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舟状骨骨折(後編)

さて、ようやくですが舟状骨骨折の後編です。後編では舟状骨骨折と診断された後の治療方法についてお話していきたいと思います。

骨折といえば、治療はギプスでの固定(保存療法)手術かが思い浮かぶかと思います。これは舟状骨でも同じです。

舟状骨骨折は治りにくい?

舟状骨骨折は治りにくいと言われるのはご存知でしょうか。舟状骨に流れる血流が少ないことが理由です。血流がない部位で骨折を起こしてしまうと、骨癒合が見られず骨折部位が偽関節(骨癒合の過程が完全に停止した状態)になったり、骨吸収/骨壊死が起こる可能性が高くなります。

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上の図のように舟状骨は手首側から近位腰部遠位と大きく分けて3部位に分けられますが、下の画像は右手の橈骨と舟状骨への血管の流れを表しています(橈骨動脈は手首で脈をとるときに触れる血管です)。

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左: 掌側 右: 甲側

舟状骨に注目していただくと遠位には血管が通っていますが、近位にいくほど通っていないのがお分かりいただけるかと思います。つまり、遠位では骨癒合の確率は高くなりますが、近位になるほど骨癒合は見込まれにくくなってしまいます。

保存療法

舟状骨骨折の場合、血流の多い遠位部での骨折や、不全骨折(ヒビ)であれば通常はギプス固定の保存療法となります。舟状骨のギプスでの固定は、トップ画像のように親指から前腕、もしくは肘上までしっかりと固定する必要があります。

舟状骨骨折で多いのが腰部の骨折ですが、腰部骨折の場合、先程も述べましたが近位部に近づくほど血流は悪くなり骨癒合の確率は下がります。

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これは骨癒合の確率を表していますが、腰部では90%~60%程度の確率で骨癒合は行われるとの報告もあり、骨のズレなどがない場合は保存療法になることが多くなります。近位部でも遠位に近ければ保存療法で治癒する可能性はありますので、まずは保存療法を試すこともあります。

保存療法の場合、最低でも6週間は固定が必要となりますが、血流の少ない場所であれば固定の期間は数か月に及ぶ可能性も高くなります。骨癒合が順調に行われているか、骨吸収が起こっていないかなど、定期的にレントゲンで経過を観察する必要があります。

外科的治療(手術)

固定での保存療法ではなく手術になる判断基準とはなんでしょうか?

これは舟状骨に限ったことではありませんが、骨折によって骨の隙間ズレが生じている、骨折部位に不安定さがある、骨折した部位が関節に関連しているような場合です。

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上の画像は舟状骨のCT画像ですが、骨折部でズレが生じています。このような場合手術で正しい位置に戻して特殊なネジやピン、プレートなどで固定しなければいけません。

舟状骨では、骨折部が血流のほとんどない近位部、腰部で保存療法を行ったものの骨吸収(骨壊死)が見られる場合、骨癒合が長期にわたって行われず偽関節化している場合にも外科的治療が適応となることがあります。このようなケースでは、多くは骨移植をした上でネジで固定する手術法が用いられます。移植するための骨片は、腸骨(遊離腸骨移植)や、橈骨の手首付近から血管ごと(有茎血管柄付き骨移植)などが一般的です。

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こちらが骨移植術後のレントゲン画像です。舟状骨のような小さな骨を固定するのに特殊なネジが使われているのがよくわかります。

保存療法であれば6週間~数か月間のギプス固定が必要ですが、手術で固定すればギプスでの固定期間やスポーツ復帰までの期間が、少しですが短くなる傾向があります。仕事やスポーツに早く復帰したい場合などは、早い段階で手術に切り替えることもあります。

まとめ

舟状骨骨折の場合、特に近位であればあるほど、頻繁に経過を観察する必要がでてきます。骨移植術後、順調に骨癒合が見られていたのに途中で骨吸収が始まってしまった、というケースも今までに見てきました。どのような治療方針をとるのか、保存療法から手術に切り替えるタイミングなど、手のスペシャリストである手外科の医師の診察はどこかで必要になってくるのではないでしょうか。

最後になりましたが、忘れてはならないのが骨癒合が見られて固定が取れた後のリハビリです。治療法に関わらず、固定によって手首と親指の可動域や握力などの筋力は著しく低下してしまいます。日常生活レベルに戻すのはもちろんですが、運動選手であれば手首に大きく負担のかかるスポーツもあります。元のパフォーマンスレベルに戻すためにも、リハビリは軽視できません。

長々と3回にわたって舟状骨骨折についてお話しさせていただきましたが、どのようなスポーツでも(日常生活の中でさえも)起こりうるこの骨折が特殊だということが、伝わりましたでしょうか?

手首を着いた後に手首親指側に腫れが出たり痛みがなかなかひかない場合は、「捻挫だろう」と高を括らず、整形外科で受診するようにしてください。

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