私と雨と彼

強い雨が打ち付けてくる。傘に大粒の雨がぶつかり大きな音を立てている。風に煽られながらも、私は笑顔を作った。雨が斜めに入り、傘の柄を濡らす。何歩か歩いて、傘の柄を強く握った。

「雨すごい強いねー?!」

大きな声を出して私は隣を歩く彼に話しかける。普段はあまり大きな声が出せない私も、今日は強い雨で他の音が聞こえにくいためお腹に力を入れて声を出した。ただ単純に雨が楽しくて大きな声が出ていたのもあったかもしれない。
私の笑顔とは反対に、彼は怪訝そうな顔をしていた。まるで雨を恨んでいるかのような声を出す。

「本当。強すぎ。」

雨が楽しくなる歌でも歌おうかと思い、歌詞を思い出していた私の表情が引き攣る。

「うん、ね。最近雨多いよね。」

ウキウキしていた気持ちが落ちていくのがわかった。この傘のように私の心も強い雨に打ちつけられ、落ち着けと怒られている気分だった。一瞬で歌を歌う気分ではなくなった。

「うわっ」

足が水溜りを踏んでいた。靴の中が一瞬で濡れて靴下が足に張り付いた。
それは彼も同じだったようで、後ろ姿しか見えなかったが彼の表情が曇ったのがわかった。

水溜りを必死に避けながら歩く。
もうあの頃みたいに、水溜りに自ら近づいたり蹴ったりする年ではないんだ。
雨の中を歌を歌いながら歩くような年ではないのか。

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夏の思い出

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