intro





散らかっていたり 物が溢れてしまっている部屋を 整理整頓するとして 無重力であった方が楽だと思うよ 都合のいい程度 優しく遠慮深げに重力は働いていて 空気の持つ浮力との塩梅の中でゆらりと中に浮いている いつものソファー カップ 他にカウチ テーブルにスツール 各種の棚 その中のカトラリが飛び出すことはなく少し浮いたところで揺れている ようなことをね 君の心の中でする訳 いつもの重力が働く世界では重くてそこから動かせないようなものを 底面から引き剥がして 引き剥がすという努力も無しに指先で押して 緊張無くすいと動かし それがそうであるべき場所に戻してしまうか 必要になりそうならクローゼットに格納しておいたり 不要であるなら窓の外から放り出してしまおう ここは地上六千階くらいにある塔頂の一室 またはマリアナ海溝の底にある地球工学の研究室 または何処でもいいそこではない何処か にあったはずの君の一部屋 に今二人して揺られている訳 まずはどれからどうしてしまおう 君のレシピとメニューに従おう 意識の流れが必要ならば口笛を拭いてあげるさあ でも待ってその前に一つね 忘れて欲しくないことがあるんだ 覚えていて欲しいこと それは重力について 重力は必要であるということについて これが終われば君の足はこの部屋と惑星の底面に接地して 君一人分の重力を支えなければならないということ と それによってこそ君は踏み出し 駆け出し 飛び出すことができるということ いつでもこのような無重力に帰ってくることは できるかもしれないけれどしかし アトランダムやナンセンスによっては旅も生命も起こり得ないということを 今もう一度だけ思い出して欲しいんだ いいかな いいよね じゃあ始めようか










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