【吉祥寺のカフェにて】

私のお仕事先のひとつは吉祥寺の近くにあって、だから私は吉祥寺でお昼ご飯を取ることが多い。

今でこそ、お隣のテーブルと距離があいていたり、透明なアクリル板のパーテーションがつけていられたりするけれど(私はひとの気配がとても気になるので、これは大層ありがたいと思っている)、お昼時の吉祥寺は「いかに人数をいれるか」が勝負なところがあって、左右のテーブルとの距離が近く、お隣の会話が自然と耳に入ってしまうことが常だった。

お昼の吉祥寺は、ベビーカーを引いたお母さんたちの憩いの場であったり、お買い物をしているマダムたちの一休みの場であったり、ともかく華やかなおしゃべりが似合う街なのである。


あるときのカフェで、お隣で三人のマダムたちがデザートとお茶を並べて優雅なティータイムを過ごしていた。もちろん、会話の華が咲き乱れていた。

ひとりのマダムが言う。

「田中さんも、ついに亡くなってしまったわね。」

もうひとりのマダムいう。

「ええ、こんなに寂しいことってないわ。私、ずっと悲しくって。」

三人目のマダムがカラカラと笑いながら言った

「本当に?私、全然悲しくなんかないわ。だって、私たちもそう遠くない内に同じところへ行くんだもの。それまでに沢山、うんと楽しい思い出話を作っておきましょうね。」


私はなんだかハッと目がさめるような、そっと泣きたくなるような心地になり、しばらくの間、その言葉が頭から離れなかった。

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