緒に働きたい。
その隣に立ちたい。

そんな思いで、今、私はここにいる。

「今年は、葵ちゃんが特課に入ってくれて嬉しいよ」

にへら、と笑う光司さんが、可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて…
心のなかで悶えていることがバレないよにするが、口角がピクピクする。

今年50歳になるその姿は多分30代から変わっていないくらいのかっこよさに、優しさに。い、色気

私は、光司さんに恋をしている。

それこそ、おむつを履いていたときから。


ーーーーーーーーー


突然だが、俺は恋をしてる

50を迎える年で、こんなこと言うおっさんは正直きついと思うが
この年で、やっと本当の恋をしている。
しかも、相手は20歳も年下の、相棒の娘


恋をしてる  2


コンテナに背を預け、弾丸の雨をしのぎながら思う

「なぁ、葵ちゃんは益々美人になっていくな?」
「あ?当たり前だ。俺の娘だぞ」

相棒の龍が、顔をだしマシンガンを持っている奴を撃ち抜くと少し、弾丸の雨が弱まる

「达姆ッ!!我不能打任何东西!??」
「早白!!高田还是两个人!!」

「もうやだぁーコージ何いってるかわかんなぁーい」

近場にいた奴等を銃の底で殴り付ける。
いや、本当にどんどん綺麗になっていくのよ葵ちゃん。

初めは、龍が赤ちゃんを育てるなんていうからどうなることかと思ったけど、赤ちゃんってこんなに可愛いものかと思うくらい可愛くて、結局俺も育児に参加して、葵ちゃんが小学生の頃に、学校でも職場でもゲイ疑惑よ

そんな、おむつだって替えてあげてた赤ちゃんに

本気で恋をしている自分に、自分自身引いている。いや、もう本当に

「ドン引きー」

数m奥にいる物騒なものを持った数名の腕を撃ち抜く。

いつから、この恋を自覚し出したかは、あまりはっきり覚えていない。
只、自分自身の感情に初めてドン引きしたのは、彼女が20歳の時。

いいホテルの最上階のレストランで、龍と三人で彼女の成人を祝った。

そして、そこで初めて、葵ちゃんに龍との血の繋がりがないことを伝えた。
事件に巻き込まれた母親が、龍に彼女を託し亡くなったこと。
血の繋がりは、全くなくても俺たちは家族であること。

俺は、彼女がどう反応するか怖かった。

泣いてしまうだろうか。嘘つきと罵られるだろうか。
でも、彼女は微笑み、俺たちの手を握った。多分、あの日の笑顔が最後の一撃だったんだと思う。

背を預けるコンテナの、斜め横のコンテナから何かが投げつけられる。

「光司、手投弾」
「あ~~い、よッ!」

拳銃の底で投げられた、手投弾を野球の球のように打ち返すと、投げた男に命中。
倉庫内に響く爆音は耳に刺さる。

「ストライーーーィク!!」
「受け止められたからアウトだろ」

あの日の笑顔から俺の感情は、俺を無視して変わっていった

綺麗だと思った
守りたいと思った
そんな美しい感情は、その日を境に随分と穢れたものに変わっていった

誰よりも側にいたいと思った。
彼女の笑顔を独り占めし、俺だけで彼女を満たしたいと思った。

あの日、龍がプレゼントしたネックレスにすら嫉妬している自分が本当に醜い

痺れを切らした相手側が、物騒なものを出した。

「うわ、この距離でロケラン使う?」
「ロケットランチャーの範囲も爆風も知らないとは素人だな。ハズレだ」

弾丸の雨がやみ、何かもちゃもちゃ能書きを垂れている隙に、後ろの出口に飛ぶ。
飛んだ拍子に、ロケランが発射されるが、
ミサイルの先端を龍が撃ち抜く。

爆音と爆風で、倉庫の外に押し出されるが、防弾防熱コートは中々役に立つ。

龍がタバコに火をつけた。
いつもの一段落した証拠。

ごうごうと燃え盛るコンテナ倉庫に背を向けて歩き出すと、遠くからパトカーの音がする。

「手出すなよ」
「え、何々?どういうこと?」

膝でガンと腰を蹴られた

「いて!」
「殺すぞ」
「出しませんよ。もー物騒なんだからー」

出すはずかない。
あんな天使のような葵ちゃんを、俺の真っ黒な感情で汚したくない

「それこそ、犯罪者じゃん」

おむつの頃から知っている
だからこそ、手は出さない


ーーーーーーーーーー



真っ暗闇の中。
寂れた廃屋に1人、膝を抱えて座っている。恐怖はない。だって、俺は死んでいるんだから


不法侵入  1

数ヶ月前。俺は交通事故で死んだ。
青春真っ只中の高校3年生だ。
恋もして、部活もして、受験もして、そんな青春を謳歌している時だったんだ。
恋もって見栄張ったけど、嘘。俺の高校生活はほとんど部活に捧げたものだった。

俺の入っていた、自転車部はそこまで大きな部活じゃなかったけど、全員で一丸となって大会も目指して、頑張っていた。
今年が最後の大会だったんだ。
高校最後の大会だったんだよ。
その前日に事故って死亡。部員も俺がいてギリギリの部員数だから、部員たちは大会にも出られず、青春は終わった。

俺の死は仲間を道連れにするかのような死だった。
あそこで、車がこなければ。
車が通る道で最後の自主練なんてしなければ。
最後の大会にも出られず、俺の高校生活は、俺の人生は何だったんだ。

ぐるぐる、ぐるぐるループする思考は止められず、気がついたら俺は、廃墟ビルの地下から出られなくなっていた。

まぁ、地縛霊ってやつだな。そこら辺はどこか冷静な自分がいる。
俺が死んだのは、廃墟ビルの前の道路。
ここにいるのは、当然のようなものだ。

たまに、人の声がするけど、それもどうでもいい。いつまでも続く思考の無限ループに、体はもうないはずなのに、俺の体はどんどん重く動かなくなっていく。

そんな毎日だったのに、その日は突然目の前は眩しくなった。

「ちょっといいかなぁー」
『....へ』
「警視庁の坂上です。お話聞かせていただけますか?」
『へ..?ぁ....え!ぁ、….…え?』
「君、未成年だね。こんな時間に何してるの?ここ君の土地?心霊スポットでも、他人の土地だから居座ると不法侵入なりの罰則が..」
『ぁ、あの....』

あまりの驚きに、小さく挙手をしてしまった。
眩しいほどのライトを向けてきたのは、髪をひとつに纏めたほぼ無表情のお姉さんと、おかっぱぐらいの茶髪とスーツが余りにも似合わない男性。
無表情のお姉さんは、俺の挙手を認めてくれた

「どうぞ」
『あの....これ、職務、質問.…です、か?』
「少年の年齢だと補導だね。名前と住所は?」『あ....そう、あ……。生きてる時も、されたことなくて』
「あぁ、皆そう言うんだよね。名前と住所とお家の電話番号は?」
『ぇ....と、』
「葵さ~ん。無駄ですよその子、ホログラムですも~ん」
「語尾を伸ばすなうぜぇ」
「辛辣~~」

無表情お姉さんは、俺の体にライトを当て、おかっぱスーツは、廃墟の瓦礫をがらがらあさりだした。

「本当だ。少年、透けてるな」
『ぁ、はい』

何だろう。幽霊をみたら驚かれるとか、怯えられるとか、そういうものだと思っていたのだけど、この人たちはそういうものじゃないようだ。

幽霊になって、初めて人と会話したファーストコンタクトで職務質問されるとは、何か凄い

「ホログラムの映像を投影しているだけなんでぇ~体は家にあります~って言い逃れするやつっすよ~」
「しかし、ホログラムなら会話は出来ないだろう」
「そうっすね~ここまで、俺らの会話に受け答え出来てるんで、マイクとカメラは何処かにあるでしょうね~」
「カメラがあるなら、何か写ってるかもしれないな。明日提出してもらうから、とりあえず住所と名前を」
『ぁ、はい…』

大変馴れていらっしゃるようだ。
とりあえず、住所と名前を告げると、手帳に記入したお姉さんの手がピタッととまり、目付きが変わった。

ガランガランと音を立てていた男の人もピタッととまり、上を見上げた。

『....あの?』
「しーー」

お姉さんはしーーというと、少しだけ小さな物音と人の声に、男の人は無言でお姉さんに上を指さし、お姉さんはそれな頷きをかえした。

男の人は、音もなく姿を消した。指さしをした上に向かったんだろうか。

お姉さんは、待機といった感じでライトを消した。

『....あの』
「んーー?」
『なにが…』
「あぁ、君は知らないのか?ここの廃墟、表では心霊スポットと言われながら、婦女暴行現場の温床になってるんだ」
『ぇ……』
「夜の廃墟、トンネル、洞窟、神社を心霊スポットなんかにして、犯罪が起きるに決まってるだろ。町中のあんな明るい場所でも犯罪は起きるんだから」
『あぁ……なるほど…』
「で?なんで君はこんなところにいるんだ?人を驚かせたいのか?」

あぁ、そうか。俺ホログラムだと思われてるんだっけ。
そうだな。もし生きていて、馬鹿みたいに遊びまくれる大学生とかになっていたら、そんなこともしてみたかった。
カップルとか驚かせるの楽しそう


『俺は……死んだんです…』
「ふーーーん?」
『………あ、信じてない、ですよね…?』
「まぁ、だいたい皆そう言うよ」
『はぁ…』

何か、深く考えてるのが馬鹿みたいに思えるお姉さんだな…

なんだか、少し無いはずの体が軽くなったような気がして、今までのことを話し始めた。

『僕は....何のために、3年間を費やしてきたのか..』
「何のためだ?」
『....え?』

こんな、馬鹿みたいに長い話を、口を挟むことなく聞いてくれたお姉さんは、俺をじっと見つめていた。

俺は質問の意図がわからず、首をかしげた。

『だから、大会に、出るための....』
「大会に出るための3年間なら、大会に出れなきゃ意味ないな」
『......』

ズキンっと痛んだのは、もうないはずの胸。俺は、俺は....

「じゃあ、大会は何のために出る?」『え....?』

いつの間にか、俯いていた俺をお姉さんは、変わらず真っ直ぐに見ていた。

『何、の、ために....?』
「何のために、大会にでる?」

大会に出る、理由

『頑張って、きた、努力を発揮する、ため..?』
「じゃあ、努力を発揮する場所と、今までの努力とどちらが大事なんだ?」
『....え、っ..と』
「何故、努力を発揮したい?何のために努力を見せつけたい?」

だって、それは、今まで、ずっと、苦しくても逃げ出しそうになっても、ずっと、ずっと

『仲間、と、頑張って、きたから....』

凄い、死んでも涙って出るんだ。
嗚咽を噛み殺しながら、涙を流した。
やっと気がついた。大事なのは大会じゃない。大事なのは..

「よかったな。いい仲間を持てて」

お姉さんは薄く笑っていった。
その顔はとても優しかった。


俺は悔しかったんだ。
ここまで頑張ってきた仲間たちともっともっと走りたかった。
大会で成績を残して、俺たちよくやったよな!って皆で騒ぎたかった。

それなのに、死んだ。俺は死んだんだ。

なのに、部活の仲間は誰一人、大会に出れなかったことを泣いたやつは居なかった。
俺の葬式で全員泣いていた。あいつらは皆俺の死を泣いてくれていたんだ。

「人生に意味を持たせるのも、無意味にさせるのも、すべて自分だ。大会に出るための人生なら、大会に出れなかった君の人生は無駄になる。でも、大会に出たいと思えるほどの仲間を作れた人生と思えたら?君の人生は無駄か?」

声は出せなかった。でも、必死に首をふった。今さら、今さら気がついた。

「いい人生じゃないか。君の人生は」

お姉さんの言葉に頷くことしか出来なかったけど、お姉さんの雰囲気は優しかった。

『葵さんーー全員揃いましたーー』

お姉さんの耳に着けたマイクから、さっきの男の人の声がした。

お姉さんは先ほどの雰囲気とは違う何かを纏い、立ち上がった

「さぁ、キノコ狩りにいこうかな」

お姉さんは一瞬で、音もなく居なくなった。

拝啓。お母様。
生前、あなたが口酸っぱく『生きてる人間が一番怖いんだよ』と言っていたことを、死後理解しました。

人の目が赤く光るのを見たのは初めてです。


上の部屋では、罵声に悲鳴が響いたと思ったら、バッタンギッタンゴッタン。ゴ、ゴ、ゴと聞きなれない音がする。
数人合った人の気配はなくなっていった。

でも、人の気配はまだ上の階にもある。

あの人たちも犯人?なら、逃げられる!

そう思ったら、気がついたときには地下室を飛び出していた。


ーーーーーーーー


チャラ男の合図に、隣の部屋に飛び込めば、まぁー大きなライトを部屋の角に2つ設置し、昼間のような明るさで、6人の男が1人の女性を地面に押さえつけている。

形式上必要なため、警察手帳をみせ、名乗る。

「特課です。全員現行犯逮捕なので、女性から離れて下さい」

そのあとは、まぁいつも通り。
なんだてめぇ!とか、特課って、マジかやべぇよ!とか、合意の上だったんだ!とか、ライトを消して、バラけて逃げろ!とか。

残念だな。私は暗闇の方がよく見えるんだ。

「逃げるのなら、えーーっと、なんだっけ」

野郎6人の股間を蹴りあげ、鳩尾に一発。
各々の悲鳴を聞きながら、思い出した。

「公務執行妨害で実力を行使する」
「それって、行使したあとに言うもんなんすかぁ~?」

女性を保護してるチャラ男を呆れた声をだす。チャラ男のくせに。

その直後、気配が動いた

「おい、お前取りこぼしてるぞ。3人」
「え、嘘でしょ?」
「実行犯6人。見張り3人だ。これだからチャラ男は…」

「いやいやいやいや~こんな暗闇で気配分かるのなんて葵さんくらいっすよぉ~?それか人外の何かか…ほんとすんません」

ここは廃墟ビルの地下室。上はパーパーの廃墟部屋。窓も扉もない。この状態で、地下の異音に気づいた奴等を追いかけるのは至難の業だ。

せめて、もう一階層あれば別だが..

『お姉さん!!』
「君は、さっきの?」

部屋にホログラムの少年の声が響く

『俺が足止めをします!犯人全員捕まえてください!』
「おいおい、チャラ男より有能じゃないか少年!」

その言葉を信じ、地下室を飛び出し上の階に出ると、窓も扉もない部屋には月明かりが差し込んでいたはずだが、そこは真っ暗闇と犯人であろう3人の野郎の焦りと悲鳴が響く

「さ、さっきまで明るかっただろう!??」
「出、口…どこだよ!!壁もねぇぞッ!??」
「なんだよこれ!なんだよこれ!なんだよこれぇえ!!」

「善良な市民の手助けだ」

小さな野郎の悲鳴を3回聞くと、部屋はスッと月明かりが差し込んだ。

『終わり、ました....?』
「あぁ、少年のお陰だ。ありがとう。どうやったんだ?すごいな」
『いえ....よかった。本当に』

少年の安心した声が部屋に響く

「表彰しなきゃな。明日お礼をいいにいくよ」『....じゃあ、母に伝えてください』

少年は、言い残すと静かに気配をなくした

遠くから響くパトカーの音が響く。
静まり返った廃墟は、来たときと違う雰囲気をしていた気がした。


次の日、職場のデスクに付くなり大慌てしたチャラ男が私の机に新聞を叩きつけた

「ウゼェ」
「すんません!すんません!って違うんすよ!これ見てください!!」

数ヶ月前の新聞に目を通せば、昨日の廃墟前での交通事故の記事。
高校生男子が被害者で、その顔写真は昨日のホログラムの少年。

「今は、未成年の写真も新聞にのるのか」
「いや、これは俺がネットから引っ張ってきたやつッす」
「お前最低だな」

少年の写真をコンコンと爪でつついた。
いい顔をしている

「驚かないんすか?葵さんねぇ驚かないんすか?」
「ウゼェ。驚かないもなにも、今彼の家に行ってきたとこだ」

出勤前に、少年の家によった。
昨日言い残した言葉が気になり、ドアベルを鳴らすと、疲れきった女性が顔を出した。

母親だということは直ぐに分かった。
そして、少年が本当に亡くなっていることも。
線香をあげさしてもらい、昨日の話をする。信じてもらえるかどうかは別にどちらでも良かった。

ただ、昨日の事件で少年の尽力がなければ、犯人逮捕は出来なかったこと。
私たちが助けられたことを伝え、そして頼まれた言葉を母親に届けた

「『今、幸せだよ』か....」

少年の言葉に母親は泣き崩れていた。

「おら、仕事しろチャラ男。昨日の取りこぼしの一件、許してると思っ....」

顔をあげると、部屋の角に何かしらの祭壇を作り、ブツブツ何か呟きながら自分に塩をかけるチャラ男

「うわキモい」
「マジトーンやめてください。流石に傷つきます」

ガタガタ震えながら標準語で喋るチャラ男

「いいから、早く事件がおきていそうな、おきそうな案件を見つけろ。今日中に30件」「え、そんな無茶な。昨日の案件だって3日かけて見つけたのに」
「だから、被害者が出たんだろうが。あと30件見つけるんじゃねぇ。30件件検挙しにいくんだよ」

ニコッと笑えば、チャラ男の顔面が真っ青になる。

「ちょ....っ!本当に無理っすよ!?マジで!」
「手始めにJ線の痴漢全部捕まえるぞ。おら早くしろ」
「いやいやいやいや!本当に!何人いると思ってるんすか!?」
「うるせぇなぁさっさと動け。吊るすぞ」
「嫌だぁああ!!電車なんて人混みいくの嫌だぁあ!!」
「黙れ引きこもりパソオタクが」
「マジで、ね。マジでやめましょ?電車ならいくらでも俺が止めてあげますから!ほら!俺のパソコンでリアル電車でgoしましょ?」
「....心底、先にお前を摘発した方が良いんじゃないかと毎度思う」

幽霊になっても正義感の強い子が世の中にはいるんだ。
私も止まっていられない。
少年、君の人生は最高だな



ーーーーーーーーー



いいドレスに身を包み、いい男の腕に自分の腕を絡ませる。

あぁ、何で、どうして

「相手が、お父さんなの?」
「酷い!葵ちゃん!」

潜入捜査  1

豪華なリムジンにのり、車は会場を目指す。私はハイネックのクリーム色のドレスに身を包む。
ドレスは体に沿ったラインを出しながら、スリットはギリギリまで入り、背中はおおっぴらに空いている。
腕を絡めるのは、きっちり決めた礼服に白のストールをかけ、少し微笑みながらタバコに火をつける父

うん、カッコいいのが余計腹立つ
露骨にため息をつくと
少し膨れた父がタバコの煙をはいた

「だってお前、光司相手に腕組んで、顔寄せて、ほほ撫でてとか出来るのか?」
「父さん。出来るか出来ないかじゃない。したいかしたくないかだよ。したい」
「はぁ....お前、本当に光司大好きな」
「仕方ないじゃない。今までに光司さんと父さん以上のいい男にあったことないもの」
「それは仕方ないことだな」

次はご機嫌に煙をはいた。
扱いやすいというか何というか
まぁ、嘘はついてない

『いやだなぁ~葵さん。ここにもいい男がいるじゃないッスかぁ~』
「「黙れ下の下」」
『親子でハモるのは流石の俺も傷つくっすよ』

耳にはめるインカムからチャラ男の声が聞こえてイラッてする。

今回の任務は、人身売買の潜入捜査。
人身売買の会場を抑え、会場にいるバイヤーから主催者までを一網打尽にする。

そのバイヤー役に父。取り巻きの女が私。
チャラ男が会場のセキュリティ、トラップ解除担当。
そして、光司さんは突入部隊長。今回は規模が大きいので特殊部隊の人たちを何十人か引き連れている。全部光司さんと父さんと知り合いだ。

顔合わせの時、「隊長!」「師匠!」「先生!」といろんな名称が飛び交っていた。
しかも、今の特殊部隊の隊長クラスの人だけ引き連れてきてるし…本当に顔広すぎじゃない?

取り巻きの女役に父が私を選んだとき、光司さんは反対だった。
でも、父と光司さんでは違和感があるし、父の『お前とゲイップルでもするか?昔みたいに』という言葉に、光司さんも顔を青くして断念。
ちょっとその昔の話聞かせて

『龍、葵ちゃん。準備はいい?』
「光司さん!大丈夫です!」

イヤホンのチャンネルを切り替えると、耳に直で光司さんの声がする。これはヤバい。色々やばい。

いや、電話するときもあるけどさ。なんかちょっとにやけるよね。

『葵ちゃん』
「はい!」
『綺麗だよ』 

顔に血が上るのがわかった

「がっ....はっ!!」
「葵、座席に頭をぶつけるんじゃない。髪型が崩れる」

冷静な父が憎らしいやら、助かるやら
ヤバい。不意打ちだ。光司さんが好きすぎる。

落ち着け私、これから仕事だぞ。
落ち着け私、子供の頃から夢にまでみた父さんと光司さんと一緒に仕事だぞ。

落ち着け私。
これかは仕事。
人身売買という非人道的な現場への潜入捜査。
沢山の人が泣いている。
なのにごめんんさい。こんなにも、
こんなにも夢がかなったと思える瞬間はない。

「行けます」
「よし、行こう」

車が会場につき、父が差し出した手に自分の手を置き、立ち上がった。

『気をつけて』
「ぐっ....ふ..」
「おい光司。お前用があるとき以外話しかけるな葵の顔が崩れる」


ーーーーーーーー

なんやかんやで、会場に潜入。
父の側に居たのは最初の数分だった。


潜入捜査 2


偽のパーティーに潜入するのは簡単だったが、そこから人身売買の競りの会場まで入るのに少し時間がかかった。
必要な招待状をチャラ男に手配させたが、間に合わなかった。これだからチャラ男は。

父が、主催者にもの凄い威圧感と架空の会社の名刺(架空会社のホームページ、架空売上、架空店舗情報などなどは、チャラ男が全て手掛けている)を渡し、招待状なしで人身売買の会場に行けるように交渉していた。

それでも渋る主催者の前で、父に

「ねぇ、パパ?今日は私みたいに新しい子を買ってくれるんでしょ?約束したじゃない」

とすり寄っていった。
一瞬すっごい渋い顔した父に、眼圧で『仕事』と伝えると

「あぁ、待ってろ。妹がほしいって言っていたな。お前のように可愛い妹を買おうな」

父が腰に手を回すので、私は頬に手を添えてる。主催者を見ていた父の顔を私に向ける。

「可愛すぎてもなー…パパ目移りしない?そしたら私殺しちゃうかも…」
「そしたら、また買えばいいさ」

「お前が一番だよ」と額にキスをされ、普通にちょっと照れる。

こんだけやばい会話をしていたら、主催者も咳払いを一つして、父を競り会場に案内するので、手続きをさせてほしいと違う部屋に移っていった。

その間に、1人パーティー会場に残された私は、目ぼしい人身売買バイヤーを選別する。

選別の仕方は、まぁ、見た目で。
全くの一般人が声をかけてきたら、ロシア語返事をすると、皆そそくさと逃げていく。

バイヤーが釣れた場合は、発信器入りの名刺を渡す。

『今は、パパと来てるの。見つかったら怒られちゃうからまたあとでね』

っと、頬から首、胸にかけて撫でて、そのまま名刺を胸ポケットにいれる。

本当のパパなので、あんまり違和感はない。

というか、こういう場所にくる権力者?勝ち組?的な男性は何故かまぁ、他人のものが欲しくなるという傾向が強いのは気のせいかな?嫌なアイデンティティだな

『葵さん..そういう動き何処で覚えてくるんすか..?』
「漫画?小説?」
『漫画とか読むんッスか!?以外..』
「私の原点は仮面ライダーだぞ」
『めちゃパパの影響で草ハエルー!』
「死ね」

一通り目ぼしい相手に名刺を渡し(はたまた忍ばせたり)して、パーティー会場を出る。

御手洗いってやつだ。あれ?お花畑?お花を摘みに行ってきます?

少し歩くと、3人の男の気配があとをつけてくる。姿をチラ見すれば、耳からでたインカム。従業員か、主催者側か、父が何かヘマしたかな?いやそれは絶対にない。

さて、大物は釣れるかな??


ーーーーーーーーー



真っ暗闇の椅子に座らされている事に気がついた。

「Ladies&Gentlemen。本日はこの競り市にお越し下さり、誠にありがとうございます」


潜入捜査 3


頭に響くのはマイクを通した声。
殴られたのか、後頭部が声に合わせてズキズキと痛む。

いやいやいやいやいやいや。違うじゃん。
なんでこんな状況になってんの?

「はじめに競り出されますは、今回突如入手できた大目玉ッ!!数年前ペンタゴンのロックを数十秒で解除。そのあとも無作為に業界のすべてのロックを解除しながらも盗難は一点もなし!この者にかかれば世界の情報が貴方の手に!!世界指名手配され一斉を風靡し突如存在を消した伝説のハッカーツァーリィ!!」

後頭部に響く歓声があがる。待って全然嬉しくないんだけど。で、めちゃくちゃ懐かしい名前で呼ばれてんだけど。
違うじゃん。こういうのって坂上さんと離れた葵さんが捕まって、トップ2人が多慌てして救出作戦実行!みたいになるんじゃないの?なんで俺?なんで俺なん?
いや、そりゃトイレに行ったよ?
トイレ行ったけど、会場から1km離れた公園のトイレよ?どこで誘拐されてんの俺はもうマジで

「最悪だぁ…」
「目が冷めたかツァーリ」
「誰よお前〜」
「忘れたとは言わせねぇぞ…俺は」
「興味ないのよお前の話は〜」
「なッ!!」
「ただ、もう、俺ここにいるの本当に最悪なんだけど〜」
「っ…!ふん!これから、お前の今後を考えると笑いが止まらないな!」
「いやもうホントそれ。絶対いじられるんや〜ん当分言われ続けるや〜ん」
「あぁ?何言って……ガッ!!」

響いた打撲音に、知らない男の短い叫び。
さっきまで歓声だった会場の声は阿鼻叫喚の悲鳴に変わっていた。

バッと目隠しが取られ、ライトとの眩しさに目を細める。

「助けに来たぞ。チャラ姫」

目だけ隠した猫の仮面をつけた葵さんが

「あっはっはっはっはっはっはっは!!!」

笑い転げた。
わぁすごい貴重なシーン見てる気がするー
床に膝をつき、床を叩きながら笑いまくる葵さん。

「こらこら、葵。ちゃんとチャラ姫様のロープも外して差し上げなさい」
「……坂上さん…笑いすぎです」
「なんと笑ってなどございクック…」
「震えてるー!!!」

椅子に縛られているせいで何も出来なもどかしさにガキみたいに地団駄を踏んだ。

「無事か!?」
「光司さん!」

木下さんの声にすぐに立ち上がる葵さん。それでもまだ体揺れまくってるからね!
そんな葵さんに視線だけ送り、すぐ俺の椅子の前で片膝をたてて跪いた

「矢田ピーチ姫。ご無事で良かった」
「「矢田ピーチぃ!!!」」
「もぉおおおおお!!本当に最悪なんだけどぉおおお!!!」

葵さんに殴られた男がモゾモゾと起き上がる
あぁー確かに、どっかで?見た覚え、が…?

「……くっそ、が…」
「おうおうおうおう!うちのチャラピーチに今後手出しできると思うなよ!!」
「ごふぁッ!くくくッ…チャラピーチはこの天下の特課様がお守りでい!!」
「チャ…チャラピ……チャラピ…!」
「葵さん笑いすぎですって!!!」

笑い窒息しそうな葵さんにやっとロープを切ってもらった。
手首の青くなった部分を擦りながら立ち上がる。まだ頭くらくらするわー
木下さん率いる特殊部隊の人たちが、バッタバッタとバイヤーたちを捕獲していくのが、ステージからでもよく見える。

スマホを出して、待機させていた画面の完了ボタンを押す。
これで外に出る施設の扉は全部ロックされた。隠し扉も作動できなくなった。
本当なら突入前にする行動だったから、今隠し通路にいる奴らは一生出てこれないかもだけどいいか。

「…なんで…なんでいつも!お前ばかり!!お前だけ!!」
「さぁね。俺だって拾ってもらった身だ。運が良かっただけさ」
「っっ!!ツァーリィイイイ!!」
「ふっるい名前持ち出してくんなよ。今の俺は」
「「「チャラピーチって名前があるんだ」」」
「もぉおおおお!!!本当に最悪なんだけどぉおおお!!!」

トップ3の笑い声はいつまでも俺の頭に響き渡った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?