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リカちゃんの話①新しい家

私の名前はリカ。リカちゃん、って呼ばれてる。小学五年生よ。学校には行った事がないけど。父は音楽家で母はデザイナー。弟や妹もたくさんいるの。でも一緒に暮らしたことはないわ。なんとなく、そんな気がするだけ。物心ついた時には箱の中にいた。安部公房みたいでしょw

気がついたら暗い倉庫の箱の中にいた。一年くらいいたかしら?それからヨドバシに移って、やっぱり箱の中にいた。朝早くから夜遅くまで明るくて賑やかなところだった。私のドレスが一年落ちで、なんとなく売れ残りな扱いをされてた気がする。

飛沫防止のアクリル板みたいなフィルム越しにお客さん眺めているのもすぐに飽きて、早く誰か買ってくれないかな、と毎日思ってた。子供達は熱心に見つめてくるけど、お姫様ドレスや、セットの小物がたくさんついているのの方が人気があった。私は、プレゼントには安いけど普段に買い与えるには高いって言う中途半端さだったみたい。

そんな時に、あんまり売り場で見ない中年ひとり客のおばさんがやって来て、売り場中の私を含むリカちゃんを吟味して(バービーやディズニープリンセスも見てたわ)、帰って行った。他のリカちゃんは「知り合いの子にプレゼントするのかな?」とか言ってたけど、私はきっと自分用で、また来るような気がしてた。

果たして、そのおばさんはやって来て、私を買った。薄々気づいていたけど、私のことはあまり好きじゃないみたい。私の顔が子どもの頃仲の悪かったお姉さんに似ているんだって。家についたら、そのおばさんのお気に入り男の子ドールがすでに二体いて、のん気に暮らしていた。私は仕事をするために買われたので、新しい家で暮らすからにはちゃんと働かないといけないのだった。

私の部屋。やっと箱から出られてせいせいした。首や胴に巻かれていた紐も取れた。

私の仕事は女の子服のモデル。仮縫いのモデルから撮影まで脱いだり着たり結構大変なの。おばさんは縫い子としては未熟みたいで、何回もやり直すし、縫製の途中でピンがついたままのを平気で着せるし、おばさんだからか、売り物としてどうなの?みたいなデザインの服を縫ってる。だからちょっと違うんじゃない?とか、これはキライ、とか、アドバイスでもないけど、意見は言うようにしてる。

他のリカちゃんから聞いていた、子どもたちとごっこ遊びをしながら生きていく毎日とは違っていたけど、やっと私にも新しい家ができた。

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