玉三郎さんの美しさに魅せられて33歳。
19歳の時、私はNHKのゴールデン帯で放送されていた、ある学園ドラマに出演していた。
その頃、私はまだ作家ではなくて、ひとりの新人女優だった。
そこで、あるベテラン俳優さんと仲良くなり、休憩中に色々なことを話した。
ある時、何かの話の流れで、その俳優さんから
「いいか、お前。人生のどこかで必ず、歌舞伎を観ろよ」と力説された。
「はぁ。歌舞伎ですか」。
そう応えながら私は、内心「正直、興味ないんです」と思った。
しかし、そんなことは恐れ多くて言えなかった。
かまわず、その俳優さんは言葉を続けた。
「できれば、玉三郎さんが出ている歌舞伎を見ろ。あのな、上手く言葉に出来ないけれど、本物の美しい女性にしか見えないから」と。
歌舞伎の世界では男性が「女形」といって女性を演じることくらいは、当時の私でも知っていた。
しかし、その俳優が仰る言葉の真髄が19歳の私には理解できず、「だから、どうだと言うのだ」と思った。
結局、その時は、その先輩俳優さんの言葉は何も響かなかった。
しかし、なぜか頭の片隅に「バンドウ タマサブロウ」さんという言葉だけが、しっかりとフラグとして刻まれた。
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