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インド人は食べない? ナンのこと

 「インドカレーと言えばナン!」と多くの人がイメージする一方で、インド料理や周辺各国の料理、食文化に対してマニアックな向きの方々からは、頻繁にこんな話を耳にする。

「インド人はナンを食べない」「食べるのは、ナンではなくチャパティ」。

 この話に限らず何に関してもそうだが、広く知られていること、一般に信じられていることとは反対の情報が出れば、それが広まるのは速い。「そう思われているけど、実は…」という裏話のようなエピソードはやはり面白味があるので、「インド人はナンを食べない」という話も近年のインド料理ブームのなかで広まっているのだと思う。

 では、本当はどうだろう? 結論から書くと、そんなことはない。

「ナンを焼くためにはタンドール窯が必要で、家庭にはその窯がないため、ナンは焼けない」というのが事実で、だからといって「食べない」というのは、言い過ぎであり間違いだ。

 私自身、インド人(従業員)と9年間ほぼ毎日一緒にいて、店でも多くのインド人(お客さん)と接しているが、彼らは食に関しては超保守的と言い切れる。その背景には宗教的な理由が大きく存在しているのだが、そこを差し引いても、食への興味の幅が広い私たち日本人の尺度から言えばなおのこと「保守層しかいない」といった印象なのだ。

 そんな彼らにとっては、ナンは食べ慣れていないぶん、どちらかと言うと興味が薄く、外食をするにしてもチャパティを選ぶ傾向があるのは事実。また、もうひとつ、精白された小麦粉(=ナンの生地に使われるもの)は全粒粉(=チャパティの生地に使われるもの)よりも高価であることから、「外食でも変わらずチャパティ派」が多いことも想像できる。

 というわけで、「ナンを食べない」のではなく、「ナンを好んで食べる人が少ない」インドの人たち。ちなみに当店では、インドからのお客さんに同様の傾向は見られるものの、おそらくマニアの方々が想像しているよりも多くの割合でナンのオーダーが入り、さらに「エーク・オール・ナン・ディージェ(ナンをもう一枚ちょうだい)」とお代わりのオーダーをいただくことも度々だ。

 当店の状況は、単にナンとチャパティの値付けの違いによるもの(ナンを割安にしているから)だろうと私自身は考えているが、いずれにしても、「ナンがすごく美味しかった」「自分の好みの味だった」と彼らに高く評価してもらえていることをとても嬉しく、誇らしく感じている。

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