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20220205日記(映画『大怪獣のあとしまつ』を見た。)/爆発オチのそのあとで

ギリギリまでがんばって ギリギリまでふんばって
どうにもこうにも どうにもならないそんな時
ウルトラマンがほしい! ウルトラマンガイア!
ウルトラマンガイア主題歌「ウルトラマンガイア!」

古今東西、収拾のつかないお話を終わらせる為の方法はだいたい似通っている。爆発オチである。人智を超えた暴力で全てを吹き飛ばせば話は必ず終わる。特撮番組を見る僕たちにとって身近なところから引けば、「収拾のつかないお話」は怪獣を、「爆発/暴力」はウルトラマンを指す。ギリシャ劇でこれを何と呼ぶかは、よく知られているし言うのがなんか恥ずかしいので書かない。

映画『大怪獣のあとしまつ』はそんな爆発オチ後の世界、怪獣災害に対応する首相直轄の組織「特務隊」の奮闘とは何の関係もなく、突如現れた正体不明の光の塊によって怪獣が殺され、とりあえずの危機は脱した日本を舞台にしている。

メインの登場人物を紹介する。数年前に謎の光に巻き込まれて失踪し、最近帰還して部隊復帰はしたが、行方不明になっていた間に何があったかを誰にも語らない帯刀アラタ(山田涼介)。同じく謎の光に巻き込まれた際の事故で片足を失って除隊し、現在は総理秘書官の天音正彦(濱田岳)。恋人のアラタを失ったあと、大怪我を負った正彦を支えるうちに恋仲になって結婚し、現在は環境大臣秘書官を務める天音ユキノ(土屋太鳳)。

かつて特務隊の同僚として共に過ごし、怪獣によってではなく、謎の光によって本来生きるはずだった人生を吹き飛ばされた3人を追う形で、主にこの映画は進行する。怪獣は倒されたが、その死体は腐敗ガスで膨張しはじめている。もし死体処理に失敗してガス爆発しようものなら都内は汚染され内閣支持率は低下、彼ら3人のキャリアも終わる。謎の光による爆発オチによって一度奪われた人生の物語を、再び爆発オチによって奪われるかもしれない危機に、彼等はどう向き合うのか。


という状況が提示された時点で事前の予告とちゃうやんけとずっこけが発生する映画だった。けっこう興味深い設定だし、コント劇やテレビコントの仕事を精力的に行ってきた三木監督が、コントの定番オチに人生を奪われた人々のその後を撮ろうとするのも面白い試みだと思う。しかし予告映像は三谷幸喜版シンゴジラみたいなやつですって顔をしてるので困る。

冒頭10分も見たらどういう話なのかだいたい察せられるのでネタバレもなにもなかろうとラストまで書いてしまうのですが(ネタバレだよ! 数行あけて続きを書く)






アラタはおそらくウルトラマンと共生関係にあるのですが、だからこそ人間の力で事態を収拾することに拘って奔走し、ある程度それを成功させる。
正彦はウルトラマンに救われた世界の中で、唯一のウルトラマン被害者の立場から謎の光の正体に迫るために暗躍し、アラタに正体を晒させることに成功する。あの時自分が救われたのも奪われたのも人智の及ばない出来事ではなく自分たち3人の物語だったのだと確信し涙を流す。
ユキノはあの時見失ってしまったアラタにちゃんと別れを告げて見送る機会を得る。

全員が爆発オチではないそれぞれの物語の終わりに到達するラストシーンはけっこう感動的だし、もうちょっとまっすぐ受け止めてもいいかなーと思いはしたんだけど、シーンごとに完結したコントを撮って繋いでる作品だからなんか真面目に話の筋を覚えてようという気持ちが鑑賞中にはあんまり湧かず、2日経ってようやくまあわるくなかったかなくらいの気持ちになってきている。

怪獣死体処理のドタバタ群像劇ではないと冒頭で示されるのに、実際に画面内で進行するのはおおむね怪獣死体処理のドタバタ群像劇なので意味なし映像じゃんと飽きちゃうし、あまりに書き割り的すぎるというか、怪獣の死体という大ホラを飲み込ませる為のディティールが全然ないので特撮としてもSFとしても見どころは少ないんだけど、爆発オチのその後というモチーフは面白かったので、なろう小説とかで流行ってほしい。僕は読む。予告見て期待する内容がウルトラマンのその後じゃなくてゴジラのその後だったことは、まあ不幸な事件でしたね……くらいで流したい。

意外と特撮への目くばせが多くオダギリジョーがオキシジェンデストロイヤー(ではない)を抱いて沈んだりもするんだけど、なぜか全然嬉しくないしニヤリともできない映画だったからオマージュともパロディとも呼びたくないという意見が出るのはわかる、が、では何故そう感じたのかに関してはまだ考えてないのでこの日記では触れない。それを考えるためにもう一回見に行ってもいい気もする。

ところでこういう、取り返しのつかない季節が過ぎ去ってから月日の経った男女の最後の輝きを描く作品、なんかあったなと考えていたんですが、弘兼憲史『黄昏流星群』ですね。

弘兼憲史がたまによく書くふわっとしたSFけっこう好きで、それに近い空気があった気がする。この作品が、かつてウルトラマンと共に去った恋人と、中年の土屋太鳳が不倫する黄昏流星群の1エピソードだったら僕は絶賛している可能性があるので、ハコって大切ですね。

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