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『Slay the Princess』2023年最も衝撃を受けたゲーム

2023年、一番面白かったゲームは満場一致で『Against the Storm』だと思っていた。実際このゲームは本当に良かった。これはこれで別に記事を書きたい。
それはそれとして、年末、何かゲームやりたいなと、2023年を振り返りもちょうどよくmetacriticの年内スコアランキングを見ていた。そこで異彩を放つ一つのゲームを見つけた。

『Slay the Princess』はとてもシンプルなアドベンチャーゲームである。
選択肢をどうするか以外に悩むことはなく、例えば画面に隠されたポイントを探す脱出ゲーム要素も全くない。
ゲームのシステムは至ってシンプル。以下のストーリーを、どう進めていくかのみである。

あなたは森の中の道を歩いていて、その先には「小屋」があります。そして、その「小屋」の地下に、「姫」がいるのです。

あなたは、「姫」を殺さなければなりません。

そうしないと、世界が滅んでしまうのです。

Steamストアページより

そうかそうか、姫を殺さなければならないのか。では殺すとしよう。
とはいっても、様々な選択が思い浮かぶだろう。
姫は抵抗してくるのだろうか?ナイフで殺すのか、素手でヤるのか?そもそも殺す必要はあるのだろうか?

世界が滅ぶ、姫とは一体何なのだろうか?


以下本編ストーリーに関わるネタバレはしない。
どういった点がユニークで魅力的だったのかを書いていく。

まずこのゲームをプレイすること数十分、とあるPVを思い出した。

一つのテーマを、複数のテクスチャで描く作品。
女子高生が走る、跳ぶ、婆が水かけをする。これら一連の動作は崩さず、様々な表現技法で「着せ替える」。
この作風はありきたいではないにせよ、もはやよくある表現であって、「なんか面白いね」で終わりがちなものな気がする。
しかし見ようによっては、あり得た世界、もしかすると自分が歩んでいた世界……もしあそこでこうしていれば違ってたのかな?といった並行可能性を考えさせる。
『Slay the Princess』の面白さというのはこれだ。この並行可能性のズバ抜けたユニークさにある。


並行可能性のテーマは語るまでもなく今や定番だろう。
しかしそのトレンドが変化し広がっていることが興味深い。
シュタインズゲートのような分岐に入り込むタイプ、ライフイズストレンジのような分岐を味わうタイプ、デトロイトビカムヒューマンのような分岐を共有して楽しむタイプ…。
『Slay the Princess』のその楽しさというのは、例えるならあのゲームが思い浮かんだ。

『NEEDY GIRL OVERDOSE』が実はどういったゲームなのかはご存知だろうか。このゲームに関するキャラクターや曲はとても有名だと思うが、実際にどういったゲームなのかも是非やってみてほしいところ。
同じくネタバレはしないが、要するにEDがかなり多くあるのだ。なんと20~30ぐらいある。しかもこの数というのは少しも盛っていなく(例えばNieR:AutomataもEDが26種類あるが、実際ストーリーの核となるのEDは2,3個である。)、それぞれが独特なしっかりと分岐したオリジナリティのあるEDだというのが凄い。基本システムは周回プレイであるからゲームプレイの基本は変わらないが、日々取りうる些細な選択の積み重ねによって結末が大きく変わっていく。

対して『Slay the Princess』のED数はなんと60~80ある。
しかもこれらは最早EDといっていいものかもよく分からない。とにかく、起こりうる結末の変化が相当数ある。そしてどれもドラマチックな展開だ。
これらの結末は、その時自分が何を考えてその選択を行ったのか、それに基づく。つまり当たり前の話ではあるのだが、是非自分自身で体験してみてほしい。動画や他人のプレイではもったいない。己の選択との向き合いが大切なのだ。


また、『Slay the Princess』はワードチョイスがかなり難解である。
"hubris"や"divulge"など、英検1級レベルのなかなか聞いたことがない単語に多く出会った。他にも難しい単語をあえて使っているように見える。
この難解さ(加えて、ナレーターのギミック)は『Disco Elysium』を思い出した。

『Disco Elysium』はこれも名作で面白かった覚えがあるのだが、日本語訳が出る前にプレイしたのでやはり英語が難解であまり内容を覚えていない。(いや、覚えるも何も、それこそ主人公の酩酊してふらついたような曖昧な記憶なのだが。)
それでも、『Slay the Princess』をプレイして早くも数分で、頭の中に語りかけてくる意味不明な存在たちの感覚はしっかり思い出した。
何が起きているかよく分からないがワクワクする。この感覚である。混沌のまま先にどんどん進んでいく奇妙な心地良さがある。


また唯一にして特大の難点は、かなりのテキスト量に対して現状は日本語訳がないため、英語が得意であってもかなり足は重たいことだろう。
しかし英語に多少でも自信がある人、このゲームで勉強してみようと思う人は是非プレイしてみてほしい。
現在、多言語翻訳希望のアンケートを絶賛実施中だ。日本語もきっと早い内に来るだろう。


総じて『Slay the Princess』は衝撃であった。
選択と展開、このユニークさに尽きる。予想もしないファンタジックな結果がそこにある。バタフライエフェクトなど蝶のゆらめきには収まらない、ドラゴンフライエフェクトぐらいは表現してもよいだろう。

#Slay_the_Princess

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