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母であり、妻である私の小さな冒険

8月某日。私は疲れ切っていた。

世はお盆休みだというのに毎晩日付が変わるまで残業をし、合間を縫って母の還暦祝いの計画を練り、娘を病院へ連れて行き、家族分のご飯3食を作り…シンプルにやることが多すぎる!!!

こういうときに取るべき行動はただ一つ。
逃亡だ。

私は夫に告げた。
「ちょっと1日外に出てくるわ」
「いいよ。楽しんでおいで」

思い立ったが吉日。
さっきまでの疲れはどこへやら、ウキウキとよそ行きファッションに着替え家を出る。
夫と娘に見送られながら、行き先も見ずに電車に飛び乗った。

古ぼけた木造駅舎がみるみる遠ざかっていく。
BGMはスピッツの「青い車」。

乗ってるのは車じゃないがそんなことはどうでもいい。
軽快なメロディが気分を高揚させてくれる、それだけで十分。
つかの間の自由だ…一人時間を満喫するぞおおおおお!!!!!!!!!

その日、私は美術館へ行くことにした。
館内はひんやりとしててお盆休みだというのに人はまばらだ。
一人時間を満喫するのにもってこい。我ながらナイスチョイス。

美術館には綺麗なものがいっぱいで。知的好奇心も満たされて。
幸福感いっぱいの夢見心地で帰り道を歩いていた……が、暑さがそれをぶち壊しにする。

暑い……暑すぎて溶けそう……

どこか涼しい場所で休まねば……と木陰でスマホをいじっていると魅力的なお店を発見。

「日本酒バル」

これだ!!!ここで昼飲みしよう!!!!と決めてからは早かった。
蝉時雨を抜けて、たどりついたのは駅ビル1階にある小さなバー。

私は大きな窓に面した窓際の席に腰掛け、カクテルをひとつ注文した。
空調が効いた店内はさっきまでとは別世界のよう。天国だ……
窓越しに道行く人を眺めていると、やがてモヒートが運ばれてくる。

涼やかなガラスの中で緑が輝き、氷がカラカラと音を立てた。なんて涼やかなんだろう。

一口飲むとミントとライムの香りが弾ける。
喉をうるおす炭酸がひたすらに爽快で、みるみる疲れが吹き飛んでいく。
この一杯のために生きてるって感じる。幸せ…
ふたたび幸福感に満たされる。自分でもチョロいなあと思う。

でもこれでいいのだ。
人生にはしがらみが多く、やるべきことに押しつぶされて時々しんどくなるけど、少しでも「これ好きだな」って思えるものがあるのならばまだまだ頑張れる。

自分で自分の機嫌をとれるって素晴らしいことなんだ。ちょっとした喜びを見つけるだけで、世界が少し変わるような気がする。
この一瞬の幸せがあれば生きていける。そう感じた夏の1コマでした。


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