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すべてまぼろし


10中のオフは久しぶりに2日間帰省した。

行きたいところに行けたし、食べたい物も食べることが出来てとても充実した時間だった。


帰省するといつも必ず行く神社がある。1日目はその神社に行った。

そこは鳥居をくぐった瞬間、空気がひんやりとしてパリッと張り詰めた感じになる。鳥居の向こうから木が高く生い茂っていて、影が出来て気温が低くなっているからだと思う。ここに来るといつも心が静かになる。土や植物の匂いがして、水が流れる音がする。この静かで穏やかな感覚をよーく覚えて、心が乱れた時に自在に取りだして、身に纏えるようにしたい。

おみくじを引いたら末吉だった。細かいミスに気をつけろ。色に溺れるな。って書いてあった気がする。


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2日目は昔住んでいたアパートの前まで行ってみた。確か築50年以上だったと思うけど、改装され、清掃もキチンとされてかなりきれいになっていた。しかしアパートの入り口から見える101号室の大きな窓には相変わらずカーテンが無くて、大量の漫画とダンボールが乱暴に積まれているのが透けて見えた。そこは3年前と全く変わっていなかった。


この2日間の道中、見たことのある後ろ姿、横顔と何度もすれ違い、聞いたことのある笑い声を何度も聞いた。

神社のベンチで、信号待ちで、駅の構内で、お土産屋さんで。

その人たちは、中学、高校の同級生、先生、仲が良かった友人達だった。

しかし、よくよく見つめてみると全員人違いだった。

もしかしたら、バッタリ会うかもしれないって心のなかで思いながら歩いていたのかな。




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しばらくしてアパートを離れて、最寄りの駅まで戻ろうと歩いた。天気が良くて、動くと暑くて長袖のワンピースに汗が滲んだ。風が吹いて、セイタカアワダチソウや枯れ草が揺れた。気持ちが良かった。昔ここに住んでいた頃はもっと張り詰めた、切羽詰まった気持ちで過ごしていたと思う。駅までの道を、空や草を見ながらのんびり歩いた。こうしていると、爆音で音楽が流れてカラフルな照明の中、ステージにいるあの時間は幻だったかのような気がしてくる。






東京で過ごした時間は、全て、幻。いつかこの仕事を辞めて故郷に帰ったら、そんなふうに思うかもしれない。























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