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レポート書いた

『四次元年表』とGeo-informatics

 母校に共創工学部が新設されるというのは、うれしいニュースだった。哲学科を卒業し、還暦を過ぎてアプリ開発者の道を選択した今、ぜひ母校に帰って新しい知見を得たいと思い、今期、本講義を含む四つの講座を聴講している。

 今回は文化情報工学総論のALH1として、地理情報学についてリサーチする。聴講生であるから評価対象にならないことは承知しているが、ご笑覧いただければ幸いである。

四次元年表とは

 『四次元年表』というプロジェクトを構築している。これはユーザーが協働してデータを集積し、同時に利用するという、Wikipedia方式の、Big Historyに対応したデータベースである。

Big History Project   ビッグバンから現在までの、自然科学、社会科学、そして人文学を横断的に捉える学際的学問分野。1989年、デヴィッド・クリスチャンがオーストラリア・マッコリー大学で開講して以来、ビル・ゲイツ等の資金援助を得て、一大プロジェクトととして展開されている。

Wikipediaは情報インフラとしてあまりにも定着してしまったので、「無数のボランティアが記事を書いている」ということを一般の人は知らないかもしれない。掲載項目を厳選し、専門家に依頼して書いてもらう専門的な記事を、各種工程を経て出版する、という百科事典の方式が時代に合わなくなったことを受けて、無数のボランティアがそれぞれの興味対象を記事にするという形でスタートしたWikipediaは、いまや、なにを検索してもトップに表示される世界標準の基礎情報となっている。「素人の書いているいい加減な内容」という揶揄の時代を経て、今や頼まれなくても専門家が無報酬で投稿するメディアとなったWikipediaの発展は、私に大きな影響を与えている。

三つの機能

  1. 包括的な年表データベース  分野を問わず、「いつ・どこで・なにが起きたか」を網羅する情報インフラをユーザーの協働で構築する。これには、科学、技術、文化、社会、娯楽などあらゆる分野の一次情報が含まれるが、各情報の相関・因果関係、価値について言及したり、「歴史を物語る」ような情報は含まない。また最新情報を手軽に公開でき、共有知の更新を促進する。 (例: SNSでのキャッチコピー「発見! 論文? まず年表!」)

  2. 横断的な検索システム  時期や地域、テーマを跨いで出来事を検索できる。これによりユーザーは、独自の視点で歴史を探索することが可能になる。

  3. 三次元空間でのデータ表示  時間軸と空間軸を組み合わせたデータの視覚化により、ユーザーは歴史的出来事を時空間的な文脈で把握することができ、同時に情報の欠落部分を可視化して新たな探求のきっかけをつくる。

データベースの可視化

 データベースとは通常、表から見えるものではない。Wikipediaには大量のデータがあり、その概要を示すページもあるが、だからといって、総体を見渡せるわけではない。それはちょうど、閉架式の図書館のようなものであり、ユーザーは目録から目当ての図書を探して申請し、その書籍が出庫されるのを待つことになる。

 四次元年表が目指しているのは、開架式図書館のようなデータベースである。データの総体を見渡すことも、背表紙を読みながら書架の間を歩き回ることもできる。自分の意図とは異なる情報と偶然に出会う、それが醍醐味である。また、ヴァーチャル空間の利点として、ユーザーは情報を自由に並べ替えることができる。年代順、関係者名、あるいは何らかのテーマなど、希望に応じて書架の構成が変わる。

 また、物理的制約のない空間であるから、「ないものの場所」を確保することができる。ある国の情報が少ない、あるいは、ある時代の、あるテーマの情報が少ない、といったときに、そこを詰めてしまわないことによって、「不在を見る」ことが可能になる。

可視化の技術

 四次元年表が現在採用しているのはUnityによる可視化である。

  1. 三次元表示  世界地図(二次元)上に時間軸が直立している、という想定である。各データはその事象の発生地を緯度・経度として保持している。そこに時間軸を立て発生年情報を加えることで、三次元的に表示できる。時間は平行な平面として上昇する。世界地図の性質上、緯度による歪み、画面の端が発生することは否めない

  2. 四次元表示  地球儀(三次元)上に、地球の中心を基点とする時間軸が放射状に伸びている、という想定である。各データの緯度・経度を三次元座標に変換し、さらに時間情報を掛け合わせることで、ビッグバンは原点に、時間を追うごとに原点から遠くに表示されることになる。つまり、時間は同心球状に進む。これによって、緯度による歪みが是正され、北極海をめぐる地政学なども正しく認識できるようになる。一方で、ユーザーがこの空間構成に慣れるのが困難になるという側面もある。

Unity表示の問題点

 筆者の技術不足という点はいったん措くとして、Unityは本来ゲームエンジンであり、本プロジェクトには不要な機能が多い。一方、VR、ARをターゲットに精度を上げているとはいえ、地図、地球儀の再現において、精度が完璧とはいいがたい。本プロジェクトでは現状、三次元・四次元表示を「イメージとして歴史を体感する」ものと捉えているが、近現代の細かな位置情報を含むデータが増えてくれば、位置情報の精度が表示の混乱を招くリスクはある。

 また、「開架式図書館の中を歩く」という目標を、ゲームでのキャラクター移動(飛行)機能に頼っているため、ゲームを行わないユーザーには、キーボードでの操作がかなりわかりにくいものとなっている。

QGISの活用

 本講座第7回地図と地理空間情報分析において、QGISというプラットフォームが紹介された。これを用いることで、『四次元年表』の表示に新たな可能性が開けるのではないかと考え、ALH1のテーマとして選んだ。

QGISとは

QGIS(キュージーアイエス、旧称:Quantum GIS)は、地理空間情報データの閲覧、編集、分析機能を有するクロスプラットフォームのオープンソースソフトウェア・GISソフトである。無料でありながら、有料・高額なGISソフト(代表的なものはArcGIS)に近い機能・操作性を備えており、機能の追加も無料のプラグインで行うことができる。   (Wikipedia)

導入から公開

 導入からQGISCloudを利用するまでの手順については、以下に技術記事を書いた。

データベースとの接続

 データベースに接続してテーブルを読み込むまでの紆余曲折は、以下に技術記事を書いた。

これからの課題

 ここまでQGISを学習してきてわかったのは、

QGISは、ビッグデータを利用して、
ユーザーの目的に応じて地理情報を加工し、
その結果を様々な様式で表示するするのに適している。

ということだが、これは、『四次元年表』においてどういう意味を持つだろうか。

『四次元年表』の目標はむしろ、

ユーザーがQGISで用いるビッグデータを提供する。

ことであるように思う。

 一方で、『四次元年表』の地理情報表示が、現状、ユーザーにとって「わかりにくい」状態であることは否めない。設計中のヴァーチャル空間と異なり、世界地図という見慣れた媒体に情報が載っている明快さを、QGISを使ってみて、改めて実感した。

よって、以下を、今後の学習の課題としたい。

1、QGISの三次元表示を学ぶ。

2、QGISとUnityの連携を学ぶ。

3、QGISとFlutterの連携を学ぶ。特に入力時の緯度・経度取得に活用できないか。

4、QGISを用いて加工した情報を「情報利用例」として提示する方法を考える。

5、QGIS等を扱うユーザーに向けて、四次元年表データを提供するシステムを考える。 etc.

まとめ

 今回、文化情報工学総論、地理情報学のALH1として、QGISについてリサーチした。年表と地図好きの高校生が、史学科でも地理学科でもなくあえて哲学科に進み、年を経て、アプリ開発者として母校に帰って、このような学びの機会を得たのは、実に幸運だと思う。文理融合というあり方をずっと目指してきたので、本学部の誕生はほんとうにうれしい。

 『四次元年表』が保有しているデータ数は、まだ200を超えたところで、およそビッグデータと呼びうるものではない。が、それでも上記の「5、データを提供するシステムの構築」はすぐできそうに思う。できることから、ひとつずつ、弛まず前進していこうと思う。

四次元年表の使い方

四次元年表for Mobile


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