干されるおじさん

なんで?と思われるかもだけど、コロナの時に友だちが増えた。
その頃、パートナーのKちゃんは本格的に女性の姿になりつつあった。
地元でよく行く店では、だんだん女性になっていくKちゃんが良くも悪くも常に話題にされた。
でも緊急事態宣言が出て、地元でのお酒の提供が消えた。
隣町に行けば飲めるぞー!?
電車で1時間の隣町まで足繁く通う中、行きつけができ、行きつけで顔なじみができ、そのままコロナ後の今も通っている。

Kちゃんの女性の姿しか知らない町。
「だんだんきれいになりますね」とか余計なことは言われない町。

その中で特に親しくしてくれるおじさん(D)がいた。
常に酔っていて(笑)、大きな声で笑って楽しく騒ぐ。(いや、ソレ普通に迷惑なやつ!)
Dが嫌いな人が来ると「俺は俺が楽しく飲めればいい」と大声で言って憚らず、Dが嫌いな人というのはそもそもDを相手にしていなかった。

Dが「こいつ友達!」と言って紹介してくれた中にMさんという人がいた。
二人はよく一緒に飲んでいて、二人でわたしたちの地元にまで遊びに来てくれたこともあった。

ところがコロナの制限が解除される頃、DとMさんの関係に変化がおきていた。

行きつけの店にMさんがいる。
Dもいるが二人の距離は離れていて、Mさんの方がDに目を合わせようともしない。
Dの方は気にした様子もなく、相変わらず自分の好きな人にガンガン絡みつつ、調子よく飲んでいる。

そしてDに2軒目に誘われるわたしとKちゃん。
Dと別のお店に入ると、さっき1軒目にもいたMさんや他の知り合いが大集合して楽しそうに飲んでいる。

Dが「俺、最近Mに嫌われてる気がするんだ」と言った。

Mさんがわたしたちに話してくれたのは、DにMさんのお店のお客さんを紹介したのに、不義理なことをされたということだった。「アイツ、金に困ってんだよ」。
いつも調子よく飲んでわたしたちも2軒目に誘われるが、確かに金払いはよくない、というか持ち合わせがないのにいいお店に誘ってきて、支払いのすべてをわたしたちに任せるということも多々あった。

Mさんはお店もしているが、芸術家でもあって、個展を開くときに案内状を作成して、来てほしい人に配っていた。
わたしとKちゃんももらった。「Dには言わないでね」。

でもDはなぜかMさんが個展を出すのを知っていて、個展を開く予定の会場に置いてあった案内状を勝手に持ち出し、いつもの行きつけの店で盛大に配っていた。
「Mが個展するから、見に行ってやって~」
わたしたちももらったが、全くいい気分がしなかった。

Mさんが来てほしい人にだけ案内を配っているのに(個展とかMさんに興味のない人もいるだろうし)そこら辺にいただけの人にMさんの意向も関係なく勝手に案内状を配っていたから。
しかも、自分が行くとかではなく「見に行ってあげて~」とは?
案内状を作るのにもお金がかかっているのに、勝手に持ちだす時点で泥棒なのでは?

MさんにはDが勝手に案内状を持ち出して配っている件を告げ口した。
(わたしたちはDに個展のことは秘密にしてるよ!)
Mさんはすでに状況を把握していて、「アイツ勝手なことしてやがるんだよ」と怒っていた。

MさんにはDに誘われてよく飲みに連れ出されたりはするけど、Dについては「なんだかなぁ」と思っている、という話をした。

その後いつもの行きつけの店に行くと、それまで少しよそよそしい感じのあった他の顔なじみの人たちがちゃんと絡んでくれるようになった。
Dとべったりだったので一味と思われ敬遠されていたようだ。

わたしたちも段々Dと目を合わせなく、よそよそしく接するようになっていった。

すっかり行きつけの店の顔なじみから相手にされなくなったDは、それでもお店に来て一見さんに調子よく絡んでは、今日も大声で楽しそうに飲んでいる。

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