今なら何でもできる気がする

2018.12.21(金)

この一ヶ月近く、ずっと鼻がつまりっぱなしだった。
鼻がつまっていると何も楽しくない。

私は体調が悪いときは沢山食べて治そうとするタイプなのだが、鼻がつまっていると驚くほど味がしない。匂いからの情報が無いだけでなく、甘味や酸味すらも鈍くなる。
並んでまで食べた二郎系ラーメンも、モヤシのシャキシャキした食感のみを救いに食べるしかなかった。

鼻がつまっている中での食事も楽しくなかったが、それよりも苦しかったのは、生活する上で匂いがしないことだ。
冬が近づいてきたはずなのに冬の匂いがしない。
近所の家から夕食の匂いがしない。
花屋から花の匂いがしない。
使った後に干し忘れた傘から干さなかったことを後悔させる匂いがしない。
朝の路地裏から夜を想像させる匂いがしない。
山手線の終電から疲れた人達の匂いがしない。
私の枕からここ数年気になっていた加齢臭らしき匂いがしない。

今まで嗅覚の重要性をそんなに感じたことがなかったが、嗅覚が鈍ると、まるで生活から色が消えたようだった。
私は動物や誰かに触れたりすることも無い。匂いが消えたソレはすべて作り物のように思える。
作り物に思える物だらけの中で過ごしていると、私が本当に存在するのか、そんなことすら不安になった。

鼻がつまっている間、思考は自分でも引くほど暗くなり、何をやろうとしても手がつかなかった。

そんな中での今朝。
起きた瞬間、枕が臭い。
めちゃくちゃ臭い。
めちゃくちゃ嬉しい。
生活に匂いが、色が戻ったのだ。
すぐにバイトに行かなければならないのに、嬉しすぎて、何度も枕の臭いを嗅いだ。ちゃんと臭かった。

もうそれからは一日がパラダイス。

バイト先の飲食店で卵を焼く匂い。なんと優しく愛おしい匂いだろう。思わず焼きたて玉子に頬ずりしたくなる。
擦れ違う人の香水が好きじゃない匂いだろうが、公衆トイレが異臭を放っていようが、めちゃくちゃ愛おしい。めちゃくちゃ嬉しい。

今日という一日があっという間に過ぎていった。
匂いがある生活、めちゃくちゃ幸せ。
今なら本当に何でもできる気がする。

やることも無いが、こんなに何でもできそうな状態で家に帰るのは、すごく勿体ない気がして、夜の街をぶらぶら歩いていた。
すると、今日は年末ジャンボ宝くじの販売最終日。
すごい行列だったが、今日は並ぶのも全然苦じゃない。近くに並んでいる人の匂いを嗅ぎながら、その人がどんな生活をしているのか想像していると、あっという間だった。
宝くじをバラで5枚だけ買った。

多分だけど、当たる気がします。

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