「Maybe,もしかしたら」里美京馬副座長の喧嘩屋五郎兵衛
2022年5月、まばゆいひと月だった。
劇団美山さんの篠原公演!
豪華ラインナップの中でも、待ちわびたひと役がありました。
5/3(火)夜「喧嘩屋五郎兵衛」
舞台中央、里美京馬副座長の高い身長が見栄える。
舞台は薄暗い。
五郎兵衛が、客席正面を向いて、立ち尽くしている。
八百屋は去り、兄は奥へはけ、五郎兵衛は一人きり、自分の顔に触る。
最初に、綺麗な方の頬。
そして、焼けただれた方の頬…
大きな目が見開かれている。
その「顔を触る」という演技から、魂を切り裂くような悲しみを感じた。
右と左、顔の中心で真っ二つの人生の、あわいからこぼれ落ちる【もしも】。
もしも、火傷がなかったら。
もしも、どちらの顔も、生まれた時のままだったら。
人生は、こんなところへは来なかった…
何万回もの【もしも】が、苦しい夢を見てうめく。
副座長の五郎兵衛は、何年も待ち焦がれた役だった。
たびたびかかるお外題ではあるのだけれど、平日が多めでなかなかお目にかかれず…💦
5/3夜公演、直前までシークレットだったお外題が、「喧嘩屋五郎兵衛」とアナウンスされた瞬間、(待ってました!)と心の中で快哉を叫んだ。
京馬副座長は、ものすごく客席に愛される役者さんだ。
美しい容貌、高い技術、圧倒的な明るさ、チャーミングなキャラクター。
演者の愛らしさと、五郎兵衛の苦しみが組み合わさった時、この物語の本心が炙り出されるように思える。
死んでも破滅しても、人間である限り、他者の愛情を欲しがらずにはいられない。
五郎兵衛は、お嬢さんに夢を見なかったら、立派な侠客のまま死ねただろう。
むごい夢の名を、愛情という…
芝居の熱醒めやらぬ帰路。
中島みゆきさんの「Maybe」という名曲を思い出した。
五郎兵衛は、お嬢さんを知らないままの方がよかったのだろうか?
この世にはきっと、そういう生き方もある。
夢見ることも、愛情を欲しがることもやめ、心を凍てつかせて、淡々と日々をめくってゆく平穏がきっとある。
けれど五郎兵衛は、夢見ずにはいられないのだろう。
捨てきれなかった「もしかしたら」を、歳月の分だけ祈り重ねて、自滅してゆく。
歳をとればとるほど、この芝居は心にしみるだろうと思う。
さて、劇団美山さんの5月公演は、ものすごく楽しく終わりました(´ω`)
満席のゴールデンウイーク
次々踊る「新作狂言」の四文字
5/13には初のたかし総座長&京馬副座長のお祭り(「お江戸土産」素晴らしい一本でした。絶対に定番化してほしい)
豪華絢爛な5/16の原点回帰
お祭り続きの最終週
5/28の京馬副座長のお誕生日&襲名披露公演(「木蓮」これまた最高でした再演を心から希望します!言霊パワーを信じる!)。
職場の空気を読みながら有休カードを切り、22公演を鑑賞。
客席の私もしっかり燃え尽きた~
しかし、美山さんは9月末まで関東公演。
まだまだ折り返しも先。
あと3か月半、個性豊かな役者さんたちの、色んな役を観られますように!