植木理恵『植木理恵の人間関係がすっきりする行動心理学』
よい意味で開き直って、互いの特性をリスペクトしあえば、人間関係も自然とすっきりし、明るくなることでしょう。
私的要約
『行動心理学』とは、人間の行動を観察することにより、そこに一定のルールを見出し、『心』を研究する学問である。仮説、実験、解釈、考察といった科学的手法を用い、エビデンス(根拠)を導き出す点において、目に見えない概念を追求する『深層心理学』とは一線を画す。
行動心理学の実験には、人間はもとより様々な動物が使われる。そして、その実験において、人間と動物との大きな違いを見て取ることができる。
動物は無駄な努力をしない。これを『節約脳』といい、必要最小限のエネルギーしか使わないことで、過度のストレスを回避すると考えられている。それに対して人間は、不必要な考えを巡らせては、脳を疲労させる。ある意味、動物の方が賢く、私たち人間の方が『愚か』ともいえる。しかし、その愚かさこそが人間を人間たらしめるところであり、無駄とも思える努力が、圧倒的な力を持って文化や芸術、学問を生み出しているのである。
『愚かであることがチカラになっている』そのパラドックスと愛おしさこそが、著者、植木理恵氏が心理学という学問を愛してやまない理由なのである。
『相手の心を読み解く』ために大前提となるのは、『相手の心に関心を持つ』ことである。つまり、まず何より『相手を知りたい』という気持ちを強く持つことが重要である。人間にはそれぞれ、生まれ持ってのキャラクターや能力がある。そのキャラクターを認め、相手に関心を持つことで、行動心理学が相手のことを知る手助けをしてくれる。また、相手のみならず、自分のキャラクターと向き合うことも大事だ。自分のキャラクターをうまく生かしている人にこそ成功者は多く、良い意味で開きなおって互いの特性をリスペクトしあえば、自然と人間関係もすっきりし、明るくなっていくのだ。
教育×読書
この書に書かれてあるものの中で、教育転用したいものは次の2点であった。
① 『なぜなら』と考えることで半永久的に記憶できる。
普段からどうにも暗記が苦手という人には、『記憶の精緻化(せいちか)』が勧められている。精緻化とは、情報と情報を『なぜなら』という理屈でつなげて意味を持たせることである。『なぜなら』で理由付けすることで、記憶が『文脈(心理学においては、環境条件のこと)の設定』→『探索』→『確認』という手順によって保存されていた記憶が再生される。つまり、記憶は単体よりも、さまざまな事柄を関連付けることで思い出しやすくなるのである。『丸暗記するよりも、意味の理解に努めた方が記憶しやすい』と言われるのは、このように行動心理学の面からも実証されているのである。(アメリカの認知心理学者部ランスフォード氏らが実証)
② 『三度目の正直』は、あきらめない人にだけ訪れる。
『三度目の正直』ということわざの裏には、『一度目や二度目は思いどおりにはならない』という警告が込められている。では、なぜ一度目と二度目は失敗するのか。認知心理学において、エラー(人的ミス)は、『偶発的エラー(わけがわからず間違えること)』と『必然的エラー(原因に気づいているにも関わらず失敗すること)』から成る。
初めてのチャレンジはわからないことだらけで失敗して当然である。(1回目、偶発的エラー) そして、次の挑戦では、理屈の上ではわかっていても、直面する様々な事態に際し、判断を誤ってしまう。(2回目、必然的エラー) これらの経験から、あきらめる人が出てくる中で、失敗を糧に3度目の挑戦をする人だけが成功に近づくのである。
つまり、私たち塾講師も、偶発的エラーはもちろんのこと、必然的エラーまで予測したうえで生徒を指導しなければならない。諦めず何度もトライ&エラーを重ねた先にこそ、学力定着が待っているのだ。
私的感想
行動心理学をすぐに実践できそうな様々なアイデアが書かれた本でした。
その中でも、とくに印象的だったのが、『何かにつまずいた時の切り抜け方』でした。
それは、『ABC理論(アメリカの臨床心理学者アルバート・エリス氏が提唱)』というものです。出来事(Activating event)、考え方・信念(Belief)、帰結(Consequence)の頭文字ABCをとったものですが、『人間は頭の中で解釈を変えることができ、それに伴って結果も変わる』という理論です。つまり、『出来事(A)は→考え方を経由して(B)→初めて結果を生む(C)』ということで、何か嫌なことがおきたときなどは、気の持ちようで(=Bを意識することで)落ち着きを取り戻し、違った結果が得られるようになるということです。
このBを持っているのは、動物の中では人間だけだそうです。
出来事に対して、『考え方』というフィルターをかけることで、結果を変えることができるのは人間だけということですね。それならば、私は人間の特権をフル活用し、起こった出来事に対して一呼吸おいてとらえ方を変えるように心がけたいと思いました。(般若心経の『空』の考え方とは真逆ですが。)
そして、そのとらえ方の礎を築くのは自分の価値観から生まれる信念や考え方なので、エッセンシャルな物事のとらえ方ができるように、自分をきちんと磨いていかなければと改めて気の引き締まる思いです。
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