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🅂13 おいしいビールは一杯目だけ⁉

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂13

▽東京はこのところ6月とは思えない猛暑続きで、家で仕事をしていても夕方になるとキリっと冷えた生ビールが恋しくなってしまいます。ところでこのビールですが、1杯目は思わず「うまっ!」と声に出してしまうほどですが、2杯目、3杯目とおいしさが半減していくような気がします。私はビール好きですが、最近は身体のことを考慮して普通は350ml缶1本にしています。美味しいビールを出してくれるお店でも、せいぜい2杯です。

▽どうでもいいような話ですが、こうした人間の感覚を上手く説明してくれた人がいます。18世紀、スイスの物理学者ダニエル・ベルヌーイは「サンクトペテルブルクのパラドックス」と呼ばれる考えを、下記のようなコイン投げのギャンブルを例に示しました。

▽(設問)は次のようなものです。
・1回目に表が出たら2円もらって終了。裏がでたら2回目に進みます。
・2回目で表が出たら4円もらって終了。裏がでたら3回目に進みます。
・以下同様に表が出るまで繰り返し、賞金は毎回倍に増えていきます。
このようなギャンブルに参加するのに、あなたはいくらなら支払うか?

▽(解説)賞金は10回続いたとしても千円ほどですが、20回では百万円になり、30回だと10億円を超えます。賞金金額はものスゴイですが、一方で到達する確率となると、それぞれ千分の1、百万分の1、10億分の1ほどになります。ちなみに年末ジャンボ宝くじが2千万分の1ですから、上記のギャンブルの回数に換算するとおよそ24回目くらいに匹敵します(賞金は1千7百万円程度ですが)。最低でも2円もらえ永遠に続く可能性のあるこのギャンブルは、理論的な期待値としては無限大となりますが、ベルヌーイの仮説により算出した参加費はたったの4円、これが「パラドックス」といわれる所以です。

▽それではベルヌーイはどう考えたのでしょうか。以下「行動経済学入門」からの引用です。

ベルヌーイはより説得力のある説明を提唱した。それは、「われわれがくじを評価する時、くじで得られる賞金額そのものではなく、くじから得られる満足の大きさで評価するのである。また、賞金が多くなるほど、1円当たりの満足は小さくなる。」という説明である。つまり現在の経済学用語でいえば、ベルヌーイは「効用」の概念を提唱し、限界効用は逓減すると指摘したのである。

出典; 筒井義郎ほか著「行動経済学入門」
東洋経済新報社

▽くじの「効用」とは、このくじが魅力的で満足できそうなものか、ということになりますが、当初確率が高い時は賞金が極端に小さく、賞金が大きくなると確率が極端に低い、要するに魅力的なギャンブルとはいえないようです。

ベルヌーイの示した効用関数の一例

▽上図はベルヌーイが示した効用関数の一例です。ベルヌーイの言葉のように横軸の富の増加に対して縦軸の効用が逓減しているのがわかります。それではこのように「効用は逓減する」という仮説に立ったうえで、次の設問を考えてみます。
(設問)次のどちらを選びますか?
①1000万円と200万円、コイン投げでどちらかががもらえる
②確実に600万円もらえる
(解説)①の期待値は600万円(1000万円÷2+200万円÷2)で、②と同じです。しかし上の効用関数表を使って効用を求めると、①は50+15=65に対し、②は78となります。従って上記のような効用関数を描く人は、確実性を重視し②を選択するということになります。このように、私たちは単純に量で判断しているのではなく、「量がもたらす効用によって意思決定をしている」というのがベルヌーイの考えです。

▽「効用は逓減する」ということを示したのはベルヌーイが初めてだそうですが、なるほどビール一杯の効用も逓減していくこと事態は、実感としてわかります。しかし次に脳裏に浮かぶのは、「なぜ効用は逓減するのか」ということです。「そりゃ飽きるからだろ」といわれてしまいそうですが、それでは何故飽きるのかというと、生物が生き延びるためにそのように創られている、という気がしてきます。これは私の憶測にすぎませんが、効用が逓減しないと想定した場合、例えばアルコールは依存症リスクがとても高くなり、死を招くリスクもあります。もっとシンプルに例えると「食べる」効用が逓減しないと、生物は滅んでしまいそうな気がします。

▽さて、効用の逓減は素直に認めるとして、ビールの場合は一杯目に効用のピークがきますから、その後はどんどん落ちていきます。できることなら居酒屋のビールの価格もこの効用曲線を使って決めていただくと、消費者的には助かります。一杯目が600円なら二杯目は400円、三杯目以降は300円とか。居酒屋「アマゾン」なら、徹底したマーケティングでそれくらいやってもよさそうですが、ムリかな...。


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