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ガタン、ゴトン

とある日、「この中にいる人の人数分、感情があると思うと怖くならない?」そう言葉にしたら、ほんとうに怖くなってしまって恋人の手をぎゅっと握りしめる。握り返してくれた手は少しゴツゴツしていて、私はそれが大好きだった。あと何駅?と問うて、すぐだということを確認する。大丈夫、大丈夫、と頭の中で唱える。

別の日、各駅停車に乗る。いつ、何時でも降りられるように。本に綴られた文字を眺める。頭になんて入ってこないから、眺めるだけ。それでも優しい手触りに安心する。最近は、本は半ばお守りのような物になっている。ありがとう、いつも、いつも。



別の日、窓に映る自分を眺める。自分を見ているはずなのに、視界に、脳内に映る周りの人間たちはずうっとスマホを手にしている。「そうしていないとおかしい人だと思われるんだよ。」と好きな芸人さんが話していて、へえ、そうなのか、とぼんやりと思った。思うだけだった。隣にいる俳優さんは、「それでも風景を見ている方が好きなんだよ。」と話していて、分かる、分かる、と思う。

 

別の日、電車に乗った方が速いと思いながらも、余り気分が乗らず電車に乗ろうか、少し時間が掛かる、バスに乗ろうか悩む。結局、ふらふらと歩いて辿り着いたのは、最寄りのバス停。私はバスが好きだ。多分、バスは人と向き合うことがほぼ無いから。まあ、立っている時は最悪だけれど。自分は余り力がないから、運転が荒いおじさんのバスだとフラフラしてしまう。座っていられるなら、バスが好きだ。

私は、一番バスが好きだ。

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