フィクション@202303

今月に入って、もう1万人の大台を超えたらしい。
単純に考えても、人口が1万人増えたというのだから、効果はテキメンって訳だな。

法案が可決されたのはだいたい半年前。AI技術の発展によってあらゆる問題が解決された日本に残されていた課題はたったの2つ。少子高齢化に伴う猛烈な人口減少と、電車の駆け込み乗車。
さすれば、この2つを同時に解決したいと考えるのは至極真っ当なもので、実際に雨後の筍のように研究チームが乱立した。
どのチームも似たり寄ったりな研究だったが、エジソンとベルが如くタッチの差で名を挙げたのはエヌ社だった。

もはや初めからそうであったかのように、電車のドアは全て、現行の「人間カット増殖ドア」に置き換えられてしまった。
さすがの技術力だ、と辛口のコメンテーターも舌を巻いていた。

コロンブスの卵とはよく言ったもので、「駆け込み乗車で挟まった人を半分に分けて人数を倍にしちゃう」という簡単なアイディアすら、永い間(リチャード・トレシビックが電車を発明した1802年から、実に500年!)検討されることはなかった。
この分なら、日本に新たに生まれた「課題が無くなった」という、解決不可能にも思われる課題も、エヌ社が解決する日は近いに違いないだろうな。

(人声天語 書き写しノート 1日目)

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