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🅂6 ストックで強化する

「A little dough」 第3章 働いて自立する 🅂6
経済的な自立(3)

 🅂4~🅂5を通して経済的な自立について考えてきました。前回は、働くことによる経済的自立について記載しましたが、特に🅂2~🅂3で記載した自己管理能力がある程度身についていないと、継続することが難しいということになります。

経済的自立についての整理

➤生活防衛資金をつくる
 さて🅂4では経済的自立のもう一つの形として「ストックによる経済的自立」についてふれました。私たちの実際の収入は、働くこととストックによるものの両方になることがほとんどです。ただストックの収入が生活基盤費用になるためには、一定のレベルが必要です。そこで私たちは、まず労働による経済的自立を目指し、一方ストックによる増加分はそのままストックとして残していきます。その一つの形として「生活防衛資金」という考え方を示したのは、破綻した日本振興銀行の会長を務めた木村剛氏です。その著作「投資戦略の発想法」のなかで、若い時のストックの重要性を詳しく説明しています。この本によれば、仮に仕事を失くしたとしても、しっかりとした次の仕事を探すためには1年くらいの猶予が必要で、その為の資金として余裕をもって生活費2年分の貯蓄(一か月の生活費×24)を目指すべきだとしています。

 また、本多静六氏の著作「私の財産告白」の中に、留学中ミュンヘン大学の恩師ブレンタノ博士から受けた財産形成に関するアドバイスが記載されています。これは序章で紹介しましたが、下記はその再掲となります。

「お前もよく勉強するが、今後、今までのような貧乏生活を続けていては仕方がない。いかに学者でもまず優に独立生活ができるだけの財産をこしらえなければ駄目だ。そうしなければ常に金のために自由を制せられ、心にもない屈従を強いられることになる。学者の権威も何もあったものでない。帰朝したらその辺のことからぜひしっかり努力してかかることだよ。」

本田静六著「私の財産告白」

 ミュンヘン大学の恩師ブレンタノ博士から受けた財産形成に関するアドバイスですが、この言葉は「投資戦略の発想法」に書かれたリスク管理的な意味合いというよりも、経済的自立の確立がその人の仕事の質そのものを左右するという、別の視点からのものになっています。また「フローの収入」だけではなく「優に独立生活ができるだけの財産」、つまり「ストックによる支え」が必要だと書かれています。

 これらを踏まえると、生活防衛資金には「リスクに備える」という側面だけでなく「仕事そのものの質を高める」という大きな効果がある、ということになります。「将来の3大支出に備える」といった類のものではなく、むしろその前の段階で、仕事に就いたら必ずやっておくべきこととして、「生活防衛資金」の確保を勧めています。
 ブレンタノ博士の真意は、「信念を持って良い仕事する」というところにあり、あくまでもファイナンスはそれをサポートするものでしかない、というところに注意が必要です。

 ➤本業での成果を高めていくためにすべきこと
 働くことで、フローの収入による経済的自立が可能になり、ストック(生活防衛資金)でさらにこれを強固なものにする。その結果、私たちは当面の生活を心配せずに、また自分の信念に拘りを持って、働くことができるようになります。具体的には、コンプライアンスを軸に「正しい判断と行動を選択し実践する」可能性が高くなります。こうして「自らの働く環境を盤石なものにしていく」ことは、環境整備に着目しているという点で、第1章で述べたメタ認知による活動そのものといえます。もちろん本業をしっかりと勤め上げるのがメインの目的ですが、認知エラーが引き起こす様々な弊害で、私たちの思考や判断が万全とは言えない以上、冷静に正しい判断のできる環境を、自らの手で保全していく必要があります。ブレンタノ博士もこれをいっています。

 会社員が会社で働くということは、本業を行うことです。これを選択した以上、ここで大きな成果を上げることが何よりベストです。しかしその本業に集中するためには、自らがやるべき環境整備もあります。その一つが「働くことでフローの収入による経済的自立」を確保し、更に「ストックによってこれを万全のものにしていくこと」です。働いて経済的に自立することが質の高い仕事に繋がる、質の高い仕事はパフォーマンスを引き上げ更に経済的自立を高める…というのですから、これは例えるなら螺旋階段のような循環形態となっています。こうした循環は、新たなパワーを生みだし、結果的には私たちが考えている以上の効果を発揮します。
 「経済的自立」は仕事に留まらず人生における重要な環境の整備でもあります。人生を巡行速度で航海していくための一つの重要な手段として、しっかりとした意識を持って取り組んでいく必要があります。


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