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レポート書いた 2

歴史を可視化する


 文化情報工学総論のALH2として、情報の可視化についてリサーチする。聴講生であるから評価対象にならないことは承知しているが、ご笑覧いただければ幸いである。

言語化と可視化
 百聞は一見にしかずという。人は(視覚障害を持たなければ)最も多くの情報を視覚的に受け取る。この言葉を真に受けるなら、可視化できるものはなんでも可視化して、言葉に頼るのはやめたら良さそうなものだが、書店に行けば、可視化を軽く凌ぐ数の『言語化』にまつわる書籍が並んでいる。物事をきちんと言語化(説明)する能力を求める圧力はますます強まっているようだ。一方、可視化については、まだその技術が「一部専門家のもの」と考えられている節はある。

可視化の歴史
そこにないものを見る
 人類のもっとも古い可視化、それはたぶん、洞窟に描かれた動物群だろう。一頭の牛を描くことで、今日の獲物に感謝し、あるいは明日の幸運を願う。ただ脳裏に思い浮かべるのでなく壁に描くことで、イメージを他者と共有する、可視化の原点といえる。
文字に代わるものとして
 絵、絵文字、象形文字から抽象化が進んで文字が発達すると、情報は専有化されていった。文字が読めない大半の人びとにとって、絵はずっと情報伝達の王道だったといえる。例えば教会を荘厳に飾るステンドグラスは、単に「美しい」のではなく、聖書の情報を可視化して流布するメディアだった。王の率いる軍が隣国に勝利する絵画は、時事情報であり、歴史情報でもあった。
見えないものを見る
 地震波や音波、温度といった、見えないものを見る技術は、人間の環境認知に大きな進歩をもたらした。さらに、視覚情報ではあっても人間の認知能力を超えているもの、速すぎる、遅すぎる、小さすぎる、遠すぎるなど、様々なものを可視化する技術を、人びとは獲得してきた。
数値の可視化
 現代社会において可視化といえば、もちろん、教会のステンドグラスではなく、統計データ等の可視化を指すのが一般である。文字や数字の羅列から意味を見出すには特別な才能、または多大な労力が必要である。計算機、とくにビジュアライズ技術の長足の進歩が、この分野を支えているのは間違いない。
可視化の問題点
 可視化花盛りの現代だが、問題がないわけではない。一つは、恣意的な表現によって、印象操作が可能な点だ。これは使い手の誠意に頼むしかない。
 もう一つは、「可視化のルールを理解する」必要があることだ。男が十字架を背負っている、というようなわかりやすい図像が提供されるわけではないので、可視化されたものが、どういうルールで何を示しているか理解しなければならない。古典的な例として、「地図が読めない」という問題がある。現実の三次元空間が地図上にどう表示されているのか、逆に、地図に表現されているものを、目の前の空間にどう適用させるか、受け手の読解力が求められる
 また、近年明らかになりつつあることの一つとして、ニューロダイバーシティーの問題もある。ある画像がどういう認知過程を経て理解されるかについては、今後も大いに研究されるべきだろう。

参考文献
マイケル・フレンドリー、ハワード・ウェイナー『データ可視化の人類史』 青土社 2021年
永原康史『インフォグラフィックスの潮流』 誠文堂新光社 2016年
江崎貴裕著『データの可視化学入門』ソシム株式会社 2023年
村越真、若林芳樹『GISの空間認知』 古今書院 2008年

可視化技術を使う


 「歴史の可視化」を掲げて『四次元年表』というプロジェクトを構築している。Big Historyを視野に、宇宙誕生から日々更新される「今」までを対象としたデータベースだ。このプロジェクトにおいて、どのような可視化技術が利用可能かを検討していく。

宇宙探査機が太陽圏を離脱するまでの航跡を可視化する
 『四次元年表』自体は「全て」を対象とするデータベースだが、人びとの興味は各自ある特定の領域であることが多い。そこで現在、いくつかのテーマを設定してデータベースへの「入り口」を増やす計画を立てている。
 その第一段として「宇宙」をターゲットとした特化アプリを制作し、その中で宇宙探査機の航跡を表示する。これを可視化実践過程として、レポートする。

データの収集
 宇宙探査船の航跡については、まず宇宙空間内の「どこ」を設定する仕組みを知る必要がある。今回はNASAのHorizons Systemから日心黄道座標を用いたデータを取得して利用する。
以下にその過程の技術記事を書いた。

技術の選定と導入
 『四次元年表』はDart言語を用いた、Flutterというプラットフォームでつくっている。これは一つのコードを書くことで、iOS、MacOS、Android、Windows、Webに対応した出力を得られるクロスプラットフォームなので、個人開発では、はなはだ効率がよい。一方で、それぞれのプラットフォームに特化した技術を導入するのは若干難しい。
 今回の航跡表示には、EChartsというライブラリから、Scatter3Dを利用する。名前からわかるとおり、本来は三次元散布図を作成するためのものだが、その辺にこだわらず、使えるものはどんどん使っていくのが身上である。以下に導入についての技術記事を書いた。

よりよく見せるためのシンプルなコード
 NASAのデータは一日ごとにある。けれどそれを全部使っても、重くなるだけ見やすいデータになるわけではない。今回は

  • 宇宙船ごとに色を変える。

  • 打ち上げから一年間は一ケ月ごとのデータを若干薄い色で表示する。太陽を迂回するために航跡が曲がっているのを表示するため。

  • 一年後からは、一年ごとのデータにする。それでもスイングバイなどで大きく方向転換をした様子などが、きちんと表現される。

  • いわゆる三軸のグリッドの代わりに、惑星の公転軌道を表示する。散布図用の空間なので、円も「一連の点」として表示した。

以下に、技術記事を書いた。

時間と空間を同時に表示する
 「地球を飛び立ち、木星、土星を経て太陽圏を離脱した」と一口に言っても、可視化すれば、各探査機は大きく異なる航跡を描き、まったく異なる地点から太陽圏を脱出していることがわかる。また、三次元表示にしたことで、二次元表示では捨てられている北極星軸上での移動も明らかになった。
 とはいえ、この探査機は同時に打ち上げられたわけではない。「歴史を可視化する」を掲げる以上、これらの探査機がもつ時差、その時差からくるであろう能力差(科学技術の差)などが表現できればなお良し、ということになる。
 本レポートには間に合わないが、今回用いた三次元空間で、Z軸を時間軸に置き直し、探査機の時差を表現することに、引き続き挑戦したい。また、今回は表示領域を太陽圏全体としたため逆に表示できないかった太陽系中心部の探査について、より多くの探査機を対象に、時間軸を取った表現ができるとよいと思っている。

歴史を可視化する試み
 最も古典的な歴史の可視化は年表だろう。説明や解釈、評価といった「語り」抜きに、ものごとの「時間的経緯」だけを並べていく。しかし、紙面といった限りある物理空間においては、「あったこと」を既述するのが精一杯で、とくだん何も起こらなかった平穏な日々を白紙で残しておく余裕はない。

不在を見る方法
 四次元年表が目指しているのは、開架式図書館のようなデータベースである。そこは物理的制約のない空間であるから、「ないものの場所」を確保することができる。ある国の情報が少ない、あるいは、ある時代の、あるテーマの情報が少ない、といったときに、そこを詰めてしまわないことによって、「不在を見る」ことが可能になる。可視化とは、そこにないもの、見えないもの、見るのが困難なものを見るだけでなく、「ない」ということそのものを見る技術でもあるのだろう。

まとめ
 今回、文化情報工学総論、地理情報学のALH2として、可視化の技術、とくに三次元散布図の利用にについてリサーチした。レポート期限までに実現できなかった可視化についても実装を進め、9月中を目途に「四次元年表inSpace」としてリリース予定である。

四次元年表

三次元・四次元表示

四次元年表の使い方

四次元年表for Mobile


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