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なぜ糸原健斗は使い続けられるのか

打率.249 3本塁打 31打点 出塁率.304 OPS.613 得点圏打率.225。
至って平凡な打撃成績で、目立った守備力も脚力も無い。

なぜこの男が使い続けられるのか。

そして何故今年の成績は急激に悪化したのか。

今シーズンのあらゆるデータを基に推測をしてみた。

①なぜ糸原健斗は使われ続けるのか

1.献身性とチームトップレベルのミート能力

なぜ糸原は使われ続けるのか。

まずあげられるのが、高い進塁打率やチャンスで最低限の得点が期待できる献身性だろう。

例えば無死or1死でランナー2塁の場面。このケースで糸原は今季11打席立っている。ヒットこそ無いが三振は0で、堅実な右打ちでランナーを進めチャンスを広げている。
この進塁打率70%は犠打を含めた島田と並びチームトップ。2位の近本は54%なのでかなり高い確率で進塁打を放っていると言えるだろう。

無死or一死ランナー3塁or1.3塁or2.3塁or満塁

今度は無死or1死でランナーが3塁に居る場面。

糸原は今季このケースで19打席立っており、目を見張るのが三振0内野ゴロ9という所。高いミート能力を活かし、チャンスで三振せず確実に前に飛ばせるというのは1点が入る可能性が高く監督からすれば頼もしいものだろう。

そしてこの内野ゴロ9本のうち6本が得点に繋がっている。本塁タッチアウトが3つあるものの、打線の兼ね合いから3塁に居るのが、中野・島田・近本・佐藤輝といった足の使える選手達である場合が多いことを考えれば糸原のスタイルは合理的である。

19打席のうち13打席で打点をあげ、ランナーが3塁に居る場面での得点期待値は68%。

これは、母数が少ないものの80%を超えた山本(2つのスクイズも含む)に続いての2番目の数値で、10打席以上このケースで立った選手の中ではトップの数字だ。チャンスで糸原に回せば、チームの中ではかなり高い確率で点が入るという事になる。

ちなみに内野ゴロ9個という数字は異常で、2番目に多いのが近本・大山・佐藤輝の3個。糸原は明らかに自分の役割を理解し打席に立って、意図的にゴロを転がしているだろう。 

2.想像異常の勝負強さ

また糸原は内野ゴロでしか点を取れないのではない。2死後の得点圏打率は3割を超えており、佐藤や大山が残したランナーを綺麗に掃除している。

ツーアウトでの得点圏打率

この数字は島田・近本に続いてのチーム3位。
この結果には驚く方も多いだろう。
それもそのはず、糸原の得点圏打率そのものは.226とチームでも下の方である。

この得点圏打率の低さはチャンスでひたすら内野ゴロを打ち得点に結びつけているからであり、チャンスに弱いのでは無い。むしろ大山や佐藤といった主軸と変わらない勝負強さを持っているのである。

ノーアウト又はワンアウトでは自身のアウトを顧みず確実に1点を取れる打撃をし、ツーアウトからはしっかりと自分で決めきる。こういった「1点が欲しい場面」での得点期待値は近本の37%、大山の39%を糸原は上回り41%とチームトップである。

勘違いして欲しくないのは、これは1点が確実に欲しい場面で1点を取れる期待値なので
「打点チームトップの大山じゃないのはおかしい」や「得点圏打率.385の島田のはず」
などの批判はお門違いである。チャンスで複数打点を稼ぐ数値などになると糸原は下位に沈むだろう。

3.錆びないチャンスメーク力

阪神ファンの皆が掲げる「糸原健斗」といえば、"追い込まれても粘り強い打撃ができる出塁率の高いバッター"ではないだろうか。

実際生涯出塁率は.350を超えており、これは糸井の.388に次ぐチーム2位だ。近本でさえ.341と.350を超えれないのだからその凄さが分かるだろう。(糸井さんは歴代トップ10に入るバケモノ)

それが今季出塁率.303と持ち味が隠れている様に感じる。しかし、気にする事はない。

進塁打や内野ゴロを意識するあまり全体での出塁率こそ低迷しているが、ランナー無しという出塁を求められる場面での出塁率は.321と3割2分台を超え大山・近本・ロハスに次いでのチーム4位。その後に続くのが.307の山本なので、チャンスメイクもチームではトップの部類でしっかり仕事は果たしている。

ランナー無しからの出塁率(チャンスメーク率)

ちなみにランナーが1塁に居ると少し出塁率は上がり.323。これもチーム4位の数字だが、ランナーが得点圏に進んだ途端、内野ゴロやチーム打撃を意識するあまりか出塁率.264と大幅に低下する。こういった部分が今季の出塁率の低下の原因になっているのだろう。

つまりまとめると
①成績悪化を顧みない献身的なチーム打撃
(進塁打率1位、ランナー3塁時の得点期待値2位)
②ミート力を活かしたチャンスでの高い得点期待値 (2死後得点圏打率.306 チーム3位)
③返すランナーが居ない場合は、本来の持ち味を活かしてチャンスメイクも出来る。
(チャンスメイク率チーム4位)

こういった部分が信頼され矢野監督からは出番を与えられているのではないだろうか。

②なぜ成績が急激に悪化したのか

ではこんなにポジティブなデータが出ているのに何故成績は悪化の一途を辿っているのか。

まず1つ目は4月の不調が響き過ぎたという事だろう。開幕5番を任された糸原だったが、3月中の6試合で「5番・糸原」は終わりを告げ、
4月はあらゆる打順とポジションを転々とし

月間打率.147(68-10)出塁率.183 OPS.345

と極度の不調に陥った。本来なら二軍で調整すべきだったのだろうが、開幕9連敗&史上最低勝率を叩き出した最悪のチーム状態に加え、北條とマルテが怪我で内野手が不足気味に。

更に、糸原の変わりに出番を与えられた小幡が打率.158 木浪が.214 熊谷が.176とチャンスを掴みきれないなど、糸原は二軍で調整する間もなく一軍で試合に出続けることになった。
その結果が月間打率.147という数字であり、これが今でも数字の見栄えを悪くしてしまっている。

糸原 月別打撃成績

現時点での成績は
打率.248 出塁率.303 OPS.610
というものだが、復調した5月以降は
打率.271 出塁率.327 OPS.658
と糸原らしさが戻ってきている。4月にいち早く二軍で調整が出来ていたり、一軍でも無理に不調のまま試合に出なかったなら、シーズンを通してこれくらいの数字が残っていたかもしれない。

もう1つは無理に「こと起こし」をしようとし過ぎているのも理由だろう。第1章の勝負強さや出塁率の所でも前述したが、自由に打てる2死からの得点圏打率は3割越えと素晴らしい数字だ。それが、無死や1死では得点を稼ぐために打率.167(36-6)と極端に落ちる。復調した5月以降も同じケースでは.200(25-5)と低打率ぶりは変わらず、このこと起こしを抜いた成績だと5月以降は打率.280前後と文句の付けようがない数字になってくる。実際はこれだけ打てる能力はあるのだ。

成績の悪化を厭わないこのスタイルは評価されなければならないものだし、内野ゴロを狙って打つスタイルなのだから当然長打も狙えずOPSもどんどん下がっていく。そういった選手に対して、「OPSがー!」とか「得点圏打率がー!」というのは本質を見れていないのでそのような評価の仕方は辞めるべきだと考える。

また1打席で平均何球を投げさせたかを表す「P/PA」にも触れておきたい。

4.00(1打席平均4球)を超えると高いと言われているもので昨年までの糸原は、離脱のあった2020年を除き毎年4を超えていた。
しかし今年の糸原は3.83と下回っており、Twitter上では
「投げさせることも出来ないのか」
「昔の糸原帰ってこい」
「糸原なんもええところない」
などの意見が飛び交っていた。

しかし実際はそうでは無い。
「無死or1死走者なし」という出塁が求られている場面でのP/PAは4.04と高い数値を叩き出している。一方で無死or1死で3塁走者が居る場面でのP/PAは3.5と極端に早打ちになっていて、これは第1章で出したデータに繋がる。

ランナーが居ない場面では出塁の確率を高めるためにじっくりと待球するが、チャンスの場面では三振をしないために「打ちたい球」ではなく「打てる球」を初球から確実に叩き1点をもぎ取る。実際にこのスタイルで高い出塁率と、高い得点率を誇っているのだから文句の付けようがないだろう。

③起用のメリットデメリット

 もちろんだからといって糸原が完璧なのかと言えばそうでは無い。1点を拾う野球に置いては換えの効かない存在であるのは確かだ。ただ皆さんご存知の通り守備・走塁の部分では山本や木浪・小幡といった存在の方が2枚も3枚も上手だろう。

また糸原は1塁走者が居る場面での打率が極端に低く、長打力もあまり期待出来ないためそのケースでの打撃は課題だろう。

データから見る糸原打席時の期待値

ランナー2塁の時のように進塁打を狙っているような結果でもなく、フライアウトも多い。6番などに座っていると自身以降は下位打線で、簡単に連打は期待できないため長打を狙っているのかもしれない。何にせよこのケースで成績を落としているので、改善される事を期待したい。
また1死2塁からのセカンドゴロ率も高いのがデメリットにもなる。最低限の仕事ではあるが、糸原以降が下位打線である6番などの場合だと自分で決めきって欲しいという気持ちもある。

④終わりに

このようなデータをTwitter上に載せると「糸原信者」などと言われることがある。別に糸原の守備や走塁を無理やりポジって褒めたこともないし悪い所は悪いと言っている。別に糸原信者でも何でもなく単に「点を取れる選手信者」であるだけだ。山本の調子が良い時に「糸原を使って欲しい」なんて言ったこと無い。

今年の阪神は投手力と失点数だけでいえば、圧倒的な投手力と守備力を誇ってセ・リーグを制覇した2011年の中日に肩を並べるレベルだ。だが現実は借金を抱えAクラス入がギリギリになっている。シンプルに点が取れないからだ。

昨年1年間セカンド糸原で固定されていが、チーム失点数は最小。今季もポジションこそ固定されてないが、レギュラーとして試合には出続けておりチーム失点数はリーグ最小。糸原の守備はマズイところもあるが、点は取られていない。それでも1位にはなれないのである。

これ以上点をやらない布陣より、点を取れる布陣を組むべきなのだ。

だから私は
「点を取れる可能性の高い糸原を使った方がいいと思う」と言い続け、このようにデータを出したわけだ。

だがこのデータを見ても気に食わない人も居るだろうしそれでいいのだがそういった人が、企業で算出方法が異なり人間の主観によってデータ分けされるUZRや、それに基づいて算出されるWAR、長打力のあるバッターが少し高く評価されるOPSなどを盲目的に過信し噛み付いてくるから困る。

もちろんセイバーは素晴らしい画期的な評価方法だ。7月のセ・リーグWAR1位は岡林(中日)なのだが、誰が7月のMVPかといったらほぼ満場一致で村上宗隆だろう。

OPSも同じだ。OPSのみで打者としての優劣が決まるなら、近本よりもオスナや中村悠平、大城卓三など方が優れていることになる。もちろん三者とも素晴らしい打者だが、セ・リーグ最多安打争いをしていて且つ高い得点圏打率を誇る近本が評価されないのはおかしいだろう。

WARが高い=いい選手 
OPSが高い=いい打者
 
といった等式は成り立つが
WARが低い=悪い選手
OPSが低い=悪い打者
は成り立たない。常にどういった選手なのかしっかりとした本質を見抜かないとダメなのである。

またよく
「後ろの打者に長打が無いから厳しく攻められて打てない!」であったり
「打順を固定しないから迷いが生じて打てない!」「ポジションを色々入れ替えるから打撃の調子が落ちる!」といった意見もよく目にする。もちろんその可能性も高いだろう。
 しかし、今季2.3.5.6.7番と様々な打順を打ちセカンドとサードに加えファーストも守っている糸原が打てないと何故そのような擁護の言葉が無いのだろうか。不思議である。何なら糸原は場面ごとに打撃スタイルも変えてチームに貢献している。糸原も「使われている側」の1人なのだ。主張は一貫するべきだろう。

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