見出し画像

2023年ベストリリース16選

ダラダラした結果2022年ベスト記事(https://note.com/a_sunken_saw/n/nf41e4944784c)が2023年も半分以上過ぎたタイミングでの公開となってしまった反省を活かし、今回は16枚とコンパクトにまとめた記事をさっさと公開してしまうことにしました。といっても上四半期はもう過ぎていますが…。まぁ今年の冬は昨年と違って本当に忙しかったのでしょうがない。
そのうち49選の拡張版記事を公開するかもしれないし、しないかもしれないです。まぁ私生活と自分の作品作りの進捗次第ですね。



16. Euphorbia/Oculi Melancholiarum (Post Black, Shoegaze)

メキシコのポストブラックソロプロジェクトによる本記事で最も優美な作品。ウワモノはほぼ完全にシューゲイザー化しているが、節々に挟まれる絶叫やブラストビート、そして何より心地良さの下地にも常に陰鬱さがある空気から、確かにAlcestやAmesoeurs、Sadnessといった系譜にある音楽であることが分かる。


15. Seabed/蒼い空/くゆる (Heavy Shoegaze, Post Rock, Post Black)

新進気鋭のシューゲイザーバンドくゆるの最初の音源。きのこ帝国から続く国内シューゲイザーの流れとブラックゲイズ両方を感じる神聖さが豪快に鳴るリズムの上で日常性と混ざり合っていく。特に2曲目の蒼い空はブラックゲイズのシューゲイザーへの逆輸入として激情系でもゴスでもドゥームゲイズでもない第四の道を切り開いた名曲。


14. 「一種の過音」/nhomme (Skramz, Math Rock)

大胆な展開を見せながらもどこまでもミニマルさを保ち続ける変拍子。それでいてパズルの快感に酔ってはいない。露わになった時でも常に一定値抑制され続けているからこその激情がそこにはある。マスロック×Skramzは禅によって究極に達した。


13. Happyender girl/ex. happyender girl (ボカロ, Alternative Rock, Pop Rock)

丸っこく可愛らしい調声をされた初音ミクが歌うこのアルバムは、本記事において最もポップでキャッチーなオルタナティブロックでありながらも常にどんよりと重たい空気が纏わりついている。ある意味私はこの音楽をスロウコアとして聴いている。
この音楽性はまず第一にはボカロという真意の読めない歌声だからこそよって成されたものだろう。しかしそれは歌声だけの話ではない。私はex. happyendergirlの作曲者蝉暮せせせ氏ほど打ち込みのギターをうまく世界観に取り入れた作家を知らない。無機質の裏に歌われた巨大な感情があなたをあの教室や廊下の暖かく淀んだ空気へと引きずりこむ。


12. Death Ataraxia/Non Serviam (Noise, Sludge Metal, Power Electronics, Crustcore, Black Metal)

ノイズ、スラッジ、ブラックメタル、エレクトロニカ、ヒップホップなどを取り入れた混沌とした音像。ハイパーポップ以降のブラッケンドハードコアである。ヘヴィネスと浮遊感がぐにゃぐにゃと捻じ曲げられ入り混じっていく中吐き出された叫びが画面に張り付くように迫ってくる。


11. Desolation's Flower/Ragana (Doom Metal, DSBM, Skramz, Emo,  Slowcore)

Bell WitchやYobなどのスピリチュアルなドゥームメタルやブラックメタルにエモ〜スロウコアも取り込んだ陰鬱なサウンド。そこから立ち上がってくる血を吐くような叫びはどこまでも人間的で、飾らないが故の荘厳さをたたえる。このバンドはギターボーカルとドラムの二人編成ゆえドゥームメタルとしてはかなり音が軽いのだが、それさえも世界観の重さに一役かっている。King Womanや後述のArgwaan、内省的なハードコアが好きな人には是非聴いて貰いたい名盤。


10. Empty Homes/Loud As Giants (Drone, Electronica, Post Metal)

JesuやGodfleshといったインダストリアル、ヘヴィミュージックで筆者には馴染みの深いJustin K. Broadrickとアンビエント、ドローン作家Dirk Serriesによるユニットの1作目。シンセなのか加工されたギターなのか、ミニマルなビートの上で展開されるアブストラクトなテクスチャは光と陰を入り混じらせる。ところどころヘヴィなギターが鳴っていたりJesuに通じるところもあるが、こちらの方がより現象的であり、さらにテクスチャの複雑さも増しているように感じられる。派手なところはないがとにかく音に引き込まれる作品。


9. Nature morte/Big Brave (Drone Metal, Post Hardcore, Post Metal)

ヘヴィではあるがメタルではなく、またハードコアでもない。原初的なヘヴィネスを追求し続けるBig Braveの単独作としては5枚目のアルバム。3rd、4thでは空間を占拠する太いサウンドをうねらせていたが、今作は1st、2ndでの隙間を重視したアプローチが戻ってきたようだ。それでいて前の2作で培った多彩なアプローチと進化したプロダクションによって、今までで最も立体的な音像を創り出している。


8. Lief kind wrede wereld/Argwaan (DSBM, Post Black)

明らかにDSBM由来のサウンドだが、その力強さは明らかにDSBMの枠を超えている。King WomanやOathbreakerにも通じるドラマ性。しかしその精神は一方でDSBMを捨てていない。決して癒えることのない痛みや嘆きと前を向こうとする意思、葛藤の苦しみも全てそのまま曝け出すような印象のアルバム。


7. 宇宙から来た人/PSP Social (Slowcore, Post Hardcore)

ゆっくりと流れる音が日常や懐かしさの中に潜む異界を前景化する。これは現代日本の原風景である。このPSP Socialというバンド、前作までジャンク×エモのような電波上で育った感の強い作風だったのが今作で突然このような音楽性に変化したのだが、この流れまで踏まえるとより一層そのことが際立ってくる。
帯化やbetcover!!の『時間』が好きな人には是非聴いて貰いたい名盤。


6. Absurd Matter/Shapednoise (Hip-Hop, Noise, IDM, Power Electronics)

一定の周期を持って集合と離散を繰り返しているように見えるノイズの集まりは有機的とも無機的ともつかないが、それを乗りこなすラップによってビートとしての輪郭を確定され、やがて殺伐とした風景を形成していく。


5. 幽玄幽霊夏祭/死んだ眼球 (ボカロ, Experimental, Shoegazer, IDM, Power Electronics)

ハイパーポップやシューゲイズ、IDMなど、インターネット音楽の様々な流れが一堂に会し、豊かな伏流水を作る場所の一つにアンダーグラウンドなボカロの界隈が挙げられる。死んだ眼球はボカイノセンスや感性の反乱βなどといった名で呼ばれるそこから新たに現れた最大の才能の一人に数えられるであろう存在だ。
飽和しノイズと溶け合ったリズムトラックの後ろから歌が広がり天使の羽のように甘美な血の匂いを漂わせる。それはインターネット音楽であるが故にどこまでも生々しく我々の心に侵襲してくる先鋭的なイノセンス。2023年の讃美歌はぐちゃぐちゃになった日常の底で歪み蠢き続けるラブソングだった。


4. Four Notes/Cremation Lily (Experinental, Drone, Electronica, IDM, Noise, Shoegaze)

意志を持った流体の音。どこまでも広がる密室のような不思議な空間で揺蕩い、時に形を取っては歌を歌い暴力的なノイズと化す。そして空間と一体化し世界の組成そのものを変えてしまう。それも流転する前提の一時的なものでしかなく、全ては不定形なのだ。
この超越的な音楽はしかしそれでいて人に内在する歌そのものであり、どこまでも個人に閉じているが故に世界と接続する。


3. Split Tape/Black Yen, Saturnists (Post Black, Black Metal, Post Hardcore, Post Metal)

ポストブラックの新たなる希望とも言えるスプリット盤。先攻Black Yenは隙間を見せるポストロック、ポストハードコアのアプローチを取り入れながらも、それ故に獲得したダイナミクスとゴリゴリした質感を活かしてあくまでもブラックメタル然とした粗野さと荘厳さを構築していく。後攻Saturnistsはクラストコアやスラッジメタルにも通じるヘヴィネスアトモスフィアの塊が美しい。ポストブラックは最早精神的にシューゲイズと離れたところでも語り得る、ブラックメタルやハードコアの中に根を張った存在になったのだろう。両者共にポストロックを取り入れた美しいサウンドながらも地に足を付けた強力な推進力を持つこの音源はポストブラックのこのフェーズにおける現時点の最高傑作であると私は感じている。


2. 故郷で死ぬ男/SeeK (Blackened Hardcore, Post Metal)

渦巻く音と情念の塊が聴き手を凄まじい圧で巻き込み、押し潰す。そしてその中に荒涼とした心象風景が歌のように浮かび上がってくる。それ故の重さ。


1. When No Birds Sang/Full of Hell, Nothing (Doomgaze, Heavy Shoegaze, Post Black, Grindcore)

越境的なグラインドコアFull Of Hellとハードコアゲイズを代表するNothingによるスプリット。全体的に茫漠とした不安と爽快感が同居するサウンド。これらの要素が特に分かりやすく表れているのが3曲目のForever Wellで、前半のシューゲイザーにしてはあまりにもどんよりしたアトモスフィアから立ち現れる後半の突き抜け感は天国の晴れやかさと地獄の苛烈さ両方を持っている。
意外なようでいてどこか納得感もある2組によるコラボレーションは、未分化の光と闇を叩きつける最も混沌とした神聖さを顕現させた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?