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ロケツーリズムは成立するのか?

引き続き、ここでは地域とコンテンツとの関係について色々と考えています。5月17日放送のワールド・ビジネス サテライト(※ビジネスオンデマンドで見られます)でも取り上げられていましたが、いま「ロケツーリズム」にも注目が集まっています。

ロケツーリズムとは「フィルムツーリズム」とも呼ばれ、コンテンツツーリズムのバリエーションの1つです。いわゆる「聖地巡礼」はファンが完成した作品の舞台を訪ねることに主眼があるのに対し、「ロケツーリズム」はその作品を「撮影」する場所(映像制作用語でいうところのスタジオ外での撮影=ロケーション)に重きがある言葉です。「聖地巡礼」同様、ファンが完成作品の舞台を訪ねる行為も含まれることもあるのですが、地方からすると「いかにこの場所でロケをしてもらうか」が起点となる考え方と言えるでしょう。アニメの場合だと制作に先立つ取材(ロケハン)をいかに誘致するか、ということになりますね。

番組では経産省がこのロケツーリズムを促進しようと自治体と映画関係者を集めたマッチングイベントを開催したことが特集されていました。しかしこのように盛り上がりを見せるロケツーリズムですが、「幸いにして舞台にはなったけど、経済効果はほとんど現れなかった」という声もよく聞きます。なぜそうなってしまうのか? 経済効果を生むにはどうしたら良いのか、少し考えてみたいと思います。

よく参照されるロケツーリズムの研究論文(※リンク先PDF)では、以下の「ロケツーリズムに必要な4つの指標」をあげられています。(各項目の詳細はリンク先の論文を参照してください)

(1)ロケ支援度の向上
(2)ロケ地行楽度の向上
(3)観光客・リピーターの確保
(4)地域との連携

実は筆者が所属する大学がある新潟県新発田市も、つい最近2017年に映画「ミス・ムーンライト」のロケ地に選ばれています(※ヘッダー画像は作品ポスターより引用)地元の人たちも熱心にロケを支援し、「友人や親戚がエキストラとして出演した」という声もよく聞きます。

奇しくも「ロケ」そのものが物語となった作品です。有名俳優も出演しており、全編POV(主観ショット)で構成されるという意欲作でしたが、残念ながらDVD化もされていないようです。わたしもここに来るまではその存在を知りませんでした。地元も大いに盛り上がり、撮影に協力し、作品のテーマと地域との連携の親和性も高く、公式サイトに地域名が明記されているなど、取り組みとしてはとても良いものであったはずです。つまりこの作品は上記4要件は一定満たしていたはずなのですが、肝心の人気・認知を十分に獲得するには至りませんでした。

エンタメコンテンツのヒットは予想が困難です。作品の出来映え以前に、同時期に公開されたライバル作品に観客を奪われたり、配給宣伝費の多寡で勝負が決まってしまうこともあります。とはいえ、せっかくロケ地に選ばれても認知度向上の前提となる作品のヒットがなければ、様々な努力は水の泡になってしまいますが、ロケ地となる地域にできることは、地元での上映会や地域での広報宣伝活動などその範囲はどうしても限られてしまいます。ロケ地がこのようなリスクを避けるにはどうすればよいのでしょうか?筆者は大きく2つの方向性があると考えています。

1つめは「多くの作品のロケ地に選ばれるよう積極的に誘致をする」という方向です。番組で取り上げられていた千葉県いすみ市では、2016年だけで200件以上の撮影問い合わせがあり、ロケ地マップの配布やロケ地ツアーを企画するに至っています。2019年には観光客数を60万人にまで増やすことを目標に掲げており、145億円規模の一般会計予算の重点配分分野として「地域資源の価値を再認識しての地域所得の向上」が挙げられています。いすみ鉄道を始めとした観光資源を呼び水に、地域ブランドの確立を数多くの映像コンテンツのロケ地として選ばれることでも図っていこうという意図がみてとれます。(参考→《千葉県いすみ市》たった半年で30億円の効果に! | 成功事例 – ロケツーリズム協議会

番組でも紹介されていたように、これはできるだけ撮影費用を抑えたい制作側からも有り難い話です。撮影隊の宿泊や食事、ロケの警備やエキストラの手配などの相応の部分を地域側が負担してくれるとなれば、東京からもほど近く、映像的に「映える」場所を多く擁する(※そういう場所が少ないと観客が「またあそこか」となるので敬遠されがち)いすみ市はロケ地の候補としては上位にあがるはずです。

つまり裏を返せば、「どのくらいヒットするのか」「どのくらい地域を『推して』くれるか」という地域からみた不確定要素をできるだけ平準化するため、地域としては「数」を目指すというのがこの方向性での最適解であると言えるでしょう。しかしそのためには、フィルムコミッション組織の充実をはじめとしたロケ誘致活動に相当なコストを掛け「続け」なければなりません。地方財政が厳しくなる中、この方向性が妥当といえる自治体は実はそこまで多くはないはずです。

ではもう1つの方向性は何か? 次回に続きます。





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