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かなしみは至高の味わい


朝起きたら
君のみずいろの「かなしみ」が部屋に散乱していた


床やマットやソファの上に
たくさん落ちていた


僕はただ拾い集める



君はまた泣いていたのか



拾い集めたかなしみはおっきな塊になった
それを僕はキッチンに持って行き
千切りにする
ざくざくざくっと素早く刻む



君が急に起きて「かなしみ」を刻んでる僕を見ても
気に病んでしまわないよう
うっすら微笑んで
「かなしみなんて屁でもないよ」という顔で
盛大に刻む



「かなしみ」は
ただの「かなしみ」だ


君も僕もそれを感じたくて生きてる
感じたいのは「かなしみ」だけじゃないけどね



刻んだ「かなしみ」をボウルに入れて
粗塩をぶちこむ
ボウルをまわしながら手でガシガシと揉む


ふんわりもこもこしていた「かなしみ」は
あっというまにしんなりした


「かなしみ」はさくらの花びらと一緒に漬け込むと
おいしいリキュールになるんだ
君は信じてないみたいだけど



いつもの壺に
しんなりした「かなしみ」をそっといれて
きのう集めてきたさくらの花びらをたっぷりのせた



次のさくらの季節には
かなしみはただの美しい味になるんだ
今は体の奥が焼けるように悲しくてもね



ひらひら舞うさくらの花びらのなかで
君は「さくらとかなしみのソーダ」を
目を閉じて味わう


つぎはそんな春にしよう





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