入試にでた英語小説を読む(1)
はじめに
わたしのささやかな趣味は赤本(大学入試)の英語問題を読むことです。TOEFLやGMATなどの語学試験の長文はかなり読み応えがありますが、個人的には大学入試の過去問(赤本)を推しています。理由は2つです。一つは、赤本はブックオフでーー最近220円コーナーが無くなり390円と値上がりしましたがーー廉価で買えます。もう一つは、出題英文の出典が明記されている場合が多いからです。なお2点目についてはTOEFLもGMATも出題英文の出典はありません。
個人的には2点目がかなり重要で、赤本を購入するときには英語長文の出典を確認して、出典がThe New York Times、Time、大学出版局など所謂社会人向けの読み物の過去問を選んでいます。そうなると和歌山県立医科大学などの単科医科大学、千葉大学の後期日程など必然的に最難関大学に絞られます。こういった大学の入試英語は読み応えはあるので英語力養成には役立つ気がします(余談ですが、上述の問題を見るたびにこれをパスした受験生は凄いなとただただ驚嘆します)。
入試英語で小説を読ませる
東京大学の総合問題では小説がしばしば出題されますが、英語長文が小説というのは珍しくはありません。明治大学の入試では英語長文に小説が何度も出題されています。たとえば、村上春樹が愛してやまないレイモンド・カーヴァーの『大聖堂』、『チャーリーとチョコレート工場の秘密』で有名なロアルド・ダールの『魔女たち』が過去に出題されています。入試として解くのではなく、読み物と捉えると非常に面白いです笑
全ての大学入試に目を通したわけではありませんが、印象として医科大学、医学部の入試英語では医学や倫理など医師に必要な見識に纏わるテーマと並行して、小説が出題されているケースがまま見受けられます。たとえば福井大学医学部医学科では、これまた村上春樹の大好きなティム・オブライエンの『本当の戦争の話をしよう』が出題されています。また和歌山県立医科大学では、英国推理小説家サラ・ウォーターズの『エアーズ家の没落』が出題されています。このように文学部ではなく医学部で小説が出題されるケースは珍しくありません。
もちろん入試なので小説の抜粋なのですが、抜粋だけ読んでも面白いものが少なくないのです。おまけに解かせる問題もきちんと英文が読めているのかを問う良問ばかりです。
私の知る限り学習参考書で英語の小説問題だけを取り扱っているのは、河合塾の『東京大学英語②:物語・小説文』だけです。
物凄い数の英語参考書があるなかで、これしかないのも意外です。もっと様々にあっても良い気がします。
英語小説の読み方:第一段落が要
ここからは、わたしの入試英語小説の読み方を紹介します。今回は前述のティム・オブライエンの『本当の戦争の話をしよう』を扱います。この本は短編集で福井大学医学部医学科の入試では短編1本が出題されています。書き出しからオチまで読めるので何とも贅沢です笑
私見として小説の冒頭は最も重要です。たとえば文学賞に応募するとしたら、選考の段階で冒頭がつまらなければ掛け値なしにボツになるはずです。私自身、書店で本を買うときには紹介文と書き出しを読んで買います。
そんなわけで今回は入試で出題された冒頭を取り上げます。
書き出しは「9歳のときに娘のキャスリーンは、わたしに尋ねた。わたしが人を殺したことがあるかを」です。ここで物語の場面設定が見事に提示されています。5W1Hで考えると、娘が、9歳のとき、(おそらく自宅で)、(好奇心から)、素直に、父親に尋ねる、でしょうか。つまりこの小説は冒頭を読めば状況がわかります。これは物凄く重要です。場面の把握ができなければ物語の筋は追えません。
この小説は日常の一コマから始まりますが、会話の内容はかなりシリアスです。そこから(1) “I did what seemed right”の説明問題がきます。(1)はすべて中学レベルの語彙の問題ですが、話の流れをきちんと理解していなければ答えられません。とても良い問題です。
解答としては、「正しいと思うこと、すなわち、もちろん(人を殺したことは)ないと答えた」と書ければ及第点です。きちんと読めば括弧の箇所を補えるかもしれませんが、文脈を掴めていなければこれは難しいです。
やや話が逸れましたが、この冒頭を読めば物語の状況は掴めるのではないでしょうか。この作品に限らずですが、(冒)頭は何にしても重要です。とりわけ英語で小説を読むときには。