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第 4 回アートライティングテキスト 春名真歩「まっすぐ歩く」 by Y.M

《a full scale hole》, 2023, Maho Haruna

君が興味を持つであろう作品を観たので筆を執った。
たて 1.3m よこ 2m ほどの大きなキャンバスに描かれたその抽象油彩画は、全体的な色調は淡い中にも、ほのかに青みを帯びた ごく薄い灰色の、太く力強くうねった楕円形の線が印象的だ。
画面いっぱいに描かれた楕円形は、横方向で画面をはみ出し、縦方向では画面の 8 割ほどの大きさに及ぶ。厚み 1cm に達しようとするほど絵具をたっぷり使った、1 ストロークの太さ 5cm くらいからなる線の集合体が、上部を密に、下部を疎に、描かれている。画面の頂点方向では、線が多数ねじられて しめ縄の様相を呈し、さらに数本が画面上端に向かって伸びる。楕円形を見渡すと数カ所欠損がみられ、特に画面左端から下方向に、(円周を思わせる塗りが見えるものの、隆起部としては)円周長の 1 割以上にわたって欠けている。
この楕円形が上層のレイヤだとすると、その下の層と思われるのが、ドリッピングで描いたとおぼしき白いもので、ほぼ楕円の中に位置し、それほど密でなく、控えめな線香花火や、神経細胞のネットワークのようにもみえる。
さらにその下の層には、画面の横方向からみて中央付近に縦に伸びる、葉の落ちた ごく細い木を思わせるはっきりとした黒色の線が見える。
そして、薄いクリーム色に満たされた最下層のレイヤは、楕円外部の上方は薄い茶色や淡いピンク色が煙を上げるように描かれるとともに、控えめな黒いしぶきが描かれる。楕円内部は、もっと密に激しく茶色、黒色、白色などが、縦方向の線により秩序がありつつも混沌として描かれ、円周内側に沿ってみえる青色、紫色は楕円形に呼応して寄り添っているように見える。楕円形外部の下方は、内部が漏れ出ているかのようだ。
ところで私は、この作品を観てピザ窯を思い浮かべた。いや、それが描いてあると言いたいわけではないが、楕円形を投入口に見立てたとき、内部で青い炎がまわって陽炎のように空気が揺らいで向こう側の様子が混沌として見えるところだったり、楕円形の左下が欠損して見えるのも吹き出した煙に遮られたように思えたことが、そう連想した理由だ。つまり、極めて大きなエネルギーを結界が押さえているのではないかと考えたのだ。とてつもないエネルギーをもった何かが結界の中で暴れ回って開口部から熱風を吹き出し、黒いものや白いものがはじけ飛んでいるが、入念に固められた結界はまだ余裕がある様子で薄灰色を保っている。力がみなぎる、よい作品だと思った。
さて、この作品、君ならどのようにみるだろう。

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