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ゾンビになっても

羽毛布団を洗う。

夜半寝苦しい日が続いた。
夏布団を引っ張り出してきてからも、羽毛布団は「そこ」に置かれていて、申し訳なさそうに部屋を狭くさせていた。

それから1ヶ月、流石に肩身の狭い立場に置いていることに耐えきれなくなってコインランドリーへとやってきました。
また冬にな、と洗濯機に閉じ込めて、siriにタイマーを頼む。
隣のコンビニでコーヒーを買って時間をつぶす。

その日ラーメン屋に行くと雨だというのに行列ができていた。

いつものようにイヤホンでラジオを聴きながら並ぶと一つ前に並んだおじさんがこちらを見て何か言っている。
イヤホンを外すと、「お兄さん、この店のこれ食べとけ!ってメニューある?」という声が雨の中に聞こえた。
その店ではラーメンしか食べたことがなかったけれど、かねてから美味しそうだと思っていた砂ずりピーマンもついでに紹介、と、いうところで、席へと案内されたので流れで相席することとなった。

おじさんは前日名古屋から前乗りしたらしく、タクシーの運転手におすすめの店をきいてこの店へと辿り着いたらしい。

とりあえずバリカタにしといたらいいです。
実は砂ずりピーマン食べたことなかったのでちょっとください。
俺イチオシの福岡みやげはなんばん往来なんで、ぜひ買って帰ってください。

なんかそんなようなことを言ったと思う。
おじさんはかなり満足そうで、その場はご馳走してくれた。
じゃ、と言って別れた。

『怪物』をみた。
『誰も知らない』をみた。
『空気人形』をみた。
『リンダ リンダ リンダ』をみた。
『涼宮ハルヒの憂鬱』をみた。
『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』をみた。
この映画をみると、ELLEGARDENの『スターフィッシュ』がなぜか無性にききたくなる。

こういう自分だけの連想ゲームが知らぬ間に開催されているのに気づくとちょっとうれしい。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜とか♪」ってところ、初めてきいたときからずっとおもしろい。

iPhoneのタイマーが鳴っても大抵洗濯は終わってなくて、アディショナルタイムで洗濯機は回り続けている。
2,3分待って、布団を取り出す。
濡れた布団はいつもよりききわけがよくて畳みやすく、乾燥機にちんまりと収まってくれる。

脳が停電して思考停止状態に陥ってもサブバッテリーは稼働している。
人間だった頃の生活を繰り返すゾンビみたいに動く。

ゾンビになってたどり着く場所やモノが俺にはどうやらたくさんあって、それはもはや「好き」とかではないかも。
俺にとってそれはコインランドリーだったり、ラーメンだったり、『涼宮ハルヒの憂鬱』だったりする。
もし俺が東京でゾンビになったら、浅草にいるだろう。

写真や映像で初めて見たときから、雷門のデカい提灯、かっこよすぎる。と思っていた。
大学生になって自由に旅行できる力を手に入れてから、東京旅行で隙を見つけると浅草に通った。
ジャケットだけでくるりの『アンテナ』が好きだった。

何度目かの浅草、友達と2人で食堂の名を冠した店でお酒を飲んだ。
学食のような長机に向かいで案内されて、鬱陶しい俺たちはアイデンティティがどうのこうのとほざき、相席のようなカタチで後から通された隣の中年男子2人はアベンジャーズの話に熱くなっていた。
(その頃はMCUに明るくなかったからピンとこなかったけど、いま思うときっとエンドゲームの話をしていた。)
その温度差がきっと4人の胸にずっと引っかかっていて、(不)自然と4人で会話するようになっていた。
アルコールの力は偉大だと思った。
中年2人が行きつけだというスナックに連れられて、ジュリーとか布施明とか歌った。
俺は次の日の朝イチの飛行機で帰る予定だったので終電でお先にさせていただいた。
乗る電車を間違えていたみたいで、夜中に空港まで3時間畦道を歩いた。
名前も知らない2人が自分たちの未来のように思えて、真っ暗な道も何となく明るく感じた。

何度目かの浅草、何をするでもなく歩いている。
最高の思い出がある食堂をふと見つけた。
同じ思い出をもつ友達へと写真を送ろうとしていると、外国人の女性に Excuse me. と声をかけられた。
どうやら写真を撮ってほしいそうだ。
中学レベルの英語を駆使して、ミッションを済まし、別れる。
このとき俺に電流が走る。
気づいたときには2人でSELFIEを撮っていた。
一緒に浅草寺を参拝し、ロック座でストリップをみた。
So long! と言って別れた。
また少し浅草のことが好きになった。

乾燥機の中でふかふかになった布団を取り出す。
いつもよりも膨らんだ布団は抱え込むのも大変で、でもそれも何となくうれしく思う。
布団を袋に詰め込んで圧縮すると、巨大なタラタラしてんじゃねーよが出来上がる。
それを半分に折り曲げる。
氷の溶けきったコンビニのコーヒーを飲み干して生活は続く。

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