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🅂18 その先の3ファクターモデル

「A little dough」 第5章 貯蓄と投資 🅂16 ポートフォリオ理論(6)

  マーコウィッツに始まるポートフォリオ理論の全体像について、大まかに眺めてきましたが、例え僅かであってもこうした理論的裏付けを自分なりに理解していくことで、漠然とした不安は和らいでいくものです。ただ「腹落ちする」というところまで理解を深めるには、経験が必要になります。理論的理解はあくまで抽象の世界で、真っ白なノート上の回答のようなものですが、現実の世界には私たちが予想できないさまざまなギャップが待ち受けているからです。

➤MPT(ポートフォリオ理論)のアノマリーへの対応
 EMHやMPTでは触れられず、にもかかわらず現実の株式市場では強力なインパクトを持っているのが「アノマリー」です。バフェットのような稀代の投資家たちがこれをベースに高いリターンを出し続けていることは、先に記載した通りです。

 田淵直也氏の「ファイナンス理論全史」によると、EMH(効率的市場仮説)の提唱者であったユージン・ファーマはシカゴ大学の同僚であったケネス・フレンチと共に1993年に「ファーマ=フレンチモデル」を発表しました。これが「CAPMのアノマリー対応版」と呼ぶべき代物です。CAPMは、リターンの源泉を「市場リスクのプレミアム」に求めましたが、このモデルでは、代表的なアノマリーとされる「小型株効果」 と「割安株効果」の二つを追加し、「3ファクターモデル」としています。つまり、上記二つのアノマリーについては、リターンの源泉としての価値を認めたということになります。更にこれに「モメンタム効果」を加える「4ファクターモデル」もあるようですが、いずれにしても、市場リスクプレミアムに加えて、継続的に存在していると考えられるアノマリーをターゲットに加えるというのが「CAPM拡張モデル」の考え方といえそうです。


➤ターゲットとしてのアノマリー

 私たち個人投資家がこうしたモデルを採用することも可能ですが、リスクプレミアムの源泉がアノマリーであるという点には注意が必要です。というのも、「市場の成長」にリターンの源泉を求めている市場ポートフォリオとは本質的に異なるからです。
 「CAPM拡張モデル」は「市場は効率的である」という前提の市場ポートフォリオを投資戦略の中心に据えながら、これでカバーしきれない局所的な利益も補完するということです。言い方を変えると一度分散投資によって消去した個別リスクの持つプレミアムを、何らかの歪み(アノマリー)に変わったところで効率的に取り込もうとする戦略ともいえます。その意味では、拡張型といわれるだけあって、かなり積極的にアルファ(市場平均を上回るリターン)を狙っていくアクティブ型の投資戦略と考えておく必要があります。

➤幻の1万円札
 前述の田淵氏の著作にアノマリーの実証実験に関する記述がありますので、下に引用します。 

ちなみに2017年の5月に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙にアノマリーに関するある実証実験の結果に関する記事が掲載された。その研究はすでに提唱されていた447ものアノマリーのその後の統計的有意義性を検証したものだった。さまざまな研究者がアノマリーを探した結果、そんなにも多くのアノマリーが"発見"されていたというわけだ。しかし記事によると、そのほとんどは統計的優位性を持たなかった。つまり、当初はアノマリーと思われていたものも、実際にはそうではなかったか、あるいは、その後に消滅してしまったことになる。

「ファイナンス理論全史」田淵直哉著p83(ダイヤモンド社)

 この記載からもわかるように、「CAPM拡張モデル」に取り込まれるようなアノマリーは別にしても、その多くの存在は私たちから見れば「幻の1万円札」の可能性が高いということです。また、「小型株」「割安株」「モメンタム」といった代表的なアノマリーが確かに存在しているとしても、それを高い確率で予測することは相当に困難であり、またそのために注ぎこむ「時間と労力」も私たちには用意できないのが普通です。仮にこうした戦略を取りたいのであれば、現実的にはDFA(ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ)やブラックロック、日本の大手証券などが扱っている「ファクター投資ETF」なども選択肢となりますが、あくまでアクティブな戦略であることを念頭に、まずはしっかりと研究することから始める必要があります。当然これにも多くの「時間と労力」がかかることと、「投資は自己責任で」という当たり前の言葉を、念のため付け加えておきます。


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