野ばらちゃんサイン会の日の日記

いつでもこの日をもう一度体験した気分になれるように、日記に記す。オチのないただの日記です。


5月11日。ジュンク堂書店大阪本店で行われる嶽本野ばらちゃん(愛を込めて野ばらちゃんと呼ばせていただく)のユリイカ発売記念サイン会に参加するため、早起きしてメイクを済ませた。
この日のために購入した新しいグロスとクッションファンデを使う。わくわくする気持ちと緊張により、鏡の前に厚化粧の女が爆誕。

私は野ばらちゃんの本と出会って20年程になるが、全ての著書を読んでいるわけではないし、サイン会情報なども見逃し続けていたため、熱心なファンとはとても言えない。
だけど、野ばらちゃんのエッセイである「それいぬ」「パッチワーク」は中学生の頃からずっと私の人生のバイブルだ。周囲と歩調を合わすことができず、この世界から私の存在がふわっと消えないかなぁと願っていた日々で出会った聖書。その筆者、野ばらちゃんに、初めて会いに行く。

ずっとお洋服のことを書き続けてきた野ばらちゃんに会うのだから、こちらもお洋服には気合いを入れたい。とは言え、私はファッションが好きではあるけど、ハイブランドの服を着こなすような人間ではないし、ロリータでもない。
悩みに悩んだ挙句、大きなフリルのついた白いブラウスとネイビーのズボン(あえてズボンと言うのはノバラーのお約束)、黒のミニバッグ、サブバッグにファミリアのピンクギンガムチェックのレッスンバッグを持つことにした。
いつもの格好だし、高価なお洋服は1着もないけれど、お気に入りで固めた。これが今の私の精一杯の正装だ。

せっかくなので、野ばらちゃんにお手紙を渡したいと思った。本当に好きな人に書く手紙は、便箋選びも緊張する。前日に、昔集めていた可愛いレターセット達を引き出しから出し、不思議の国のアリスの柄のものを選んでおいた。とても可愛い。きれいに保管していた自分を褒めたい。

肝心の中身はiPhoneのメモ帳に文章を作っている。今日は夫に娘のことを任せてたっぷりと自由時間をもらったので、早めに書店へ行き、まずはユリイカを購入。整理券をもらい、近くのカフェでお手紙を書いたり、本を読んで過ごそうと決めた。

無事にユリイカを購入した後、ジュンク堂書店大阪本店が入っているアバンザ堂島の近くにはロンドンティールームがあったはずだと思い、行ってみることに。現地に着くと、まだお店が混雑する前の時間帯だったのでゆったりと過ごすことができた。

実際はもっと照明が暗い。吊り下げられたマリオネットやレトロな電飾がたまらん。

サイン会まではまだ2時間ある。ぶっ倒れないように何かお腹に入れなくてはと思い、スコーンとアイスロイヤルミルクティーを注文。今日は奮発してクロテッドクリームも追加した。

ここのロイヤルミルクティーが美味しいのは無論のことだが、氷も良い。製氷機で均等な形に固められた氷ではなく、アイスピックで削られたであろうザクザクとした氷が入っている。
別に違いの分かる女ではないので、どんな理由でこの氷を使っているのか知らないけれど。(知らんのかい)なんとなく、より美味しく感じる気がする。外はとても暑かったので、冷たく甘いロイヤルミルクティーを飲んで生き返った。
スコーンはふんわりとさっくりの中間、絶妙な食感でとても美味しい。クロテッドクリームやジャムをたっぷりつけていただき、やや胃がもたれる。

スコーン大好き。ご馳走様でした。

2つのスコーンを平らげ、お手紙に取り掛かる。ロンドンティールームで一人食事をして、好きな人にお手紙を書くなんて、ここ数年で一番贅沢な時間の使い方かもしれない。私は結局、こうやって一人でゆったりと過ごすのが心の回復には一番効くのだなと思った。お手紙は便箋4枚にびっしりと。まだ集合時間まで少しあったので、購入したユリイカを読んで過ごす。

時間が近付いてくる。あと30分程となり、堂島アバンザに移動。お手洗いの鏡の前で、やっぱり厚化粧やなぁなどと思いながらもまたグロスを塗る。引き算ができない質。rom&ndのgrapy wayというカラーのグロスはふんわりとグレープの香りがしてとても可愛い。

サイン会集合時間まであと5分程。会場のあるフロアへ移動し、参加者の皆さんが集まっている場所へ。寒い。冷房の寒さと過度な緊張により、体はガチガチ。喉はカラカラ。
小さなイベントスペースに並べられた椅子へ案内される。座って直ぐにカバンに忍ばせておいたタブレットを口に放り入れ、喉を落ち着かせた。

しばらくすると、トタン、トタンというような独特な音が聞こえた。野ばらちゃんのロッキンホースの音だ!と思った瞬間、衝立の向こうに本当に野ばらちゃんがいた。2つの衝立の隙間から待機スペースを覗くおちゃめな野ばらちゃんに笑いが起こる。
スタッフの方とお話する声が聞こえ、隙間から少し見える野ばらちゃんの姿に胸がいっぱいになった。

自分の順番がきて、衝立の向こうにいる野ばらちゃんと向き合う。緊張と、やっと会えたという安堵。野ばらちゃんは優しく笑ってサインを書いてくれた。サインを書く野ばらちゃんの腕がきれいで、細くて。標本にしてずっと眺めていたいと思った。

お手紙を渡し、写真を撮ってもらう。写真撮影の間はゼロ距離。頭をこつんと引っ付けて、肩に手を回してくれる野ばらちゃん。こんな風に、読者との“君と僕”の世界を一人一人と体現していくことがどんなにすごいことか。やっぱり野ばらちゃんは神様だし教祖だ。
私は会話をする余裕などなく、「お願いします」「写真お願いします」「ありがとうございます」という業務連絡のような言葉しか発せなかった。野ばらちゃんはしっかり顔を見て目を合わせてくれ、「ありがと~」と言ってくれた。野ばらちゃんの出で立ちはかっこいいという言葉が似合うけど、雰囲気はゆるふわだった。可愛い神様だ。

本当に言いたいことは全部お手紙に書いたし、今日それを渡せればもう悔いはないと思っていたけど、やっぱり一度会ってしまうとまた会いたいという欲が出てきてしまう。「また会いたいです」と言いたかった。

ふわふわと書店を後にし、せっかくだし行ってみたかった喫茶店「マヅラ」で今日の日記を書こうと思った。夢見心地でふわふわしながら歩く大阪駅前第1ビルは迷路である。通常でも目的地にたどり着けないのに。通りすがりの外国人も迷っていたらしく、案内図を眺めながら「Labyrinth…」と言っていた。

無事マヅラに着いたが、近年のレトロ喫茶ブームにより、私が求めていた喫茶店の雰囲気ではなくなっていた。若者達で溢れかえっている。アイスカフェラテを注文したが、その雰囲気に耐えられず、15分くらいで店を出た。帰路につく途中、何度もスマホを取り出して野ばらちゃんと撮った写真を見て「夢じゃなかった」と確認した。

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