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袖の上げやすさ

服のパターン=型紙で、腕の上げやすさを考える時どのような要素が考えられるか、一部のみを挙げてみたい。細かい要素を挙げると際限がない・・。以下で挙げる事より多くの事をデザイナーは考えデザインしている(多分)。同様にパタンナーも考えている(はず)。

服を見て・着て・楽しみたい人にとっては知る必要はない事だとは思うが、ある程度専門的な事が分かれば服を選ぶ際の見え方も変わるかもしれないので、服の構造にあまり興味が無い方でも暇があれば読み進めて頂きたい。


袖の上げやすさの定義

認識を言語化して共有出来ていないと話が始まらない。

今回は【腕の可動域を服が阻害しないこと】と定義して進める。

また、袖=腕の上げやすさには肩も影響する。特殊な関節の持ち主で無い限り、腕を高く上げる際に肩も持ち上がる。腕を上げれば肩の角度(高さ)も変わるのが分かると思う。単純に腕だけを考えれば良いという事でもない、という事が説明を複雑にしていく・・。


前提条件・イメージ

伸縮・・生地は殆ど伸びないという条件で考える。

空間・・体にフィットした服ではない場合、基本的に布は体よりも大きい。どこかに隙間が生まれる。運動量≠空間が広い。

衝突・・布を壁と捉えた場合、体を移動させた先で衝突すればそれ以上動かなくなる≠動きを阻害する。布の面積が大きい程、余裕が生まれる。

形状・・袖に関わりが深い部分のみ限定して考える。つまり、袖が付いているものを想定する(ノースリーブ等は今回の意図から外れるので含まない)


具体的な形状

肩傾斜(肩線の角度)

緩いほうが、腕は上げやすい。単純に可動域を邪魔しない範囲が広がる為。

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上に比べ下は肩傾斜を緩くしている。分かりやすくするため、硬い生地で着想させ袖は外した。下の方が肩先に隙間が出ている。そのため肩周りにゆとりがあるため、その隙間分は動きを阻害しないと言える。

傾斜が緩い場合には着用時にシワが出るなど外観への影響は大きい。ただし、敢えてこのシワを出すように肩傾斜を緩く作るブランドもある。

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肩幅

肩先の骨から、狭すぎても広すぎても腕が上げにくくなる要因になる。袖の形状次第で運動量だけはカバー出来る事もあるが、その場合、袖の形状が特殊になりやすい。

袖が付く場合、肩幅が狭いか広いか、で選ぶなら広い方がキツさは感じにくいように作りやすい。肩幅と袖のバランスの部分は恐ろしく長くなるので割愛する。肩幅が袖の付き方≠腕の上げやすさにも影響する、とだけ覚えて頂ければ良いと思う。


袖山の高さと幅

低いほうが腕が上げやすいと言える。袖が低いといっても、袖山側(上側)が細ければ腕は上げにくくなることもある。つまり、袖の下側にマチや運動量があっても(布の余りが十分にあっても)袖が上げやすいとは限らない。

袖山が高ければ、腕をおろした際にはキレイに落ち着いた形状にしやすく、何を優先するかをバランスで決める事になる。

袖山高さについて、過去に書いた記事があるので気が向いたらそちらも見て頂きたい・



カマ底の位置

カマ底=袖ぐりの底

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下側がカマ底が深い(低い)状態。

人体から離れるほど、腕は上げづらくなる。腕を上げる際に、見頃ごと持ち上げる分量が増えるため。軽い生地で、バスト寸法なども大きければ気にならない事もある。

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下側がカマ底が深い状態。下左図を見て頂ければ、見頃に引かれシワが出ているのが分かると思う。より見頃を多く引っ張っていかないと腕が上がらないという事になり、動きを阻害すると言い換えることが出来る。

カマ底が下がれば、袖ぐりが長くなる。その際に袖側をどう変形させるか次第で見え方重視なのか運動量重視なのか等が変わっていく。ここも長くなるので割愛。


見頃の幅

広ければ腕は上げやすくなりやすいと言える。見頃の幅が広い=ゆとりが多い、ので動きに支障が出るまでに余裕が出る。

かなり大雑把に言えば、オーバーサイズのシャツ等を着たほうが、タイトなシャツよりも動きに余裕が出るという事。

これも肩幅とのバランスや、袖ぐり長さなどに影響する。割愛・・。


その他、影響がある事象

ターゲットの体型

ブランドごとにターゲットとなるバランスが有り、そのサイズをマスターサイズにする事が多い。同じサイズ(数字)でも姿勢等のバランスの違いがあるため万人に合う量産服を作成するというのは不可能。

生地のストレッチ性

生地自体に、伸縮性があるかどうかも着用感に大きく影響を与える。縦横だけではなく、バイヤス(斜め)方向にもどの程度伸びるか等。

バイヤス(斜め)は、右下向きと左下向きではストレッチ性が異なる事もある。

服(生地)の摩擦係数

生地が滑りにくいものの場合は、同じ寸法でも動きにくくなる。

どの状態を正とするか

腕を下ろしている際にきれいに見えるか上げやすくするか。だけではなく、自転車用の服では自転車に乗っている時にストレスの無い袖に設定する事もある。どの状態を目的とした服かで形は大きく変わる。

縫う順番

縫製の順序によってもパターン形状は変わる。順序によってはステッチが掛けられなかったり、特定の縫い代始末ができなかったりする為、デザインにも依存する。


まとめ。

結局、説明を割愛しまくってしまった。兎に角、多岐に渡る要因が相互に影響しているという事を感覚的にでも分かって頂けたなら幸い。

袖に限らず、幾つかの条件・項目がありそれぞれ複雑なパズルのように影響する。単純なトレードオフとならない事も多い。今回は腕周りのみで考えたが、衿ぐりなど他のパーツや位置にも影響を受ける。

いずれにしても、Aの時はBというような単純な事には殆どならない。また、商品比較や機能検証を行う場合で、もしポイントのみを比較したい場合は残りの条件が全く同じか限りなく近い必要がある。

以上で(一部だが)分かるように、デザインやパターン構造のイチ部分だけを見て善し悪しを判断することは非常に難しい総合的に捉えないと間違う。
もちろん様々な考え方や捉え方があるので全く違うと思う方もいるだろう。

いずれにしても、服の構造を判断する際には色々な角度や可能性を考慮しつつ検証すると良いと思う。という事だけ言いたかった長い記事でした。

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