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人間は、人を助けるようにできている

一時間ほど、堂々巡りの話に付き合った。

相談事というのはたいてい背中を押して欲しいだけなので、
話をしたいだけ話してもらって、
どこら辺が決めどころなのかを探し出す必要がある。

そこが相手の思惑と合わなかった時に、
こちらの話を組み立て直す必要に迫られる。

そういう時は敏感なので、
こちらの心も読み取られてしまわないよう
誠心誠意向き合う必要も出てくる。

でも、疲れる。

「ともかくあの先生は立派なのよ」

その病院のお掃除のおばちゃんは、息も継がずに関西弁風味で話す。

「あちこちの病院で稼いでお金たまったら、
ベトナムに行って、ただで手術するんだってよ~ただで。
たまに来るんだよ。あそこに本があるから読んで見な」

おばちゃんは三角巾で髪をまとめ、モップを抱えたまま教えてくれた。

モップを足で踏んで、床をこするようにして
「こうすると汚れが取れるのよね」と笑うので、
「分かります、分かります」と同意した。
なんていうこともない、笑いが混じる会話は癒されることがある。

時々やってくるバイトのような先生の話を聞いて、
人とのつながりは面白いものだと思った。

アジアのノーベル賞といわれるラモン・マグサイサイ賞を、
2022年に受賞された服部匡志先生の本のことだった。

2002年以降ベトナムでの無償の医療活動によるものだったが、
本ではベトナムの僻地や貧困の状態、
現地で日本の医療を行う事の難しさ、
まだ若い医療者への教育の難しさのことの合間に、
家族にかける苦労のことも綴られていた。

2007年にはベトナム政府による「人民保健記念賞」
2014年には外国人に贈られる、最高位の「友好勲章」を叙勲された。

父親の入院で医師から心ない言葉を投げかけられる。

ベトナム人医師から招待を受ける。

ベトナムでは自分の手足となってサポートしてくれる若者がいる。

活動を見守ってくれる家族がいる。

心を動かし、行動している人には必ず誰かが応援に回る。

誰かが困っていたら、助けたい気持ちが湧き上がってくるものだし、
目の前に死にそうな人がいたら、手を握り締めたくなるのは
人間の素直な心の反射だと思う。

「あの人は運がいいね」とクールに語る人もいるけれど、
行動しなければ、その運すらついてこない。

本の中では、男の子が視力を取り戻して父親とともに
家に帰っていくくだりが、とても印象的だった。

一度でも人に対してのそういう喜びを感じることがあれば、
もうそれは習慣になってしまい、行動を続けるしかないのだと思う。

やるかやらないかではなく、
どのように上手くやればいいかに心の動きが変わっていく。

人間は支えあうようにできているのだから、
そこを深く考えることは時間の無駄だと思う。

「服部匡志」とサインされたその字は、
こじんまりとまとまった、読みやすい文字だった。

まるで真面目な中学生が書き込んだような。





 


 

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