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地方のオンライン環境をどう整えるか?

スマートフォンはホントに「ブロードバンド」?


新潟県の地方都市で働くようになってから3年が経ちました。大学で2年生からゼミを担当した学生たちがいよいよ卒業を控えるなか、緊急事態宣言下でも課題であった「あること」が気に掛かっています。それは、「家にブロードバンド回線がない」ということです。

日本においてはブロードバンド環境が整っている、という印象を持つ人も多いはずです。実際統計資料(情報通信白書など)を見ても、インターネット普及率は人口の9割に達しており、世界的に見ても高いレベルにあります。

しかし、その中身を見ていくとスマートフォンによるインターネット接続もブロードバンドである、という数え方がされています。

総務省「通信利用動向調査」より

4G、5Gの普及が進んでいますから、たしかに回線速度という意味では間違いではありません。しかし、それは(1)つなぎ放題ではない (2)スマホの小さな画面での情報摂取に留まっている、という2つの課題を抱えているように思えます。

総務省「令和3年版 情報通信白書」より

オンライン授業が急増した時期には、必ず「自宅につなぎ放題の回線がなく、月末になると通信量が上限を超えてしまう」という学生が出てきます。彼らはやむなく入構制限が掛かった大学にやってきて、構内のWi-Fiを使わざるを得ない、という状況も多くの大学で見られる光景です。

また、情報リテラシーの観点からもスマートフォンによるインターネット接続は、複数の情報を見比べながら情報の吟味・摂取を行うという使い方にはならず、Twitterのタイムラインやトレンドで話題の事象ばかりを追い続けた結果、視野が狭く、フィルターバブルの中に入ってしまったような学生も見受けられます。

長引くコロナ禍で、就職活動にもオンライン環境が欠かせなくなっていますが、固定系ブロードバンド回線とパソコンを持っている学生と、スマートフォンしか持っていない学生とでは、雲泥の差が生まれています。ブロードバンド先進国であるはずの日本の特に地方都市で、情報格差が顕著になってきているように感じます。

なぜ地方で固定系ブロードバンドが普及しないのか?

都道府県別のインターネットの利用端末調査で「パソコン」に注目すると、東京を始めとした大都市圏に比べ、新潟のような地方ではその比率が低くなっていることが分かります。固定回線でのインターネット接続が前提となるパソコンの利用率が低い、ということは上に挙げたような課題が現れてくる率も上がってしまうというわけです。

(上のスプレッドシートは総務省通信利用動向調査を元に筆者が作成)

地方創生においてインターネット活用が重要であることは言うまでもありませんが、一方でその環境が十分に整っていない実情があります。その要となる固定系ブロードバンド回線はなぜ普及しないのでしょうか?

大きなところでは、地方においては戸建ての住宅が占める割合が多く、固定回線に集合住宅より多くのコストが掛かる点が挙げられます。(フレッツ光の完全定額プランの場合、マンションタイプが税抜き月額4,730円であるのに対し、戸建てタイプは5,830円。一般的に工事費も高くなる。)さらには近隣の情報は近所づきあいや広報誌から得られることが多く、日常的にはインターネットによる情報探索の必要性が都市部に比べると低いことも影響しているように感じられます。

学生に話を聞くと、「回線を切り替えると料金が安くなる」といった売り文句で、高い工事費やその後のオプション契約を結ばされそうになった/結ばされたといったことが過去/周囲であった、だからもうブロードバンド回線への切り替えは考えたくないと親御さんが言っている、ということもありました。

ただでさえ、回線契約の選択肢が少ない地方において、悪質なセールスとその印象が拡がってしまっていては、固定系ブロードバンド回線への切り替えはなかなか進むことは期待できません。

また震災被災地においては、震災直後はIT系企業による回線や端末の支援があったものの、10年が経過しそれらの機器がもう使えない状態になっているということもあります。

現在、国は地方のDXも政策の中心テーマとして掲げていますが、ぜひ基本的なインフラである固定ブロードバンド回線普及の実情にも目を向けて貰いたいと思いますし、地方自治体においてもこの情報インフラの成否こそが、地方の未来を決める要因の1つであると捉え、補助金などの積極的な支援を行うべきではないか、と考えています。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。

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