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拡がる「ミニFM×地域コミュニティ」の可能性――「らき☆すた」鷲宮の事例

半径50メートルしか到達しないミニFM。免許いらずの簡易な機材で誰でもFM放送をはじめることができますが、これがアニメ「らき☆すた」をきっかけに、ネット配信と組み合わさりながら地域に活気をもたらしています。前編に続き、11年にわたり企画・運営を手がける島田さんにお話しを伺います。

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島田吉則さん
1966年生まれ/鷲宮町(現久喜市)出身/東京製菓学校卒/島田菓子舗代表/久喜市観光協会アニメの推進プロジェクト会議委員会会長/久喜市商工会鷲宮支所 LUCKY☆STAFF実行委員長/ラジオ鷲宮統括マネジャー

ゲストとホストの関係が逆転

――鷲宮にはアニメ「らき☆すた」のファンが足繁く訪れますが、なにか地域に経済効果をもたらしているということはあるのでしょうか?

島田:正直なところ「あまりない」と思います。ただ人を呼び込むことはもちろんなのですが、「らき☆すた神輿」とラジオ鷲宮によって、ゲストとホストの関係が逆転していることがより重要だと考えています。

お祭りでは「らき☆すた神輿」をファンの有志が中心となって担ぎます。その様子を、彼らゲストをお迎えする本来ホストである私たちが見守るわけです。通常の観光では、ゲストに対してホストがおもてなしをしたり、何かを披露したりするわけですが、その関係が完全に逆転しているわけです。

そして、そこにラジオ鷲宮も一役買っています。お祭りなどを見に来たファンの皆さんに、現地で声をかけてラジオに出演してもらっています。

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――一般的な観光ではゲストはいわば「観察者」でスポットライトがあたることはないけれど、ここ鷲宮ではそれが逆転する機会があり、それが新たなホスト=地域との関係・交流を生み出すきっかけになっている、ということですね。

島田:そうなんです。いまでは声が掛かることを楽しみに、毎年初詣に訪れてくれるファンや、脳梗塞で倒れたもののラジオで話すことを目標にリハビリを頑張っている方もいて、私たちもその回復ぶりに毎回驚かされています。

コロナ禍でも活きるミニFM

――しかしコロナ禍にあっては、まさに人と人との対面での交流の機会を減らさなければならなくなっています。現在はどのような活動をおこなっているのでしょうか?

島田:お祭りの開催も含め、厳しい状況が続いていますが、ミニFMだからできることに取り組んでいます。一つの例としては、人出が減って売上が減少してしまった商店街の店舗のために、ドライブスルー型の弁当販売を商工会で行ったのですが、その場所となったガレージに即席の放送ブースを設けて、会場にやってきてくれた方々に、カーラジオで番組を聴いてもらうという取り組みを行いました。

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――全国各地でドライブスルー販売は実施されましたが、そこでミニFMを、というのは珍しいですね。

島田:はい。番組内容としては販売しているお弁当の紹介をするもので、以前からラジオ鷲宮に出演するなど協力をしてくれている市長も当日飛び入り参加して盛り上げてくれました。(写真は梅田久喜市長のFacebookより)

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まもなく(5月23日)放送を予定しているのは「ワクチン2回接種した医療従事者ですが何か質問ありますか?」と銘打った番組です。地元の医療従事者の方に、現在の苦労や地域の人たちに知ってもらいたいことを話してもらいます。

ミニFMは電源さえあれば、いつでもどこでも発信できる変幻自在なツールです。これからも商工会青年部や高校生たちと共に、思いついたことはどんどんやっていきたいと思います。

ミニFMだからこそ生まれるつながり

――インターネットでの「配信」がこれだけ充実している時代に、あえてラジオ、それも聴取範囲が極めて狭いミニFMで様々な取り組みと、つながりが生まれていることに驚かされます。

島田:わたしはラジオにおける「パーソナリティ」という役割が、こういう時代だからこそ力を発揮しているのだと考えています。それはテレビの司会やMCとはまた違っていて、人間力でコミュニケーションを図る存在なんだと。

ラジオ鷲宮に参加してくれている高校生達にも「アンテナが高くなるよ!」といつも言っています。たとえ赤点をとっちゃったとしても、むしろそれがラジオで話すネタになる。そして、今ではラジオを起点としてインターネットへの拡がりも生まれます。ラジオでの悩み相談が、その後もネットで続くこともあります。でも、その拡がりが生まれるのも聴取範囲が限られたラジオで共に時間と場所を過ごしたからこそなんですよね。

――地域での日々の暮らしが、ラジオというメディアを介することで番組コンテンツになり、地域の中と外をつなぐ役割を果たすということですね。

島田:ラジオ鷲宮は、「らき☆すた」をきっかけにつながった人たちが双方向でつながる存在ですが、本来ラジオはそこに来なくても聴ける、つながることができるというツールでもありますので、コロナ禍のなかではそちらのメリットが活かされていると思います。

――よくわかりました。お忙しいなかありがとうございました。

まとめ

地域における情報発信メディアとしてラジオの価値が、特に東日本大震災以降見直されてきましたが、一方で、特にこのコロナ禍のなかで発信を続けることの大変さも明らかになりつつあります。地域に暮す人々、そして何らかのきっかけにその地域と関係・交流を持った人々とをつなぐ、という本来の価値を煮詰めた一つの例が、ラジオ鷲宮のようなミニFMと言えるのではないでしょうか。

(※記事中写真・画像は久喜市商工会鷲宮支所より提供頂きました)

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。


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