【レモンティー】

 子どものころ紅茶を頼むとこう聞かれた。
 「ミルクとレモンとストレート、どちらになさいますか?」

 近頃、レモンティーの存在感が薄れつつある気がする。
 だいぶ昔に遡るが、かつてはドリンクバーにも、薄く切ったスライスレモンが置かれていた。銀色の小さい蓋つきの入れ物に入っていて、小さい銀色のトングが添えてあって。
 わたしは昔からミルクティーが好きだったけど、夏、アイスティーにスライスレモンを多めに入れて、サッパリしたレモネードみたいに飲むのは好きだった。紅茶の赤色のてっぺんに浮かぶ、薄くスライスされたレモンの鮮やかな黄色は美しいと思う。夏がよく似合う飲み物。ストローでスライスレモンを潰すと、果肉とともに飛び出す種がストローに詰まって、ちょっと邪魔だな、とも思っていた。

 時が経って、高校生の頃、500ml紙パックのリプトンの紅茶に、ストローを刺して飲むのが流行っていた。時代的にはギャル文化やルーズソックスのブームが過ぎ去った後くらいで、ハイソックスにミニスカート、腰にカーディガンを巻いて、リプトンの紙パックを持っているのがなんとなく「イケてる」みたいな時期だった。
 教室を見渡すと、いろんな机の上にやたらとリプトンの紙パックが並んでいた。わたしの教室でよく目に入ったのはリプトンのレモンティーで、クラスメイトとおしゃべりすると、ほのかにその匂いが香ったりした。
 私は飲み終わった紙パックの飲み口あたりを内側に折り込んで、美術大学の受験用のアクリル絵の具を立てて保管するのに使っていた。厳密に言うと、今もそのまま使っている。

 話が少し逸れてしまったが、レモンティーはわたしの生活の遠からず近からず、けれどすぐ目に入るくらいの身近にずっと存在していたものなので、気配が薄れてきた今、だいぶ寂しい気持ちでいる。

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