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丁寧な指導とその逆の指導

人は丁寧に教えてもらうとダメです。
すぐに忘れるし、本当に自分のものにはなりません。
自分で苦労して失敗して気付いたことは、絶対に忘れん。
  錦帯橋の平成の架替えに棟梁として関わられた海老崎粂次さん

僕の故郷は山口県の岩国市というところです。
山口県は本州の一番西に位置する県なので、位置を知っていてくれる方は比較的多い都道府県ではないかと思います。
その山口県に東側に隣接するのが広島県。
川の向こうは広島県、という県境にあるのが岩国市です。
米軍基地や自衛隊の基地があり、アメリカ人や自衛官の方が多い土地柄で、れんこんの産地です。
岩国市はどういう事情か白蛇(しろへび)の多い地域らしく、白蛇神社という珍しい神社もありますが、ダントツ一番の観光スポットが錦帯橋(きんたいきょう)です。
名前は知らなくても、日本に住む人なら一度はテレビとかで見たことのあると思われる特徴的な五連のアーチ橋。
ビジュアルだけでパンチ力十分な橋ですが、本当の凄さはフル木造建築である点です。
最初に架けられたのは江戸時代で、城下町の商人・町人が住むエリアと、役人・武士が住むエリアとを隔てる機能があったようです。
橋の架かる革は錦川(にしきがわ)と言います。
組み木の技術を使った精緻な構造の橋ですが、水の近くにある木造建築であるがゆえ、定期的な架替えが必要です。
今、架かっている橋は江戸時代のものではなく、平成に行われた大規模工事でのものです。

冒頭の引用は「くるとん」という地元の出版社さんが2014年にレポートされた記事からです。
僕が高校生の頃、ボーイスカウト活動の一環で、錦帯橋の架替工事に造詣の深い海老崎さんにインタビューをしたことがあります。
その時にお話した海老崎さんは、冒頭の引用の海老崎さんのお父様。
その口調には地元なまりが濃く、高校生だった僕には読解が少し難しかったです。
職人気質の厳しい方というより、人間的な温かみのある方だったようにうっすらと記憶しています。
相手が一般人の高校生インタビュアーだったからでしょうね。
そんな先代の海老崎さんですが、対職人、特に次の時代を引き継ぐ自らの継承者に対しては、むしろ厳しかったのでしょう。

指導のスタイルは「褒めて伸ばす」が常識になっている現代ですが、丁寧な指導があだになるケースは今でも起こるのかもしれません。
「褒めて伸ばす」の常識は、心理学がその根拠だと聞いたことがあります。
そのロジックが正しいのは、色々なスポーツ競技で、今も新しい記録が生まれ続けているが証拠なのだと思います。
「褒めて伸ばす」をベースにしつつ、「自分で苦労して失敗して気付いてもらう」という手法も織り交ぜるのが、正しい指導の姿かもしれませんね。

レポートのそのままの文章を書き写すのは避けますが、大切な情報は口伝(くでん)によって継承されたと海老崎さんは語られたそうです。
しかも、
「何にも教えてもらわんかったし、こっちからも聞きもせんかったよ」
とも答えられています。
口伝えでの情報の授受、しかも実際は、口頭で何かを教わったり教えをリクエストしたわけではなく、実際に言葉がやりとりされたわけではない。
レポーターさんは「無言の口伝」とレポートを締めくくられています。
"ハイコンテクスト"という情報伝達かもしれませんね。
雰囲気から五感で状況を知り、学ぶ。
言語情報が制限された状況でも、アンテナを張っている人は、たくさんの情報に気づくことができる、本当に大切な何かの伝達って、そういう一種のテレパシーのようなもので授受されていくのかもしれませんね。

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