2022年・珠玉の役(10芝居より)

当たり役は、最高。
役が、演者の魅力を引き出す。
演者を通して、役を知る。
相乗効果が爆発した、2022年の当たり役の数々。
10芝居から書きとめたい📝

①劇団美松『日本橋』より松川小祐司座長の稲葉屋お孝(1/23@篠原演芸場)

粋~! と心で叫んでしまう女性。たった一夜会ったお孝が忘れがたい。

当日のお写真

泉鏡花が大好きという松川小祐司座長。
どろりとした人間ドラマでありながら、どこか夢想的。そんな鏡花ワールドに、連れて行っていただきました。

お考は、心優しいヒロインではない。ライバル芸者に嫉妬したり、男を奪ったり、愛したり振ったり、心の激しさがむき出しだ。
けれど同時に、葛木への一途な想いが、切なく可愛い。「葛木いのちと書いて頂戴」のセリフが、心に響く。

当日のお写真

愛らしくて、粋で、残酷で、優しくて、清楚で、自由で。すべてが一つの役の中にあった。


②春陽座『泣くな蛾次郎』より澤村心座長の正太郎(2/20@掛川蓬莱座)

優しい保護者を演じて、きっと右に出る者がいないのが、澤村心座長。
「本当に気持ちのいい朝だ!」
こんなに優しい、最期の言葉があるだろうか。

自分が処刑されるというのに、弟分が立派になったことを喜んで。

当日のお写真

ストーリーは、大衆演劇お馴染みの「上州土産百両首」。
名作の筋に、丁寧な春陽座カラーが沁みていた。
例えば終盤。蛾次郎が、呼子の笛を吹いてしまった理由は、こんな風に説明される。
「うちの親方は、罪人にも優しい。他の親方衆のように、罪人を殴ったり水責めにしたりしねえ。この捕り手の数だ、どうせもう逃げられねえなら…兄貴はせめて、うちの親方に捕まってほしいんだよ…」

(蛾次郎役に、心座長のご息女・澤村愛夢さん)

優しい台本に、優しい演者。
春陽座さんらしい、涙のにじむ一本を見せていただきました。


➂劇団天華『鬼さんこちら』より澤村千夜座長の鬼(3/12@浪速クラブ)

「おーい、おおーい、誰かいねえのか…」
人ならざる者の永い永い孤独。
人恋しさに満ちた呼び声。

当日のお写真

劇団天華さん×ライターのお萩さん(Twitterアカウント)台本は、ファンタジーが溢れていて、とても素敵だ。
見逃していた「鬼さんこちら」がかかると聞き、駆けつけた浪速クラブ!🚄

花降山と運命を共にし、何百、何千年も生き続ける、美しい鬼の物語(KANGEKI2021年2月号で特集📖)。
人間の少女との出会いが、鬼の孤独を揺さぶる。
少女の運命は儚く尽きて。
誰の声も返ってこない山の中で、鬼は「おーい、おーい」と呼び続ける。
寂しさの深さに、涙腺が決壊した。千夜座長は、孤独を本当に美しく演じられる。
ラストに救いがあって、本当によかった!


④長谷川劇団『三婆』より愛京花総座長、藤乃かなさん、長谷川桜さんの三婆(7/17@篠原演芸場)

こんなに全員が面白いお芝居ある?
木馬館での初演で、「とにかく面白い!」と聞いていた一本。
満席も満席の篠原演芸場、二階席のそのまた奥に滑りこんだ7月の夜。
最高だった。二時間半超、まっっったく時間を忘れていた。
(当日のお写真は撮り損ねた…💦)

美しくてしとやかな、本妻の松子(愛京花総座長)。
図々しいけど愛嬌いっぱいでたくましい、妾の駒代(藤乃かなさん)。
クセが強くて、ケチで頑固な義妹のタキ(長谷川桜さん)。

松子「(ビールを片手に)実はいけるクチなのよ。いつからって…そりゃあなた、旦那が死んでからよ」
駒代「(本妻に対抗してなぜか胸を張りつつ)あたしは二号よ!」
タキ「あたしのお醤油使ったでしょ。お醬油3センチ返せ!」

女性の役は、こんなにも多様で、生き生きと輝いている。


⑤劇団美松『桜姫東文章 桜花繚乱愛憎輪廻』より市川華丸さん(劇団菊)の桜姫(7/24@浅草木馬館)

一日で、華丸さんへの見方が変わった。
「将来楽しみな可愛い役者さん」から、畏敬の念を込めた「名優」に。

当日のお写真

妙な言い方だけれど、桜姫は【異形のヒロイン】だと思う。
死体が転がる家で、鏡を見つめ、好きな男のための身づくろいをする。
己と己の好きなひと以外、心にない。
姫君から罪人へ、女郎へ、どれだけ転落しようとも、心の奥まで悲しみが刺さらずにいる。
どこにいる時も、世の人が何を言っても、私は私――

観劇友達の間でも、「華丸さんの桜姫はすごい」と噂に上った。
2023年1月19日(木)@立川けやき座にて再演だとか!

当日のお写真


⑥スーパー兄弟『女殺油地獄』より龍美麗総座長の与兵衛、龍魔裟斗花形のお吉(8/11夜@篠原演芸場)

上手(うま)~~(心の叫び)
【息の合ったペア】の技巧が、キンキンに尖っていた一夜。

当日のお写真

見せ所の、油店での会話シーンは圧巻だ。
「(借金の頼みを断って)ならぬものはきつう、ならぬ」
ぷいと横むくお吉。世にドシンと居場所を構えた女のプライドを感じさせる。
「死んでくだされ、お吉どの」
いつまでも大人になれなかった与兵衛の、幽霊のような顔。

一つの曲を、二人がデュエットするような。演者同士のバディぶりを堪能しました。
2023年から、大きく体制の変わられるスーパー兄弟さん。魔裟斗花形は副座長になられるとか。
きっと新しい形の中でも、このお二人は良き芝居を見せてくださるでしょう。


⑦劇団美山『室の梅』より里美花太郎花形の荒川十太夫、里美京馬副座長の堀部安兵衛(9/6@浅草木馬館)

9/6(火)は平日ど真ん中、にも関わらず職場がくれた半休(ありがとう会社~)で、たどり着いた木馬館。
本当に観てよかった~~~~~

当日のお写真(ラストショー)

「室の梅」は、人情芝居であり、武士の求道ストーリーでもある。
立派な侍とは何か?
花太郎花形が、テーマにも荒川十太夫にも、めちゃくちゃ似合っていた。
全身から向上心の豊かさが伝わってくる花形。脚本も花形執筆だそうで、多才ぶりに驚かされます。

当日ラストショー

十太夫が理想とする侍、堀部安兵衛に京馬副座長。出番は短めですが、インパクトが凄かった。
客席を駆けぬけてきて、居酒屋に飛び込み、十太夫のお酒で勝手に一息ついて、喧嘩の助太刀に飛び出していく。何にも囚われない安兵衛の人格がガツンと伝わる。

当日ラストショー

「ワケあり兄弟祭り」の凛々しい芝居、「河内十人斬り」「二人弁天」「室の梅」。これからも増えていくラインナップを楽しみにしています✨


⑧章劇×劇団美鳳『ふたり傘』より澤村蓮座長の新造、紫鳳友也座長の喜右衛門(10/26@篠原演芸場)

小さな村の、温かくてじんわりとくるお芝居。
傘職人・新造(蓮座長)と村の庄屋(友也座長)、父親二人の友情のお話。

当日のお写真

蓮座長の笑顔から醸し出される【良い人~】感が、新造と絶妙にあっていた。カッコいい侠客でも忠義命の武士でもない、等身大の、村の気のいい兄ちゃん。
友也座長のクールな美しさも、庄屋というとても身近な頭脳職によくハマっていて。

蓮座長と友也座長は、本当に仲良しだそう。
蓮座長が口上で、「友也座長と僕のためのような芝居。友ちゃんとできてよかった。合同の恒例にしようか~」と言っておられた。
当たり役とは、一人の演者が役にハマるだけでなく、演者同士が織りなす色によって生まれることもあるのだなと思わされた。

お萩さん(Twitterアカウント)台本&篠原演劇企画さんのご提案による一本。新しい台本芝居、ずっと続いていきますように!
(2022/12/30、日本文化大衆演劇協会様がツイッターで、2023年も新しい台本芝居による新風企画が続くと発表されました!やったー--!!!)


⑨劇団美山『俵星玄蕃 命の約束』より里美京馬副座長の玄蕃(11/10夜@博多新劇座)

玄蕃の内面を見続けた1時間半。
役の心に、奥深く入りこむような。

当日のお写真

武士道に絶望した、過去の悲しみ。
しかし杉野や大石との出会いに、己のあり方を見つめなおす様子。 
「今杉野を助けに行かなければ、俺はもう、武士として生きてはいけぬ」
杉野の元へ駆けつけた瞬間の「おお、そば屋か!」
一言に込められた熱意が、客席の心を揺さぶる。打ちひしがれた玄蕃の心が、もう一度息を吹き返す…

「その役がどういう心で生きているのか」を見せてくれる芝居をされる。京馬副座長の芝居については、「喧嘩屋五郎兵衛」(5/3夜)拝見時も長い感想を書きました。
副座長の伸び伸びとした舞台を、これからも期待しています!

当日のお写真


⑩劇団暁『花の侠客 扇屋十座』より三咲大樹副座長の十座(12/17@篠原演芸場)

素晴らしい当たり役&当たり芝居だった。
副座長への昇進披露公演という、最高におめでたい日!

当日の記念品・クリアファイル

美しい映像を使った、遊郭・扇屋の内観。これだけでもすでに楽しい(遊郭と説明されていたけど、舞踊ショーが見られる高級料亭のよう。春夏秋冬のゾーンに分かれている。すでに行ってみたい)
十座はその扇屋のオーナーだ。

十座は困難を乗り越え、男たちに認められて扇屋を取り戻すけれど、荒々しいばかりのやくざ者にはならない。芸妓たちへの優しさ、大らかさはそのままで勝利をおさめる。
優しい男の子が優しいまま、カッコよく生きていける物語(脚本は市川謙太郎さん)。
男性の表象も、女性の表象も、きっともっと豊かになるだろうと思わせてくれた一本でした。

■番外

10本に入りきらなかったけど、どうしても追記したい役も書いておきます。

★劇団美松『まぬけ武士道』より藤川真矢さんの子分役(4/24@川越温泉湯遊ランド)
わざとぶつかって主人公から金を巻き上げる、チンピラ役ですが…驚きの弟分とのカップル設定(お相手は市川華丸さん)。そしてセリフがすごく個性的。
「(ぶつかった主人公に)何てことするんだ!(弟分を抱きしめ)この子の可愛い指先ちゃんが、五つに割れてしまっているじゃないか!
チンピラの脅し文句でこんなに笑ったことない(笑)この役を涼しい美貌で、全力で演じてくれる真矢さん。

当日のお写真

舞台は可能性に満ちていると、教えてくれた子分役でした。また観たいな~


★劇団美山『女殺油地獄』より里美京馬副座長の与兵衛(9/20@浅草木馬館)
毒母に追いつめられ、必死で妹も恋人も救おうとした与兵衛。
「何とかするから」と妹に言う様子も、いたわしい。
殺人シーンでは、何でこんなことになってしまったのか…と、涙が出た。
2021年、京馬副座長の誕生日公演のお芝居に、さらに磨きをかけられて👏

当日のお写真


母に追いつめられる、柔らかな青年としての与兵衛。
成長できなかった悪人としての与兵衛(スーパー兄弟さん版はこちら)。
解釈によって、物語が変容する。二つのバージョンはどちらがよいというのではなく、一つの事件の見方違いなのでしょう。


■新風プロジェクトの思い出

長い記事の最後に…2022年は信じられない幸運があった。
篠原演劇企画様の新風企画のひとつ、芝居アイディア募集に「冬桜」「恋の形見」の2作品を応募。そして何と、選定いただいた!‹\(´ω` )/››‹‹\( ´)/››‹‹\( ´ω`)/››

一生の宝物の台本

小さなお芝居の種が、プロの脚本家(渡辺和徳様、坪田塁様)の手で台本となり、素晴らしい演者のひと役となる。新風プロジェクトのおかげで、大きな願いがかないました✨
ご出演されたすべての演者様が、すべての役を輝かせてくださったこと。感謝を込めて書き記します。ありがとうございました!(とても選べないので、上記の10芝居からはあえて外しています)



台本、脚本家、脇を固める役、主演…いくつもの要素が重なり、織り成される【当たり役】。
2023年もたくさんの当たり役に出会えますように!