君の特別になりたいと言ったら特別の定義ってなに?と聞かれて答えられなかったあの頃はきっと誰の特別にもなれなかった。

「本当いい女だと思うよ。いい女になったよ。」

大好きだった男に言われた。
大好きだったけど振られた男に言われた。
好きで好きで仕方なかったけど付き会えなくてそれでもよくて
結果同時進行に遊んでた別の女と結婚した大好きだった男に言われた。

なんで上から目線なの?
既婚者という余裕ぶっこいた立場だからそう思えるじゃないの?
かつて自分を好きだった女と今も会う理由ってなに?
ひどい遊び方してひどい振り方した償い?
まだ独りでいる私への哀れみ?

聞きたいこと言いたいことはいっぱいあるが
今でも定期的に会いたくなる私も私だ。結局そういうとこだよなと我ながら思う。

彼と出会ったあの頃の私はたしかに重かった。
メンヘラという言葉の正しい意味や使い方はわからないけどまぁ所謂そういう属性の人間であるが
当時は自分に何もなくて何も信じられなかにて心も弱くてそのくせ女を武器に出来ると変に過信していたので
メンヘラ度はかなり高かったであろう。その時期に出会ってしまったものだから
私の中では彼が世界の全てだった。

散々ひどいことをされた。
セフレとも違うが決して本気ではないとずっとずっとわかっていながら
それでも良いと思うくらい彼が大好きだった。
人に流されて他人に依存することしかできない私にとって
自分が大好きで自分を強く持っていて芯がブレない彼は魅力的だった。
そんな彼の隣にいるというだけで私は生きていける理由になった。

ある日彼の家に泊まりに行ったら
妙に部屋が綺麗だった。
どこがと言われればわからないが何か違うなと感じた。
その勘は当たったのか、リビングのテーブルの下に黒いビニールのヘアゴムが落ちていた。

やはり女が来たか。

その時にもう終わりだと思ったのを痛烈に覚えている。
もちろん彼女ではない私に始まりも終わりもないのだし
彼がどこで誰と遊んでいようと関係ないのだが
それも全部わかっていての終わりだと思った。
ただ女を理由に振られるのが悔しかったから
私から終わりにしてやろうと思った。

それで最後にと
借りていたCDを返すことを理由にして
最後のラブレターと共に彼のマンションのポストに投函しようと計画した。
終わりの素振りを見せずに突然おしまいの通告をいれてやろうと意気揚々に向かったある秋の日曜日。
マンションからコンビニに行く途中の道で彼と女が歩いてた。
明らかに泊まり明けの姿だった。
彼も気付いて驚いていたけど互いに気付かないフリをした。
私はすぐにでも殴りかかりたかったけど必死で堪えた。
涙も堪えた。

結局振られたんだ。
そして彼はその女とすぐに結婚した。

彼のことは今でも好きだ。
もちろんあの頃と違う好きだけど一回好きになった人はなかなか嫌いにはなれない。
そんな彼に「いい女になった。」と言われて嬉しくないわけがない。
でもここまでの道のりは長かった。
もちろん彼との恋愛の後、恋愛だけでなく人生に色々とあった。
仕事も頑張ってきたと思う。
そういう結果から得たものはたくさんある。
失ったものもある。
それでもまだ手に入らないものもある。
こうやってなにかを手に入れ失いながらも強くなることが正しい道なのかもわからない。
強くなる自覚はあるけどそれでもまだ自分を好きになれないし好きになった人は信用できない。
そう思うとこのやり方は正しいのか。散々ひどいことをされた彼に今も尻尾振って会うことが正しいのかもわからない。
あの頃の傷はもう癒えたけどその過去は傷の痕は消えない。

でもボーナス入ったんだと笑いながら奢ってくれる彼が好きだ。
円満なの?と尋ると「うん」と即答した彼が好きだ。
「いい女になったんだから幸せになれよ」と言いながら奥さんと猫のいる家庭に帰る彼が好きだ。
結局私はいつまでも彼が好きなのだなと思った。

ところでいい女ってなに?
お前はいい男なの?


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