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Hans Scharoun/Peter Blundell Jones 建築の書架から その5

1995年出版。2007年購入。
以前にも書いたハンス・シャロウン(1893-1972)についての本である。学生時代に読んだ研究室の本とは別物で、シャロウンについてより俯瞰的にかつ詳細に書いている。
今では、原書も労せずして読めるので、これも再読したい本である。
今回は、シャロウンの建築論なので、建築に興味のない方は、ここで離脱した方が良いと思う。


シャロウンの建築について語るとその平面の大きな特徴は、平行な壁、四角な部屋、均一な空間が無いことである。つまり一般的な建築とは対極にある。現代建築とはともすれば、均一で規則的な空間構造やデザインだと思われているが、彼の空間や建築は真逆である。
何故か?それは建築や空間を使う人間の為にデザインしているからなのである。例えば、あなたのいる部屋の角は多分90度ですね。でもそのコーナーは使いやすいですか?多分、使い勝手が良いとは言えない場所で多分物が置いてあるだけ、では無いでしょうか?にもかかわらず、90度である。どうしてか?それは、使う人間の立場で建築が出来ているのではなく、作る側の都合で出来ているからなのです。空間をより有効に使えるように造るというのがシャロウンの建築理論の一つである。


ジュリエット 集合住宅

上のプランはシャロウンの集合住宅でシュツットガルトにある有名な「ロメオとジュリエット」という2棟のうち中層棟ジュリエットの基準階平面図である。
まず各住戸が一列に整列していない。ドイツでも4階以上はエレベーターが必要になる。そのホールも明るく通気がある環境にし、各住戸への通路も直線でなく環状になる。住戸は角度を持ち環状に配置されている。どうしてか?各住戸への採光が長く取れるように南側の間口を広くし、すべての居室は南側からの採光を持つ。

ミース・ファンデル・ローエのLakesshoreDriveの1階平面図

一方、上の平面図は近代建築の巨匠の一人、ミース・ファンデル・ローエのシカゴのレイクシャードライブのアパートで、これが近代集合住宅の嚆矢とも言われる。綺麗なグリッド状にプランは配置される。裏も表も無い、均一な空間。ユニバーサルスペースといも言われる。ある意味、住宅にも事務室にも工場にも美術館にもなる訳で、シャロウンとは対極にある。

だが、その後の現代建築の潮流は、シャロウン派ではなく、ミース派が主流と成る。シャロウンの有機的建築は一般化し難く、普及しなかったのである。施工性を考えたら、難易度が高い工事をやりたい建設会社はいないだろうし、施工費も高かったと思う。一方、単純なグリッド状に展開するミースの建築は、明快で施工も簡単で施工性も高く、効率も良く、利益も上がった。だから人間中心とか言うポリシーより経済性が優先されたのである。世界中の建築は、皆ミース風のビルとなり、どの国へ行っても同一の光景が見られるようになった。


ここでハンス・シャロウンの概要を転記する。
1920年代のドイツ建築モダニストの最も重要な人物であり、有機的な建築の重要な提唱者でした。シャロウンは、1927年にシュトゥットガルト・ヴァイセンホフジードルングのために物議を醸した邸宅で初めて国際的な評価を得ました。自由な計画とダイナミックな内部空間の実験は戦時中も続けられ、ベルリンのフィルハーモニー管弦楽団コンサートホール(1956-63年)で高い評価を得ています。


本書の解説(転記)

ピーター・ブランデル・ジョーンズの徹底的な研究は、シャロウンの生涯と作品の包括的な概要を提供するだけでなく、フーゴ・ヘーリング、ミース・ファン・デル・ローエ、ル・コルビュジエなどの現代のアイコンとの関係における彼の理論的立場を探求します。写真、図面、図面をふんだんに盛り込んだ本書は、建築理論とデザインに対するシャロウンのユニークな貢献をタイムリーに再評価しています。

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