【MIL】David Stearns政権をトレードで振り返る【新春企画】
ブルワーズ担当のあなんです。
あけましておめでとうございます。
本年もブルワーズをよろしくお願いいたします。
今回は新春特別企画として、Stearnsが手がけたトレードを振り返ってみます。Stearnsといえば数々のトレードでMILをコンテンダーに押し上げた素晴らしいGM(という印象が私にはあるの)です。彼の功績を讃えるため、2015年オフの就任以降、そのトレードがどれだけ成功しているかを検証します。
○ 検証方法
MILのトランザクションのうち、トレード(金銭、ドラフトピックなどを含む)に限定して
22年シーズンまでに
・獲得した選手が"ブルワーズ"で稼いだbWAR
・放出した選手が"放出先"で稼いだbWAR
の差を求めます。
獲得/放出した選手が一度でも他球団を経由した場合、経由後のbWARは計上しません。あくまで移籍先(MIL)/放出先で稼いだWARのみをカウントします。
ウェイバー経由やFAで獲得/放出した選手も対象外です。例えば、Bickfordはトレードで獲得後LADに移籍していますが、移籍手続きがウエイバー経由なので、LADで稼いだWARはカウントしません。
○ 対象期間
2015年オフから2021年シーズン(TDL)まで
2021年オフと2022年に実施されたトレードは除外します。即戦力同士ならまだしも、プロスペクトが絡むトレードを1年で評価するのは土台無理な話。2、3年後に行うべきです。22年シーズンのトレードで大外ししたからでは決してないです。
〇 参考資料
・baseball-reference
・MLB transaction
Ctrl+Fで”traded”と検索して、該当する選手をピックアップ。bbrfでbWARを調べ上げました。
こんな便利なサイトがあるなんて気づかなかった……。
○ 予め
私がブルワーズを本格的に追いはじめたのは2022年からです。それまではただのHaderファンです。21年までブルワーズがどのように歩んできたかを肌感覚ではわからないので、成績や文献をもとに推察しています。解像度の低い部分があるかもしれませんがお許しを。
それではスタート。
○ 2015年オフ
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:+29.9
放出選手総bWAR:+13.4
獲得選手WAR - 放出選手WAR = +16.5
◇ 総評
再建モードのブルワーズは主力のトレードに走りました。一塁手のLindと遊撃手のSegura、左翼手のDavisをそれぞれSEAとARI、OAKに放出しました。
Seguraは調停1回目を迎える直前でした。移籍先のARIでは正二塁手として6.4WARを記録。チームトップの貢献でバリューを高め、翌年マリナーズに移籍しました(見返りはKetel Marteなど)。DavisはOAKに移籍後18年までの3年間で計133発を放っています。DH制のア・リーグに移籍して打撃に専念できたのが大きかったと思われます。
一方で、HOUから獲得したVillarは正二塁手として18年途中までMILに在籍し、2.5年で4.7WAR稼ぎました。また、Lindの見返りで獲得したPeraltaは18年にデビューし、現在は先発ローテ3番手として活躍しています。Peraltaは24年(CO行使で26年)まで保有可能で、来季以降もWARを積み重ねていくでしょう。
○ 2016年シーズン中
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:-0.5
放出選手総bWAR:+4.8
獲得選手WAR - 放出選手WAR = -5.3
◇ 総評
引き続き再建中のブルワーズは、TDLでリリーフのSmithとJeffress、正捕手のLucroyを放出しました。Will Smithは移籍先のSFでクローザーに定着。18年から2年間で100試合以上に登板しました。JeffressとLucroyはリリーフ強化と捕手アップグレードをにらんでいたTEXに移籍。2人とも地区優勝に貢献しました。
獲得した選手は目立った活躍をせずに終わり、シーズン中WARがプラスだったのはMarinezのみ。JeffressとLucroyの見返りでTEXから獲得したBrinsonはのちにトレードチップとして活躍します。
○ 2016年オフ
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:+5.3
放出選手総bWAR:+1.7
獲得選手WAR - 放出選手WAR = +3.6
◇ 総評
まだまだ再建期間のブルワーズは、リリーフのThornburgと、Lucroyのバックアップ捕手だったMaldonadoを放出しました。
BOSから獲得したShawは即戦力として貢献。正三塁手として17年は144試合でOPS+121、チームトップの3.5WARを記録。18年は152試合でOPS+119、4.5WARを稼ぎました。
○ 2017年シーズン
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:+4.4
放出選手総bWAR:-1.2
獲得選手WAR - 放出選手WAR = +5.6
◇ 総評
2017年はブリッジイヤー。来年のコンテンドに備え、2年目のTEXで苦しんでいたJeffressを呼び戻します。そして再生に成功。18年は73試合でERA1.29と圧倒的な数字を残し、Hader、Knebelとともにブルペンの柱として貢献しました。
また、BALに放出したMagnificoの見返りはinternational draft slot。2018年のインターナショナルFAで獲得した選手の1人が、当時18歳のAbner Uribeです。
○ 2017年オフ
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:+18.7
放出選手総bWAR:-6.0
獲得選手WAR - 放出選手WAR = +24.7
◇ 総評
リビルドからコンテンドに切り替わった2017年オフ。16年シーズンで獲得したBrinsonらをトレードチップにして、MIAからYelichを獲得しました。そのあとの活躍は言うまでもありませんね。
○ 2018年シーズン
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:+4.1
放出選手総bWAR:+10.7
獲得選手WAR - 放出選手WAR = -6.6
◇ 総評
地区優勝を狙って即戦力の補強を次々行います。KCからMoustakas、BALからSchoop、CHWからSoria、WSHからGonzalezを獲得し、ついに2011年以来の地区優勝を収めました。
その一方で、Brad Millerの見返りでTBに放出したChoiは正一塁手として定着。Lopezは豪腕リリーフとして22年にブレイクしました。
○ 2018年オフ
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:+0.9
放出選手総bWAR:-0.4
獲得選手WAR - 放出選手WAR = +1.3
◇ 総評
柔軟な起用に応えられるリリーフを欲していたMILは、ドラフト全体40巡目指名権と引き換えにリリーフのClaudioを獲得。Claudioはワンポイントリリーフとして83試合に登板しました。また、オプションの切れたSantanaを弾にSEAからGamelを獲得。第4外野手として守備面で貢献しました。
○ 2019年シーズン
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:+2.8
放出選手総bWAR:+1.8
獲得選手WAR - 放出選手WAR = +1.0
◇ 総評
2年連続のポストシーズン進出を狙うMILはLylesとPomeranzを獲得し、先発とリリーフのデプス強化を図りました。Pomeranzは26イニングでERA2点台、45奪三振。Lylesも移籍後11試合に登板して7勝1敗。ワイルドカード進出に貢献しました。
○ 2019年オフ
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:+11.0
放出選手総bWAR:+9.5
獲得選手WAR - 放出選手WAR = +1.5
◇ 総評
オフにFAとなったGrandal捕手の後釜として、Narvaezを獲得。さらにSDと2対2のトレードでLauerとUríasを獲得しました。21年はこの3人がローテ・正捕手として地区優勝に貢献しています。
○ 2020年シーズン
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:0 (全員デビュー前)
放出選手総bWAR:-0.6
獲得選手WAR - 放出選手WAR = +0.6
◇ 総評
打撃のアップグレードを図ろうとするもまとまらず。20年のTDLは33歳のベテランリリーフを放出して終わりました。見返りとして獲得した3選手のうち、現在もMILに在籍しているのはPuello投手のみです。
○ 2020年オフ
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:0 (全員デビュー前)
放出選手総bWAR:+0.7
獲得選手WAR - 放出選手WAR = -0.7
◇ 総評
Knebelは17年と18年は守護神を務めていましたが、19年はTJ手術で全休、20年は15試合でERA6点台。これ以上の活躍を見込めない、かつ調停3回目であったことからトレードを決断しました。移籍先のLADでもバウンスバックならず。見返りのCrawfordは現在MILに在籍していません。
○ 2021年シーズン
◇ 計算結果
獲得選手総bWAR:+9.5
放出選手総bWAR:+6.5
獲得選手WAR - 放出選手WAR = +3.0
◇ 総評
AdamesやTellezなど即戦力の獲得が多かった2021年。Trevor Richardsを獲得して1か月後にTORへ放出するなど、目まぐるしく動いていました。ちなみに、獲得したマイナー選手は現在誰もMILに在籍していません。
○ まとめ
6年間の合計bWARはこちら。
お見事ではないでしょうか。Yelichのトレードで24稼いでいるのを横に置くとして、ほぼ毎年プラスを生んでいます。特にここ2、3年は着実にWARを積み重ねています。2018年シーズンのマイナスは、7年ぶりの地区優勝・ポストシーズン進出で相殺できます。
トレードの目的は至ってノーマル。2017年までの再建モード中はチームの勝負期に全盛期が合致しない選手を放出し、コンテンド中(現在)は、アップグレード・デプス強化を目的としたトレードがメインです。前者はSeguraやLucroy、Maldonadoなどが該当し、彼らは移籍先(転売先)で主力に定着しました。後者はショートをUríasからAdamesに代えた21年のトレードが代表例です。
一貫しているのは、FA卒業前に売り捌いていること。調停が控え年俸高騰が予想される選手は、例えチームに貢献していてもさっさと放出して見返りを得ています。これはペイロールに制限のあるチームの宿命ですね。
気になるのは、トレードで獲得したマイナー選手が全然ブルワーズで活躍していない点。ほとんどがデビューすらしていません。唯一MILで活躍したのが15年オフに獲得したPeralta。これだけトレードを行っても活躍する選手はわずか1人ということを考えると、それだけMLB昇格が厳しい世界なのでしょう。
〇 トレード戦略を考察
長期コンテンドを実現したブルワーズのトレード戦略について考察します。ここ数年のトレードを振り返ってみると、ブルワーズはMLBデビュー済みの選手を獲得する傾向にあります。プロスペクト育成に自信がないように見えますが、これこそStearnsの考えた長期コンテンドへの戦略だと思います。
◇ 内部要因
前提として、ブルワーズはスモールマーケットです。資金力に乏しく、自チームの選手に高年俸を払ったり、あるいはFA市場でスターを獲得するなどの補強ができません。とはいえ、FAと同時にタダ同然で手放すことはせず、その前に売って少しでも見返りを得ようとします。そのため2~4年のスパンで選手の入れ替えが発生します。
◇ デビュー済み選手の特徴
MLBデビューを果たした選手のうち、トレード候補に挙がる選手は、MLBの壁に当たっている選手とそのチームの余剰戦力となっている選手です。
前者はバリューが低いですが、ちょっとしたことで大化けする可能性を秘めています。ブルワーズは大化けしそうな選手に目をつけて、少しの対価で獲得し、持ち前の育成力(特に投手)で二流・普通選手を一流に育て上げています。JeffressやLauer、Narvaezが代表例です。Narvaezは守備面に難がありSEAから放出されましたが、MILで改善。2年連続(20年と21年)でMLBトップのフレーミングを記録しています。
後者は、レギュラーとしてチームの穴を埋めてくれる存在です。ブルワーズはSDからUrías、TORからTellez、TBからAdamesをトレードで獲得しましたが、彼らはそれぞれTatis Jr.、Guerrero Jr.、Francoの台頭/長期契約によって所属先で出場機会を失っていました。今ではれっきとしたブルワーズの主力です。最近ATLから獲得したContrerasもその1人ですね。
◇ なぜプロスペクトではダメなのか
結局プロスペクトは予想がつかないというのが全てでしょう。MLB経験が数年あればある程度将来の成績を予測できますが、それをプロスペクトに当てはめるのは難しい。そもそもプロスペクトはMLBに昇格する保証はどこにもない。トッププロスペクトと呼ばれる選手もいつコケるかわからないし、MLBに昇格してさっぱりになる可能性も十分あります(最近のMILだとHiuraかな)。
もちろん、MLBデビュー済み&トレードチップになる選手とは違い、プロスペクトには大スターになるポテンシャルを大いに秘めています。育成に成功すれば黄金期も夢ではありません。しかし、失敗すると悲惨です。ブルワーズはFAやエクステンションでその空白期間を埋めることができないので、解体・長期再建の暗黒期に突入します。これはStearnsが最も望んでいない展開です。
◇ 結論
入れ替えスパンの速いブルワーズで戦力のアップダウンを抑えるために、Stearnsはリスクの低い選手で編成する方向に舵を切った。0-100のプロスペクトを集めて黄金期を目指すのではなく、40-60のデビュー済み選手を地道に獲得して確実な戦力維持を図った。これが4年連続のPS進出に繋がったのだと思います(華がない要因もこれにありそう)。
昨季からPS進出枠が5つから6つに増えました。レギュラーシーズンで突き抜けて勝たなくてもワイルドカードに進むことができます。このアプローチによるチーム編成は今後も継続されるでしょう。尤もNL中地区では突き抜けてないといけませんが。
【サムネ】
メモ(番外編)
○ 2021年オフ
○ 2022年シーズン
○ 2022年オフ
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