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CanonFPは何もないから完成されている。

今回はCanonFPについて語ります。

内容については断片的な情報からの推論と自論になりますのでご注意ください。

例の如くとても長くなりましたので、よろしければ最後の作例だけでも見ていってください。

では始めます。

Canonの一眼レフ

まず初めにCanonというメーカーの立ち位置について振り返ってみます。
長くなったので、この章は読み飛ばすか、以下のサイトをご覧い下さい。

1936年にCanonは35mm版フィルムカメラを国内でも最初期に製造販売するメーカーとして世に知られるようになります。
初代となる機種では、レンズや二重像の部分は後にライバル関係になるNikon製だったというのは歴史の妙です。
ちなみにCanonは観音から始まり、同じく宗教的な意味の強いキリスト教のcanonに由来があり、聖典的な基礎となるカメラとしての意味が込められているそうです。バズーカみたいな巨大な白レンズを付けたプロ機が目立つのでキャノン砲から来ていると勘違いしている人も多いかもしれませんが、そっちはcannonです。

戦前から35mm版カメラというのは世界的にライカとコンタックスが作るものでした。
ライカとコンタックスのカメラに用いられている技術は特許によって独占されていたため、後続のメーカーはその技術を回避しながらカメラを作る必要がありました。
戦争の機運が高まると、偵察兵器としてカメラ技術を独占されることを危惧し、日本軍の依頼で、特許などはお構いなしに作られたのが伝説のカメラであるニッポンですが、Canonは真面目に独自開発した技術により35mm版カメラを作り続け、戦後は世界にも認められる高級カメラメーカーとしての地位を築きました。

時は少し流れて1950年代の後半
レンジファインダー機ではライカに遅れをとった日本メーカーは、世界に先んじて一眼レフカメラの実用化に成功します。

Canonはよく一眼レフ機参戦に遅れたと言われていますがCanon初の一眼レフであるキヤノンフレックスは1959年とNikonFと変わりません。
キヤノンフレックスは実物を見たことありませんが、巻き上げレバーが底面に配置されるなどかなり独創的なカメラでした。

Canon初の一眼レフであるキャノフレックスの発売と同年の1959年には発売されたCanonP型は、従来の高級カメラと同程度の性能を有していながら、大幅なコストダウンの成功によって大ヒットします。
この事からも、Canonはレンジファインダーを主力とする道を進みます。

1961年にはCanon最後のレンジファインダー機であるCanon7を発売。そして当時の高級品であったカメラを月給で買える自動露出撮影を搭載した最新式カメラのキャノネットを発売し、発売後瞬く間に売り切れとなる空前の大ヒットとなります。

そのようにしてCanonは黄金期を築くわけですが、その裏側で開発•販売された一眼レフは、高級カメラらしい高価なマウントや当時最速の自動絞り機構を搭載するなど最新技術を盛り込むものの、Canonらしい洗練されたデザインとは程遠い無骨さが目立ち、せっかくの最新技術もユーザーを満足させる出来ではありませんでした。

この事は明らかに開発にかけるリソース不足であり、既に出遅れた一眼レフ開発に追いつくために、未完成な最新技術を盛り込んだ奇策的な手段でお茶を濁した雰囲気が感じられます。

それでもCanonは一眼レフを毎年のように新たに発売し続け、1964年には後のFDマウントまで続くFLマウント機であるCanonFXが発売されます。
しかし、既にPENTAXや Nikon、トプコンなどのメーカーではTTL測光を実現している中で、ボディの右肩から測光するFXでは、性能的に見劣りしていました。

当然性能に劣るCanonFXは不発に終わり、翌年の1965年ペリクルミラーと呼ばれるハーフミラーを用いてファインダーに像を写すレンジファインダー機の二重像機構をそのまま一眼レフに組み込むような構造によって、TTL測光を実現したキャノンペリックスを発売しますが、
ファインダーが暗くなるなどの理由によりこれも不発に終わります。
(細部まで豪華なカメラで決して手を抜いたカメラではありませんでした)

その翌年の1966年になってようやくユーザー待望となる従来のクイックリターン式のミラーを搭載したTTL測光を可能なCanonFTを発売します。
ペンタプリズムのフォーカススクリーン面から直接光を取り込んで測光する中央部分測光で、実用性に長け、ユーザーからも受け入れられる事で、一眼レフ参戦から7年目にして一眼レフの最前線に並ぶことになります。

CanonFT

FXの発売を持ってひとまずの完成を見て、そこから5年間、Canonは新製品を出すことを辞めます。
そして、1971年に5年間の開発期間を経て、本格的なプロ機であるCanonF-1を旗艦とし、一眼レフの本丸といえるNikonFへの本格的な攻勢にでるのでした。

そこからNikonとCanonという二大メーカーの構図が出来上がるわけですが、Canonが完全にNikonに勝利し、日本のカメラメーカーの頂点に立つのはもう少し後の事になるかと思います。


CanonFPの存在

長々と歴史を語りましたが、ようするにCanonは一眼レフ機では開発に出遅れたがために、奇策で戦うしかない暗黒時代を送ることになりました。(反面レンジファインダーでは不動の地位を築いており、他社メーカーを窮地に追い込んでいます)

CanonFシリーズはFXから始まりFX、FEbの3代で終わります。
ここからは、実際の機体の中身を比較して3代の変化を見てみます。
整備中の写真なので見にくいのはご容赦ください。

CanonFX 1964年
CanonFTQL 1966年
Canon FTb-N 1973年

一枚目。FXは左側の巻き取りレバー側に露出計を組み込んでいます。この時に重要なのはシャッター速度に応じて対応する絞り値の表示を連動させる機構でした。銅の細い線が、シャッターダイヤルに巻き付いており、シャッター速度に応じて、絞り値の表示がスライドします。
ペンタプリズムはモルトの劣化を受けやすく、銅線は弱くて切れやすいものでした。センサーは左端の巻き取りレバーの前にある窓に付けられています。

2枚目はFTです。脆弱な銅線は鉄製のギアが刻まれたプレートに変わりました。
露出計のセンサーはプリズム内に取り込まれています。プリズムの腐食は相変わらずモルトの劣化により起きやすいです。

最後はFTbで写真は後期型です。この頃からプラスチックのギアが使われています。ホットシューも追加されました。マウントがFDになったので開放測光に対応した以外は、FTとそれほど変化を認められません。

このようにCanonFシリーズは露出計を進化させて来ました。

その後に続くカメラは自動露出モードやAFと徐々に機能が追加されていきます。

つまりなにが言いたいかと言うと、カメラを使う人間の補助機能が追加されるだけで、撮影そのものに必要なフィルムの露光そのものに関する機能は殆ど進化していないということです。

そこで、今回の主役であるFPの中身を見てみましょう。(本題ここからです)

CanonFP 1964年

CanonFPとは

FPとは、FXから露出計を取り除いたモデルになります。PとはCanonPからと捉えればポピュレートつまり大衆用の廉価機ということになりますが、こちらは露出計を使わないプロの要望に応えたモデルになります。

その他、細かな点ではフィルム室のロックがダブルアクションであるなど一部変更されています。

ダイキャストはFXと共有なので、バッテリーを入れるスペースが左端に残っています。

その他には3代のFシリーズと比較してみても、微妙に各世代でシャッター回りなどの構造は露出関連の兼ね合いによって若干変更があるものの、基本設計は全く変わりません。

ボディを並べて見ると直ぐには見分けが付きません。

1番奥に控えるのはEF

露出計の機能以外では、FPのファインダーはFTbと比べたら少し暗いですが、FT以降はフォーシングスクリーンをスプリット方式からマイクロプリズム式に変えているのでピントの合わせやすさからすると、FPの方が良いかもしれません。

横走り布幕フォーカルプレーンシャッター自体はレンジファインダー機の時代から用いられている技術であるため、一眼レフへの参戦前の50年代には完成していたと言っても良く、精度の差は感じられません。

当然経年による劣化はFPの方が進んでいるので、劣化による感触の違いはあるかもしれませんが、メンテナンスを行なっていれば問題ありません。

FPはほぼ全てのネジがマイナスネジですので、おそらく全て人の手で組まれています。
そのため、劣化の程度については、個体差はあるかもしれません。

機械式カメラの利点とは

言わずもながらCanonFPは機械式シャッターのカメラです。

他メーカーも含めてやはりクラシックカメラには機械式カメラ信仰というものがあります。

CanonFPというカメラを理解するために、機械式カメラを現代でも使用する利点について少し考えてみます。

電池不要でも使える

電子式カメラは電池が切れたら役に立たない。これはよく言います。
電子式カメラは機械式より精度に優れますが、常に電池切れの不安に抱えることは間違い無いです。
でも露出計ないと撮影できない人は同じことな気もします。

修理が容易

電子式カメラは基盤などの電子部品の破損により修理できないケースがありますが、機械式カメラはその構造の単純さから修理が容易だと言われています。
実際には、70年台から80年台の電子式カメラは電気信号のやり取りをしているくらいで、機械式に構造が似ており頑丈なものもあります。逆に機械式カメラでもダメな個体は多いです。電子式でも同じ事が言えますが、ギアの欠けやレバーの摩耗など精密機械ですので0.1mmの誤差でも致命的な故障になります。
結局、修理しやすさは結局部品取り個体の量な気がします。

当然固有の信頼性は絶対で、例えばNikonFなどは、トヨタのランクルみたいに、ダイナマイトで爆発しても普通にシャッター切れそうですが、某国などのカメラは組み立て精度が低すぎて新品の時から壊れてます。

音が良い

低速ガバナーのギアの音や横走りシャッターの機械音はやはり良いです。
それがメンテナンスされてれば尚更癖になり、寝る前に空シャッターを切らないと眠れなく中毒性があります。
電子式の縦走りシャッターはその点で味気ないです。低速走らせるとミラーアップして壊れたのではないかと不安になります。

CanonFPという選択肢

機械式カメラの利点を振り返ったところで、FPに不足がない事がわかります。

電池不要論をかざすのであれば、そもそも露出計なんて無い方が良いとも言えるかと思います。実際にPENTAX SPなどの露出計内蔵カメラを使っていても電池を入れないで人は多いのではないでしょうか。

ちなみに、機械式カメラで露出計の付いていない一眼レフは他にもあります。

先程から話に上がっているNikonFもアイレベルでは露出計がありません。
その他にはPENTAX SPから露出計を抜いたSLが有名です。
変わり種ではPEN-FTから露出計を抜いたPEN-FVというのもあります。
他にも挙げればキリがないので止めておきますが、私がここまでFPについて触れてきたのにはそれなりに理由があります。

Canonレンズ群

CanonFシリーズはFLレンズだけではなくFDレンズも使えます。
CanonはFLから開放測光に対応するためマウントを変更しましたが、他社のバヨネット式マウントを採用せず、スピンゴットマウントを継続してマウントの更新を行いました。
そこから擬似バヨネット式になるNewFDに変更しましたが、基本的には変わりません。
つまり、1959年から1987年にEOS650が出るまでの28年間のレンズ資産が丸ごと使えます。
NewFDにもなるとそこそこの値段で取引されていますが、安価な標準レンズでもしっかり描写してくれます。

FD50mmF1.8

また、FLレンズもオールドレンズらしい癖のある描写が得られます。

FL50mmF1.8

周辺が流れているのがよく分かるいわゆるグルグルボケがハッキリ出るオールドレンズとして有名なFL50mmF1.8がFPの標準レンズでしたので、セットのまま売られている事が多いです。
モノクロの時代のレンズですので、カラーは発色しませんが、浅い色味はある意味今風かもしれません。

安価

結局フィルムカメラに何もを求めるかというかという話になるのですが、フィルムが高騰している今、ランニングコストは高いです。

最新のミドルクラスカメラが30万とかしますが、何枚撮っても30万です。
フィルムが36枚撮り一本1500円で、現像+プリント代で1000円。
毎週1本撮ったとして月5000円なら年間60,000円ということになるので、月1本に絞ったとしても10年やれば60万の出費です。
計算して薄ら寒くなりましたが、つまりこれが17280枚撮影した値段になるわけです。

10年やって撮影枚数が2万弱は少なすぎます。
なので実際にはデジカメと並行して使用することになると思います。

そのうち、段々面倒になってフィルムカメラかデジカメを持ち出さなくなくなってきます。それか、片方が小さくなります。こればっかりは、本当にやってみなければわかりません。

前にYouTubeでデジカメとフィルムどちらが良いかと聞かれた方の答えが秀逸でしたが、暗室が好きか明室つまりLightroomが好きかによると言っていました。

初めのうちは近所のカメラ屋にネガを出しに行って、受け取る事だけでも楽しいかもしれませんが、それが生活に馴染まなければ継続しません。

そういう点で、世の中にはライカなどの高級機から手を出す人も居るみたいですが、カメラをアクセサリーの一部だと割り切っている人でもない限りオススメしません。

その点、CanonFPは適度にレトロ感満載で、余計な付属品がないのでデザインがカッコよく
後のOLYMPUS OM-1が改善を目指す一眼レフ三悪(大きい重たいシャッター音が大きい)の権化みたいなカメラです。
このカメラを使いこなせれば、もう他のカメラを不要だと言えます。
(それでも結局欲しくなるのですが)

CanonFPの性能

撮るだけの行為に絞ればカメラなんてものはフィーリングと信頼性に付きます。

自分の手持ちカメラの中から砂漠に撮影に行くと言われたら迷わずFPを持って行きます。
当然あちこちにシール処理が必要ですが、電池蓋もないのでその処理も容易です。

分割巻き上げ可能で、スプリット式フォーカシングスクリーン。1/1000シャッター搭載。


多重露光や1/2000以上の高速シャッターは搭載されていませんが、それほど重要ではありません。

CanonFPは戦前から積み重ねられた35mmフィルムカメラの技術を結集して作られており、Fシリーズの初代にして後のカメラと同等の基準を備えているため、信頼性に高く長い相棒としてふさわしいカメラだと思います。


CanonFPの買い方

FPは影の薄い不人気カメラなので中古相場はかなり安いです。しかし、売れなかったカメラである分、中古の数も少なく、整備品もあまり見かけません。
(2023/6/16時点で探したら見つかりませんでした)
未整備品であれば下手したら1000円くらいで買えてしまいます。

未整備品での確認事項

まずは外見です。
ミラーは下がっているか、ミラーが割れていないか。
部品の不足などないか。大きな凹みはないか。

ファインダーの中に縦筋が出ていないか。
その縦筋はプリズムの腐食です。

次はシャッターです。
優しく巻き上げレバーを巻き上げます。
巻き上げが出来たらシャッター速度ダイヤルを1/500あたりにでも合わせて切ります。
次は1秒です。最後にBです。

最後に迷うのはフィルム室の開け方ですが、Canon機にはよくあるダブルアクション式です。ボタンを押しながらもう一つのボタンをスライドさせる必要があります。

シャッター幕にカビないか。
ちゃんと巻き上げて先幕にもカビがないか確認。

空の照明に向かって、1/60の時にシャッター幕がしっかり開いているか確認。

ここまで問題なさそうなら買ってもいいと思います。

私は大抵のカメラはこの手順で確認します。
※この手順で破損しても自己責任でお願いします。全ての手順は優しく行なってください。


売れなかったカメラになりますので、あまり弾数はありません。プリズムのストックはFXと互換性がありますので、交換修理は比較的容易だと思いますので、ある程度は修理前提で、妥協が必要かもしれません。

まとめ

CanonのFシリーズはご覧いただいた通り、露出系以外にそれほど進化が見られません。

後進であるが故に独自路線を模索しましたが、先発の他メーカーの流れに逆らうことは出来ず、先発のPENTAXのカメラなどに寄せていく形になりました。

しかしながら、国内でも黎明期から35mmカメラを作るノウハウは十分に蓄積されており、半世紀以上経った今でもノーメンテナンスで稼働する個体があるほどの信頼性があります。

またCanonのマニュアルフォーカスマウントであるFLとFDが使用できるため、安価で手に入るレンズも多く、クセ玉から名玉まで揃っています。

今後ステップアップしてF-1や、軽量なAE-1やA-1に移行するにしてもレンズは資産として残ります。

CanonFPは、出来損ないの露出計を省いたカメラではありますが、それだけに一眼レフとしての血統の良さが際立つカメラとなっています。

是非その手に持ってみて、道具に自身の血を通わす感触から得られる撮影を体験してみてはいかがでしょうか。

作例

CanonFP
FL50mmF1.8
イルフォード HP+
現像ミクロファイン
自家スキャン
※スキャン荒めです。

夕日
夜明け
うっすら富士山


ここまでご覧いただきありがとうございました。

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