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無冠だったシーズンの終わり



ベンゼマとモドリッチのゴールで逆転劇を演じたこのチームは結局のところ無冠のままシーズンを終えることになった。リーガをアトレティコに譲り、CLでは準決勝でチェルシーに完敗を喫した。今季最終盤までタイトルの可能性を残すことができていたのはクルトワ、ベンゼマ、クロース、モドリッチあたりの主力選手がキャリアハイに準ずるパフォーマンスを出し続けてくれていたからに他ならず、鬼気迫る彼らのパフォーマンスは感動的ですらあった反面、チームとしての今季のここまでの戦いぶりは出来過ぎとも言えた。守備陣を中心にけが人が続出し、トップチームの選手だけではスタメンが組めないほどの苦境に陥った。散発的な活躍こそあったもののベンゼマ以外のアタッカーは2桁得点に遠く及ばず、カゼミロの攻め上がりとセットプレーで渋い試合を拾っていたチームを俯瞰的に総括すれば、タイトルが望めるような状況ではなかったことも今となっては理解できる。

だがクラシコはダブル、アトレティコにも勝ち越し、インテル、アタランタ、リバプールといった欧州の並いる強豪を粘り強く地力でなぎ倒していくその勝負強さに自分は大きな期待をかけていた。ロナウド移籍以降、サッカーファンの間でジリジリと評価を下げているように見えるマドリーのカムバック、帰ってきたジダンと共に、というストーリーに心を踊らせていた自分がいた。今年のチームにはそれを成し遂げるだけの力が十分に備わっているかもしれないと本気で思い始めていたし、会見の口ぶりからはジダンの考えもそう大きくは違っていないであろうことが見て取れた。CLは取れて当然のタイトルではない。そんなことは百も承知しているのだが、ジダンにはそれを覆す特別な何かが宿っているのだと信じて疑わなかったし、事実監督になってからのジダンは持っているとしか思えない困難な達成をいくつも成し遂げてきた。コロナによる中断後のチームをまとめ上げ10連勝&リーガ優勝を飾った昨季のそれもそんな偉業の一つに入ると言っていいはずだ。だから第二次政権でそうした魔法が失われているとも思わなかったし、ベテランを多く抱える”古い”チームであることこそが勝ち筋になり得ると信じていた。去年夏のCLベスト16シティ戦はラモス不在のチームが運に見放されてしまっただけだと言い聞かせ、チェルシー戦1stレグの頭を抱えたくなるような不味い入りは試合を読み間違えたジダンのちょっとしたミスで、2ndレグは百戦錬磨のウチが若いチェルシーに一泡吹かせてやるんだと意気込んでいた。だが結果はそうはならなかった。慣れないシステムで明らかに動揺して見えるマドリーの選手達を尻目に、勢いのあるチェルシーはチャンスを量産し(そしてそれをたくさん逃し)、月並みな表現だが、スコア以上の差を露呈した。メディアもファンも論調は同じで、ジダンの当てが外れたというものだった。昨季のシティ戦に続く、CL神話の崩壊。サイクルの終わり、ジダンの監督としての運の尽き。そんな考えが頭を過ぎる。スーパーリーグ構想が頓挫したことで、予定されていた今夏の大型補強は雲行きが怪しい。来季以降この古いチームが上積みもないままにプレミア勢と渡り合っていける保証はどこにもない。

この稿を書いている段階ではジダンの来季の去就は不明だ。個人的な見解を述べさせて貰えば、そしてそれはここまで書いてきたことと大いに矛盾しているようにも思えるが、もうジダンとのお別れは懲り懲りだ。またいなくなるなんて言い出さないでほしいと本気で思っている。ビッグマッチを尽く落とし、ノーインパクトで全ての主要大会から姿を消した18-19シーズンのトラウマはまだ癒えていない。何より自分はまだジダンとこの夢の続きが観たいし、クルトワやベンゼマ、クロースを中心としたこのチームでCLが取りたい。彼らが受けるべき称賛を正当なものにするために、王座が欲しい。そしてその真ん中にはジダンがいてほしい。タイトルこそ逃してしまったがベテランが気迫を見せ、最後まで死力を尽くして闘った今日の逆転勝利が、そんな来季の布石となっていてほしいと思う。シーズン終わっての雑感。


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