神輿をかついで一緒に遊ぼう(ロングコートダディ単独ライブ2020「たゆたうアンノウン」感想)

 友だちから「飲みに行こう」でも「この映画観よう」でもなく、「遊ぼう」と誘いのLINEが来るのは、ちょっとめずらしくて、何やらうれしい。結果として飲んだり映画観たりになったとしても、「遊ぼう」という言葉自体にわくわくする。
 ていうか「遊ぼう」ってよく言ってたの、何歳までだっけ? 小学生くらいまで? 「明日遊べる?」とか、「今日遊ぼー」とか。毎日あんまり予定がなかったから、「遊ぶ」とかいう漠然とした内容で友だちの時間をブロックするのが許されていたのかもしれない。それで校庭で鬼ごっこも、家でシール交換も、全部「今日●●ちゃんと遊んだ!」という認識に収束していた気がする。
 約束した時に「遊ぼう」という言葉を使っていないからか、最近は、友だちと、たとえばいかにも遊びっぽく、家でゲームをしたり、ディズニーランドに行ったりしても、なんか、「遊んでいる」とはあんまり思わない。「ゲームした」とか「ディズニーランドに行った」とか思う。
 だから、「遊ぼう」から始まって、何をしたにせよ、それを「遊んだ!」と心にとどめるのって、なんかいいなあと思う。ぼんやりした憧れがある。

 ロングコートダディの単独ライブ2020「たゆたうアンノウン」は、そういう、大人になるとあんまり出会えない、遊ぶこと、遊びをたっぷり味わえる時間だったと思う。
  アバンになっている「密葬」というコントでは、「密」が大好きな故人(兎さん)のために、喪主の未亡人(堂前さん)は棺を神輿で、参列者でぎゅうぎゅうになって火葬場まで運ぶと言う。「(火葬場までは)神輿ですと約60分で到着いたします」とのこと。
「皆さまどうか、60分間のお付き合い、どうぞよろしくお願いいたします」という未亡人のオチの台詞が、「さあ今から60分一緒に遊ぼう!」という堂前さんからの呼びかけに聞こえた。私たちは棺をのせた神輿をかつぎ、オープニングが流れ始めると、16ビートのハイハットが響く「CAN YOU FEEL IT?」(Yogee New Waves)にのって、軽やかな足取りで歩きだす。

 そこから60分間、いろんな遊びの連続。

 「相性の話」では、「お寿司を食べる」という約束がボツになっても、「近くになんかないか調べてみるわ」「じゃあおれ遠く探すわ」と言いあって、あくまで一緒に遊ぶことが既定路線になっていた。
 兎さんが堂前さんにむかって「もちろんさ 友だちでおりたいけどさ 友だち無理かも……」と泣き出した時、(もちろん友だちでおりたいのか!)と思ってきゅんとした。

 宣材写真の兎さんを絶妙にキモく加工したり(幕間V:宣材写真)、施術の途中で帰ってしまった常連客を美容師が慣れた様子で家まで呼び戻しに来たり(「お家でまったり」)、非常に重大な事項をいちいちあみだくじで決めたり(幕間V:あみだくじ)(ところで、堂前さんの「はーい結婚するう~」が心底かわいくてやばかった。好感度の解像度が高すぎる)、部下全員に変なあだ名をつけたり(「業績発表」)、マユリカの漫才をなんか妙な形式で見せてきたり(幕間V:マユリカ)。

 ずっと遊んでた。楽しそうだったな~。

 表題作のロングコント「たゆたうアンノウン」は、想像力が豊かすぎるアーティスト想馬さん(兎さん)と、家賃の取り立てに来た大家の息子(堂前さん)が、一緒に遊んで、仲良しになるまでのお話だった。
 二人が徐々に打ち解けていくのがめちゃくちゃほほえましい。
 想像の飼い犬・アンちゃんを猫かわいがりする想馬さん(つまり虚空を撫でまわしている)。最初はそれを怪訝な顔で見ていた大家の息子が、ついにアンちゃんを撫でるのに成功したとき、二人が同じ想像を共有して遊べるようになった! とものすごくうれしくなった。なぜか分からないけど、二人が一緒に楽しく遊んでいるのを見ていると、とてもうれしい。

 ラストシーンでは、想馬さんと大家の息子が「すき焼き」を囲む。これも想像のすき焼きだから、テーブルの上には何ものっていない。でも二人とも、実物のすき焼きを前にしたときと同じように顔をほころばせて、「取り皿」に「卵」をわり入れたり、大きな口を開けて「すき焼き」を頬張る。すき焼きの高揚感がひしひしと伝わってくる、あたたかい場面。
 なんか、ちょっと泣きそうになった。素敵すぎて。というか、本当はどうしようもなくうらやましくて、切なかった。

 舞台の幕が下りれば、私は一緒にかついでいた神輿を下ろして、もとの生活に戻る。あんな風に誰かと遊べることって、今後あるんだろうか? 私の人生で。
 いいなあ。まだもっとまだ遊びたいのになー、という友だちと遊んだあと別れる時の、あの心持ちみたいになってきて、そこに「もう終わりなの まだ踊ってたいのに」(Climax Night/Yogee New Waves)という歌が聞こえて、もう、脳内が夕焼け。実際、夕焼けをバックに友だちと別れたことなんてない気がするけど。概念としての夕焼け。

 まあまあまあ。ひとまず友だちに「遊ぼう」ってLINEしよう後で。
 とりあえず今日は∞ホールに「マジでネタしてガチで遊ぶねん」を観に行く。ロングコートダディが遊んでるところを見ると、なんかうれしくなるから。


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